*22*
朝から鼻歌が止まらない。それもそのはず、今日は待ちに待ったお祭りの日だ。お祭りは夜の6時からなのだが、なぜか2時間前にある場所に来てほしいとメールが来ていた。だから今、朝貴はその指定の場所に向かっていた。携帯とにらめっこしながら、ようやく着いたその場所には、一軒の豪邸があった。どうやらお金持ちの家らしい。現代風の造りだが、厳重そうなセキュリティーのある門、三階建ての大きな家。思わず朝貴は口をポカンと開けて見上げていた。
「こ……こんなところで……何するのかなぁ……というか、ほんとにここ?」
間違いではないかという思いがわきあがるが、どう見ても住所はここなのである。朝貴はためらいつつもインターホンをおした。すると中性的な声が聞こえてきた。女の人のようでいて、男の声にも聞こえる。
『ふふふ、朝貴君……だっけ?待ってたよ。今開けるから中入ってきて』
「え……あ……はい」
すると、自動的に門が開き朝貴はそこから中へと入った。数段の階段を上り、玄関へと着く。ドアノブに手をかけて開けると、ドアはすんなりと開いた。どうやら事前に開けていたらしい。玄関もこれまた広く、壁には西洋風の絵画、置かれた靴箱の上には高そうな置物や大きな花瓶が置かれていて、玄関に花のかんばしい香りが広がっていた。
「いらっしゃい。そして……はじめましてだよね?」
家の奥から現れたその青年は朝貴より少し年上のようだった。きれいな前わけの黒いショートヘア、ややたれ気味の黒い瞳。やさしくほほ笑んでいるその青年は玄関であたりに見とれていた朝貴の方へとやってきた。
「は……はじめまして、北條朝貴です……あの……」
「そか、僕は君の事知ってるけど、君は僕の事聞いてないんだっけ淳から」
「青葉先輩?」
「ま、とりあえず上がってよ。こんなところで立ち話するのもあれだしね。紅茶とお菓子あるからリビング行こうか」
「は……はい」
青年の後に続き朝貴はリビングへと向かった。落ち着いた感じのインテリアで統一されたそこは時間の流れさえゆっくりになったような感じがしていた。そして青年の言うとおり、そこにあるソファセットに紅茶と焼き菓子が用意されていた。青年はソファに腰かけると朝貴にも座るように促した。ふんわりとしたソファに、朝貴は戸惑いつつも座った。琥珀いろのきれいな紅茶がティーカップに注がれる。ミルクを注ぎ入れさらにそこにシロップを入れる。出来上がったミルクティーを朝貴のほうに差し出し、自分用にストレートティーを入れる。
「見かけどおりの甘党なんだって?ケーキとジュース一緒に食べちゃうような」
「そ……それも青葉先輩情報ですか?」
「ううん、こっちは清桜。甘さ足りなかったら言ってね、シロップいっぱいあるから」
「いただきます。……お……おいしい。この紅茶すっごく美味しいです!!」
「そうよかった。淹れたかいがあったよ」
「え……これ……」
「うん、僕が入れたの。このお菓子も僕のお手製。よかったら食べてね」
な……なんなんだろう。このすごい何でも出来ちゃう人は……。
「あの……あなたは……」
「あ、まだ名乗ってもなかったっけね。僕は三王静香一応三年生ね。よく一年だろって言われるけどさ。失礼だよねぇ、背も低くないのに。で、淳とは付き合ってます」
「……………………はい?」
「んふふふ」
あれ……今なんか変な言葉きいたぞ。淳とは付き合ってる?淳=青葉先輩。付き合ってる=恋人……。
「あの……三王先輩……」
「静香でいいよ?」
「……静香先輩……。静香先輩が……青葉先輩と付き合ってるなんて僕の幻聴……」
「マジだよ」
マジですか!!いやあああああああ!!何この予期せぬ対面!!そりゃ少し興味あったけどさ!あの青葉先輩の彼氏(あれ……彼女さん?彼氏さん?)……恋人ってどんなかなって思ってたけどさ……。うん、きれいな人だね。ちぎゃああああああああ!!
「くすくす、大丈夫?」
「頭パンクしそうです……」
「純粋無垢って感じ?かわいい」
「かわいくなんかないですぅ!」
「で、話を元に戻すよ。今日家に来てもらったのはね、ちょっと着てほしいものがあったからなんだよね」
「着て……ほしいもの?」
「そう、こっちこっち!」
そういって、奥の方へと移動し朝貴を手招く静香。朝貴がそのほうへと行くとそこには小さな和室があった。そしてそこにきれいに並べていたものは、朝貴にとんでもない衝撃を与えた。
というわけで、淳の恋人ようやく登場。
名前だけは前に少しだけ出てましたが、こうして実際に本人がでてくるのはこれが初めてです。出来るお兄さん系をイメージしてますが、どうなんでしょう。
料理も裁縫も勉強もできるんです。
ちなみに彼氏でしょうか彼女でしょうか?
実はどっちにするか迷ってます。
でも多分、彼女さんのほうでしょう。彼女って言っていいのかどうなのか……