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アノミー  作者: 燕
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プロローグ

 地元に帰るのは十年ぶりだった。

 十六の頃に東京に出て、そのままずっと帰らずじまいだった。

 地元にはあまりいい思い出もないし、帰る場所もない。住んでいたアパートの一室や、バイトで毎日のように通っていたスーパー。気になるのはこのくらいだった。

 当時のクラスメイト達は私をどう思っているのだろう。


 育児放棄された可哀想な女の子?

 それとも、二年間警察から逃亡し続けた凶悪な犯罪者?


 きっとどちらも当てはまっている。

 そんな私も、今は東京の小さな美容室で他人の髪を切り、小さなマンションの一室を借りて過ごしている。

 あの頃の私を知る人は今やほとんどいないだろう。

 当時はものすごい話題になったニュースだったけれど、時の流れで風化してしまった。



 ————あの二年間。

 東京の陰に潜み続け、色々な人と出会い、逃げ続けたあの時。

 きっと死ぬまで忘れないであろうどす黒くて、歪な青春の日々には、いつも隣にあなたがいたね。

 ずっと脳裏に焼き付いている。あなたの笑顔。仕草。私にささやいた言葉の数々。


 十年ぶりだけれど、私のことは覚えているのかな。

 それとももう世間が私達を忘れたように、あなたの中でも私は風化してしまった?


 私はずっと覚えていたよ。あなたとの約束を。

 今会いにいくからね。


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