思い出のアンバー
漫画にしようとして魔改造してたけど断念したパクリ小話。供養を兼ねて。
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その老婦人は、80年代の日本で一世を風靡した、魔法少女たちの内のひとりだった。
義賊スタイルの美少女怪盗で、魔法の国から奪われた魔宝石の数々を悪い奴らから取り戻す。スタイリッシュでカッコいいお姉さんとして、老若男女問わぬ人気を博していた。
犯行前にターゲットへと送る予告状には、トレードマークの琥珀の欠片が飾られている。その予告状通り鮮やかに悪を懲らしめる琥珀の輝きに、国民は喝采し、悪者たちは震え上がった。
怜悧な美貌と、少し年上な大人の魅力。魔法少女枠としては異色の存在でありながら、同じ魔法少女仲間たちからも頼られ、憧れられる存在だった。
“彼女の微笑みは百万ドルの価値がある”
そう讃えられた美少女怪盗アンバーミリオンの名前は、イメージカラーである朱色と共に、当時の視聴者たちからの絶大な支持を受けていた。
━━━━でもそれも、もはや全てが遠い昔の話。
月日は流れ、年老いた今現在の彼女に回ってくる仕事は、華やかさなど全く無い、つまらなく情け無い内容のものばかり。
浮気の調査にペットの捜索、絶版の古書集めetc.
過去の、怪盗だった頃の技能が多少は使えそうな日雇い仕事が、お情けのように組織から斡旋されてくる。自らの矜持を切り売りするような、味気ない毎日。
中には、示談金目的の事故偽装の片棒を担げ、という依頼さえあった。勿論、そんなものは受けるつもりなど無いが。
しかし将来的には、生活のため、そういう事にも手を染めないとも限らない。なにせ老婦人には、もうかつてのような名声は残っていないのだから……。
昔馴染みの海の見えるレストランで、老婦人は嘆息して、依頼書の束を閉じた。
ふと見ると、向こうに旧知の老刑事がいた。
かつて彼女を逮捕しようと情熱的なまでに執念を燃やし、追いかけ回してきていた男だった。その一方で、優れた手腕を発揮して数々の難事件を解決し、警察内でも伝説的な存在になっていたはずだ。
きっとその経歴の取材なのだろう。ニコニコ愛想笑いの若いインタビュアーに、席へと案内されている。
あぁそういえば、彼は最近、もう片方の目も見辛くなったと聞いたわ……。
手を添えられ、介護されてるような姿を目にし、寂しくなった。
老いは確実に来ている。彼にも、私にも。
老婦人は、遥か追憶の過去を回想した。全てが輝いていた、若かりし頃。
彼女は人気絶頂で、彼も新進気鋭の、才能ある青年だった。
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「いつか必ず、この手で逮捕してやる!」「うふふっ、待ってるわよ刑事さん」
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「て、手前ぇ誰だっ!」「刑事さん、どうして…!?」「そのレディは俺の大切な獲物でね。あんたらの汚い手で掴まれると困るのさ。さぁ、返してもらうゼ!」
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「あぁ、雨まで降ってきたか」「ごめんなさい刑事さん、わたしみたいな泥棒のせいで、こんな山奥での遭難に巻き込んでしまって…」「レディ、男ってのは単純でね、こんな時にいい女に頼られると張り切ってしまうもんなのさ。さぁ、冷えないようにこの上着を羽織っておくんだ。お礼?無事戻れたら、海の見えるレストランで食事にでも付き合ってくれよ」「うふふっ、それは素敵なお誘いね」
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ふたりは敵同士。かつては本気で、わたしを捕まえようとしていた男━━。
それでも互いに競い合い、語り合い、共に喜び、共に泣き、やがて、それぞれの胸に灯った尊敬の心が愛に変わって、そして……。
彼との思い出は、遠い日の記憶。
でもきっと、彼は最後まで胸に秘めて逝くだろう。あの若いインタビュアーにも、きっと言わない。
お互い、昔の事は昔だから美しいのだ。わたしはもう、あの頃のアンバーではないのだから。
老婦人は時間をかけた食事を終え、支払いのために立ちあがろうとした。
するとふと、視界の端が翳った。
?となって、顔を上げる。老刑事が、立っている。
「やぁアンバー」
光を失ったはずの目が、愛おしそうに細くなった。
「相変わらず、綺麗だね」
老婦人の胸に、様々な想いが溢れ出た。
でもそんな事、どうでもいい。腰や膝の痛みなんかも、どうでもいい。老刑事の胸に抱きつき、涙しながら、アンバーは思った。
またあのオープンカーでドライブし、朱色に染まった夕陽を見つめ、そしてそう、あの思い出のホテルで、一晩中ふたりっきりで語り合えないものだろうか、と。




