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第四章(7)

 昨日までは鉛色の空が広がっていたというのに、今日はすっきりと清んだ青が眩しい。朝から室内に入り込む陽光は穏やかで、絶好のお茶会日和だ。


 私は晴れやかな気分で食堂へと向かったが、そこにシオドアの姿はない。


 ヘルナントに彼の様子を尋ねれば「旦那様は朝から具合が悪いと、離れでお休みになられています」とのことだ。


 どうやらシオドアは私との約束をしっかり守ってくれたらしい。


「まぁ、大変ね。今日は王弟殿下と約束があったの。食事が終わったら、旦那様の様子を見に行きたいのだけれど、問題はないかしら?」

「はい、流行病のようなものでもありませんので。昔から、旦那様は体調を崩されることが多く……」


 ヘルナントもシオドアとの付き合いが長い人だから、彼が大事な場面ですぐに具合が悪くなるのを知っている。そして王弟との茶会当日に体調を崩したとなれば、執事長が焦りたくなるのもわかる。そんな彼に心の中でそっと謝罪した。


「……そう。すぐによくなればいいけれど」


 心配した振りを見せつつも、私はパンにたっぷりジャムを塗った。どうやらヘルナントは、私がいつもより食欲があると見抜いたようだが、それに対しては特に何も言わなかった。


「旦那様には、果物を用意したほうがいいかしら? 具合が悪いときは、いつもどうしていたの?」

「はい。果物やゼリーなど、さっぱりしたものを召し上がっておりました」

「では、それを用意してもらえる?」


 穏やかに笑みを向けると、執事長もほっとした様子で「承知しました」と答える。


 朝食を終えた私は、果物とゼリーの入った籠を手にして、エマを連れて離れへと向かう。こちらの本館と離れは渡り廊下で繋がっているため、シオドアも行き来しやすいのだ。


 離れにいるリンダは、名目上は私の友人であり、下位貴族であるため行儀見習いも兼ねた私の話し相手ということにしてあるが、彼女はこの離れから出てこない。

 だから定期的に私がリンダの様子を見に行くわけだが、それがあまりにしつこいとシオドアは嫌がるのだ。


 しつこくしているわけではなく、私の友人としてこの屋敷においている以上、それらしい関係を見せつけておきたいだけ。私としてはいわゆる偽装工作のつもりなのだが、もはやそれも意味をなしていないような感じもしていた。


 リンダの部屋の扉を叩くと、扉を少しだけ開けたリンダが、その隙間から顔をのぞかせてきた。


「おはよう、リンダさん。旦那様の具合はどうかしら?」


 お見舞いの品を見せつけるように籠をかかげると、彼女の表情がほっとゆるんだろうにも見えた。

 リンダが扉を開けてくれたため、私はエマと一緒に部屋へと入る。


「おはようございます、旦那様。具合はいかがですか? 体調を崩したとお聞きしたので、用意してもらいました」


 シオドアは寝ていたわけではなく、ソファーにゆったり座り、新聞を読んでいたらしい。


「ふん、わざとらしい」


 彼の声に返事をせず、籠を適当なテーブルの上にトンと置いた。


「リンダさん。今日は、旦那様の看病をお願いします」

「は、はい」


 私の勢いに負けたのか、リンダはコクコクと首を縦に振る。


「足りない者があれば、使用人に言いつけてかまいません。旦那様の看病という名目がありますから」


 それにもリンダは小さく頷く。


「執事長には、私は王弟殿下の茶会に参加するため、旦那様の看病は友人のリンダに任せると言いつけてあるので、ご安心ください」


 相変わらずリンダは、胸の前で手を組んで、不安げな瞳で私を見つめてくる。


 高飛車な態度を取ってこちらをバカにしてくれれば、私も堂々とやり返せるのに、小動物のような彼女はどう相手にしたらいいのかがわからない。


 とにかく、彼女はここにいるだけなのだ。他の使用人たちに冷たく当たるとかもせず、ただこの部屋で静かに過ごしているだけ。そしてシオドアが定期的にこの場に来る。


 そういった意味では、リンダの存在は他の人に迷惑をかけているわけではないのだから、愛人としては優秀なのではないだろうか。


「では、旦那様。行って参ります。はやくよくなってくださいね」

「ふん」


 私のわざとらしい態度に、シオドアは鼻で笑った。


 具合の悪いシオドアは、これからゆっくり療養するはずだ。いや、誰かが来たときだけベッドで横になって寝ている振りをするにちがいない。


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