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第一章(5)

 学園に入学して一年が経ち、二年次に進級するときにはクラス替えが行われた。もちろんそれは、成績別に分けられたもの。


 なんとか成績上位クラスのAクラスになった私は、アーヴィンも同じクラスであった事実にほっと胸をなでおろす。彼が他のクラスになるわけがないと思っていても、やはり掲示板で互いの名前を見つけるまでは不安だった。


 ちなみにシオドアは、成績下位クラスのDクラスに名前があった。彼は何かあるたびに「学園の成績だけで、その人物の能力がわかるはずがないだろう」と言っているらしい。シオドアの言うことも一理あるが、それでも彼の学園での態度を見れば、その言葉がただの負け惜しみであると解釈している。


 さらにポーレット公爵は学園に対して多額の寄付金を送ったとも聞いている。それはシオドアの成績が、公爵が思っていたよりも悪かったからで、成績に少しイロをつけてほしいからだとか、そんな噂も流れていた。


 それでもこの学園の方針は「平等」。多額の寄付金でぐらつくような方針でもなく、寄付はありがたく受け取ったものの、結局シオドアの成績は彼の実力のままだったとか。もちろん寄付金を出した公爵は今さらそれを返せとも言えなかったようで、ただ単に寄付しただけ。


 それが本来の寄付なのだから、何も問題はないのだけれど。それに噂は噂で、事実かどうかを突き止めようとする気もないし、単なる噂を他人と話題にするようなこともしなかった。


 ただ、シオドアとクラスが離れたから、彼との関わりはないだろうと思っていたけれど、その考えは甘かった。


 二年になったときには、私とアーヴィンはすでに生徒会役員だったけれど、Dクラスのシオドアがクラス委員になったのだ。となれば、委員会などでは顔を合わせる必要があるわけで。


 彼は露骨な嫌がらせをしてはこないものの、私とすれ違うときだけ顔をしかめたり「魔女」と言ったりと、幼稚な言動を繰り返す。もちろんそれに対して私は言い返すわけでもなく、とことん無視を決め込んでいた。


 わりと私の近くにいるアーヴィンは、シオドアのそんな行為に気がついていて抗議しようとしてくれたけれど、私がそれを止めた。何かしら反応を示すから、シオドアも調子に乗るのだ。いや、相手にするだけ時間の無駄という気持ちもあった。


 そうやってシオドアを適当にあしらいつつ、新しいクラスにも馴染んだとき。


「イレーヌ。国立美術館で、テロス展が開かれるんだが……」


 放課後の生徒会室で、各委員会からの支出報告書をまとめていたときに、アーヴィンが美術館の広告を差し出してきた。


「え? テロス展?」


 テロスとは約百年前に活躍した画家で、色使いが鮮烈で、それによって感情や情念を表現したと言われている。初期の作品は、内戦の影響もあったせいか暗い印象の作風だったが、内戦が終わると他の画家の影響も受け、次第に明るい色調の作品へと変化していった。彼の作品は、今ではこの国を代表する絵画だとも言われていて貴重であるため、普段は美術館の保管庫で厳重に保管されているが、年に何回か国内の美術館で展示する。さらに、他国との文化交流のために、そちらの美術館への貸し出しなんかも行っている。


 私が記憶しているかぎりでは、ここ三年くらいは近隣諸国の美術館で展示されていたはずだ。それがやっと戻ってくるのだろう。


「開催前の特別招待枠があるのだが……それに、一緒にどうだ?」

「特別枠?!」


 テロス展となれば、国内中からファンがこぞって見にやって来る。父に頼めばチケットは手配してくれそうだが、会場内はそれなりに混雑するはずだ。ゆっくり絵画を楽しみたいというのは難しいにちがいない。


 だからアーヴィンの誘いは、私にとっては魅力的なものだった。


「でも、それってなんだか不公平のような気がするわ……」


 彼は王族だから特別なのだ。そのため、開催前にゆっくり絵画を楽しむ権利があるわけで、そこに私のような人間が紛れ込んでいいのかどうかがわからない。私以外にもテロスの絵画をゆっくり楽しみたいと思う人は多いはず。


「不公平? だが、これは学園の行事ではないからね。平等である必要はない。そもそも人間というのは不平等の上に成り立っていて、その不平等さをどう平等に近づけていくかが、俺の課題でもある」


 世の中に完全な平等は存在しない。もし、すべてが平等であれば、同じような顔の同じような能力の人間しか存在しないだろう、というのがアーヴィンの持論である。


「それに特別枠というのは、美術館からの好意なんだ。となれば、それをありがたく受けるのも俺たちの役目だろう?」

「美術館だって、アーヴィンだから特別枠を用意したわけでしょう? つまり、王族の特権のようなもの。私には縁のない話だわ」


 アーヴィンの誘いは素直に嬉しいし、非常に心惹かれる話でもある。それでも私は王族ではないという気持ちのほうが強かった。


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