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魔法でGO

作者: WAIai
掲載日:2026/11/04

少し雪が降る朝、細山真は人を待っていた。

手袋をしているが、冷蔵庫に入っているかのように冷たいので、息を吹きかける。

皆、家にこもっているのか、外で立ちつくしているのは真のみで、リュックを背負い直す。

歳は20代、厚手の格好をしており、雪だるまみたいに丸々として見えなくもない。

「ーおーい。待った?」

待ち人ー阿部貴之がやって来て、真はほっとする。

手を上げると、

「待った。全く寒いのに、俺を待たすなんて」

と文句を言う。

吐く息は白く、自然の美しさに触れているようだった。

真は側にやって来た貴之を見つめる。

端正な顔に、オシャレな格好。

自分もセンスは悪くないのだが、女だったら惚れているよなというタイプだった。

「よし、じゃあ行くか」

「その前に」

真は手袋を何故か外すと、手を差し出す。

「魔法のハンドクリーム、ちょうだい」

「分かった。えっと…」

貴之はリュックからハンドクリームを取り出す。

赤いパッケージで、彼は気軽な様子で渡してくる。

真は受け取ると、蓋を開け、手の甲に出す。

一見、何の変哲もないハンドクリームだが、塗り始めると、身体がかあっと熱くなってくる。

まるで夏の陽気の中にいるようで、貴之にハンドクリームを返す。

「サンキュ。うわ、熱」

真は手で顔を扇ぐのだが、冷たい風は避けるように、通り過ぎていく。

ー便利だよな。ホッカイロを使うよりも、熱いもの。

ほうと息を吐き出すと、貴之がリュックを背負い、言ってくる。

「じゃあ、行きますか」

「おう。俺に任せておけ」

真は親指を立て、にこりと笑うと、ダウンジャケットのポケットから、あるものを取り出す。

それはファスナーで、真が手を放すと、何と宙に浮いて真っ直ぐに伸びる。

その長さは真の身長より少し長く、ファスナーに手をかける。

「よし行くぞ」

「楽しみ!!」

真がファスナーを開くと、宙が裂かれて入り口となる。

2人は気にせず、中へ入って行くと、遊びたかった場所へたどり着く。

「よっしゃ!! 着いたぞ、USJ!!」

「やったあ!! 遊びまくるぞ!!」

貴之も興奮し、軽くジャンプする。

真の身体はぽかぽかで、頬が赤くなっている。

「魔法のハンドクリーム、すごいな。ずっと熱いままだ」

そう言うと、貴之が胸を張ってくる。

どうやら彼も塗っているようで、2人とも寒いとは言わなかった。

「さて、閉めますか」

真がファスナーに手をかけると、ゆっくりと閉めていく。

すると急に普通の縄のように崩れ、両手で受け止める。

「誰にも見られていないよな?」

「うーんと、大丈夫。早くしまえ」

「おう。…ありがとうな、魔法のファスナー」

丸めてリュックにしまうと、優しく背負い直す。

ー行きたい場所に行けるんだから、便利だよな。

魔法のファスナーを知っているのは、貴之くらいのもので、他には誰も知らなかった。

それだけ貴之のことを信頼しており、双子みたいに濃密な関係だった。

「こっちは晴れているんだな」

貴之が空を見上げ、ぼそりと呟く。

真も空を見ると、灰色の雲に押されつつ、太陽が弱い光を放っていた。

まるで邪魔するものに負けないように、手を伸ばしているようで、真は何となく手を上げる。

「どうした?」

「うん? 何となく太陽が淋しそうに見えて」

「太陽が? …うーん、まあ、そう言われれば、確かにな」

孤軍奮闘しているようで、頑張れと応援したくなる。

それが伝わったのか、風が吹いてきて、涼しさを与えてくれる。

ー1人じゃ辛いものな。仲間がいてくれたほうがいい。

真は貴之をちらりと窺う。

彼と出会えたから良かったが、ずっと1人で耐えてきたので、側にいてくれる存在はありがたかった。

ー何で人間は群れるんだろう? 自分を守るため? それとも一緒にはしゃぎたいだけか?

真は疑問を抱いたが、答えはない。

別に気にしないが、ふと口をついて出る。

「貴之、俺のこと、どう思う?」

「は? 何だ、急に?」

「いいから。その、俺ってどう?」

「そうだな…」

貴之は腕を組むと、ゆっくりと答えてくる。

「淋しがり屋のうさぎ」

「…は? うさぎ? 俺が?」

「そう。赤い目をして、泣きそうになっているのに、我慢している馬鹿」

「馬鹿って、あのな」

真は怒るつもりはなく、口に手を当て、考える。

ーそうか。淋しがり屋か。そうかもしれない。1人で背負っているものが多すぎるからな。

誰にも言っていないのに、貴之だけは本心を見透かしてくる。

ー淋しがり屋のうさぎは、貴之も一緒だけどな。俺達、2人でいたほうが強くなれる。

2人で支え合うからこそ、1日1日を大事に生きようと思える。

誰かのためなら、真は負ける気がしなかった。

「さて、USJに入りますか」

「ちょっと待って。写真を撮ろうぜ」

真はスマホを取り出すと、貴之を手招きし、くっつくと写真をパシャリと撮る。

すると天気がいいことあり、綺麗に撮れたのだった。

「うわ、俺らの顔って、こんな感じなんだ。かっこよくない?」

「かっこいいに決まっているだろう?」

「そうなのか。後でSNSにあげてもいい?」

貴之に確認を取ると、彼は恥ずかしそうにうなずく。

「SNSにのせるのか。恥ずかしいような、でも評価が欲しいような」

「うーん、そうだよな」

真は賛同しつつ、考える。

ー人間、評価が気になるからな。もしSNSにあげて誹謗中傷になったら困るし。大事にとっておくか。

真はスマホをポケットに入れると、貴之に向かって声をかける。

「SNSはやめておく。2人だけの思い出にしたいから」

「そうか。俺、変な顔で写っていないよな?」

「馬ー鹿。イケメンのくせに、何を言っているんだよ」

真は貴之の肩を強く抱きしめると、笑い出す。

貴之も最初は戸惑っていたが、少しずつ頬を緩ませる。

「早く遊びに行こうぜ」

「そうだな。何なら女の子に声をかけるか?」

2人はにやりと笑うと、今日1日を楽しもうとするのだった。

「まずはどこから行く?」

「えっと…」

貴之は自分の意見を強引に押しつけず、いつも真に聞いてくれる。

優しい心の持ち主で良かったと、本気で思う。

ー大事にしなきゃ。貴之を傷つける奴は許さない。絶対に。俺を認めてくれる人だから。身体をはって守る。

真は1人で決心すると、貴之の腕を引っ張る。

「入り口まで競争だ!!」

「お、そうきたか。急げ!!」

2人ははしゃいだ声を出すと、駆け出す。

熱い身体にはちょうど良く、雲を避けた太陽が、顔を出したみたいに、2人も輝いて見えるのだった。


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