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第一章(7)

 国立美術館でテロス展が開催される。

 それが公表されれば、絵画ファンはこぞってチケットを求め始めた。


 けれども、興味のない人間はどこにでもいるもので、シオドアなんかは典型的な興味ない人間の一人だろう。

 だというのに、私とアーヴィンが共にテロス展に足を運んだという情報をどこからか仕入れてきて「王弟妃でも狙ってるのか?」と、他に人がいなくなった隙をみては声をかけてくる。


「もしかして、あなたもテロス展に誘ってほしかったのかしら?」

「ふん、誰が」

「そうよね、絵画には興味がないと、美術の時間に騒いでいましたものね」


 これ以上、話すことはないと態度で示して教室を出ていこうとすれば「おい、待てよ」と腕を掴まれた。


「何か?」

「調子に乗るなよ、この魔女が」

「調子に乗っているのはおまえのほうだろう? シオドア」


 空気を震わせるような怒気の含まれる低い声は、アーヴィンだ。


「イレーヌがなかなか来ないから様子を見に来てみれば。なぜ、そんなにもイレーヌにつっかかる? もしかして、彼女のことが好きなのか?」

「なっ……何をっ……」


 アーヴィンが変なことを言うものだから、シオドアは顔を真っ赤にしながら否定した。その姿を見たアーヴィンは鼻で笑い、言葉を続ける。


「俺がイレーヌをテロス展に誘ったのは、彼女が絵画に深く興味をもっているからだ。どうせなら、話が合う者と一緒に行ったほうが楽しめるだろう? その相手がたまたまイレーヌだったというだけだ。げすの勘ぐりはやめてもらいたい」


 シオドアよりもアーヴィンのほうが背は高く、少しだけ見下ろす形になる。さらにアーヴィンの態度は威圧的であり、何も言い返せないシオドアは「ふん!」と鼻息荒くして、教室から出ていった。


 ピシャリ! と荒々しく扉が閉められる。


「なんなんだ、あいつは。わざわざDクラスからここまでやってきたのか?」

「帰る途中だったのでは? 昇降口に向かうにはここの前を通る必要があるでしょう?」


 シオドアに掴まれた腕は少しだけ違和感が残ったものの、私は机の中身を鞄の中に詰め込んだ。


「イレーヌ、持つよ」


 アーヴィンがすかさず私の鞄を手にする。


「生徒会室に行く前に、医務室へ行こう」


 私がきょとんとして彼を見上げれば「痛むんじゃないのか?」とシオドアに掴まれた腕を指差す。


「平気よ。それよりもみんな、待っているでしょう? 早く生徒会室に行きましょう」


 そろそろ生徒会役員の改選が行われる。それに向けての準備や引き継ぎなど、やることはたくさんあるのだ。


「君がそう言うなら無理強いはしないが……とにかく、なんなんだ? あいつは……」


 私もそう思っている。恐らくというか絶対に私を嫌っている。彼は私の存在そのものが気に食わないのだろう。だからってシオドアの思い通りになってやるつもりはない。


 それよりも、私の心をざわつかせていたのはアーヴィンがシオドアに放った言葉である。テロス展に誘われたのは、私が特別だからではなく、絵画に興味を持っていて話が合うから。


 わかっていたはずなのに、それを彼の口から聞いてしまうと、胸の奥がズキズキと痛み始める。


「イレーヌ?」


 考え事をしていたから、少し歩みをゆるめたしまったらしい。それをすぐにアーヴィンに気づかれた。


「あ、ごめんなさい。生徒会について考えていたから……一年は、誰が役員になるのかなって」

「あぁ、そうだな……」


 うまく誤魔化せたようで、そこからは生徒会の話題へと変わった。



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