*20*
相変わらず私の書く季節感無視のお話にお付き合いくださりありがとうございます。
まだ終わりは見えませんので、これからもよろしくお願いします。
明くる朝。朝貴は河合とともに、実家のとある部屋の前に立っていた。朝貴の顔はどこか浮かない。青ざめてすらいる。
「帰りたい……」
「どこにですか……? 」
「あの人がいない世界にでも……」
「現実と向き合ってください」
向き合いたい。だが身体が、精神がそれを拒む。あの人の事は恐らく、生理的に無理なのだろう。受け付けること、受け入れること。それらは今後ありはしないだろう。
朝貴は一度だけ深呼吸し、目の前のドアをノックした。朝貴の家は古風な日本家屋だが、あの人がここを支配しはじめてからリフォームされ、内装が和洋折衷となっていた。あの人の書斎は洋風で、この家で一番広い。中から返事が聞こえてきた。だがそれはあの人本人のものではなく、あの人のお抱えの執事だ。朝貴は意を決してその中に入った。
「朝貴です。昨日学校から帰宅しました。昨日はお忙しそうだったため、挨拶が遅れすみません…………お母さん……」
するとあの人−−母親は書類から顔を上げ朝貴を見た。そしてにこりと微笑んだ。
「お帰りなさい。ごめんなさいね、昨日は。あまり元気がないように思えるけど……」
「いえ、気にしないでください。ちょっと暑さでバテ気味なだけですから……。あの、僕お仕事の邪魔になりたくないのでもう部屋戻ります」
「ゆっくり話したいのに……ごめんなさいね」
「気にしないで……ほんとに……」
最後に朝貴はややはにかんで、そのままその部屋を出た。ドアを後ろ手で絞めた途端、朝貴はその場にひざを抱えてしゃがみこんだ。河合がかがんで背中をやさしくたたく。朝貴は声を押し殺して泣いていた。
「ゆ……朝貴君」
「なんでかなぁ……。決めたのに……。自分でさ……決めたんだよ。それなのにさ……あの人、相変わらずなんだもん。こんなこと…してる意味わかんなくなってきたよ……」
ある意味優しくて子供思いの母親に映る先ほどの母親。だが、朝貴はあの人を好きにはなれない。
「やっぱさ……あの人は……僕なんか見てないんだなって……改めて思った……笑ってたよ。あの人。僕に笑いかけてた。それだけで十分……僕を見てない理由になる……ううん……僕なんか最初からいないことになってるんだ。あの人の中でじゃ」
「そんなこと……ないとはいえませんね」
「ん……」
河合は、いったん否定しようと思ったが、あえて肯定した。朝貴のことを考えてのことでもありそれに肯定することがあながち間違っていないからだった。あの母親はこの子のことを何一つ見ていないのだ。それ以上に存在すら認めてはいない。だからこそ、朝貴の言い分はあっているのだ。
「部屋に戻りましょう?お夕飯用意させますから、朝貴君の好きなの言ってください」
「……ハンバーグ……」
「わかりました。さ、いつまでもこんなところにいたくないでしょう? 」
「うん…」
ゆっくりと立ち上がった朝貴は、河合に背を押されながら、自室へと戻っていった。
朝貴に優しく接していた母親と朝貴の関係とは?
徐々に明かされていく朝貴の過去。わかりやすく文にできるよう頑張りたいいです。