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第四章(4)

「あぁ。晩餐の件は覚えている。だが、泊まりというのは……」

「時間が時間ですから。お義母様が部屋を用意するから泊まっていきなさいと」


 もちろん用意される部屋は新婚夫婦のための部屋だから、私とシオドアは同室になるわけだ。


「もし、どうしても帰りたいというのであれば、旦那様のほうからお義母様にお断りしてくださいね」


 シオドアが公爵夫人に弱いのは知っている。なんだかんだで、母親の言うことはきくのだから、意外と素直な面もあるらしい。


「はぁ……」


 面倒くさいと言わなくても、シオドアの気持ちはだだ漏れだった。


「わかった、リンダには伝えておく」


 もしかしてリンダからシオドアを借りるのだから、貸出料を支払ったほうがいいのだろうかと、そんな考えがふと浮かんだ。


「もしリンダさんが不安に思うのであれば、私のほうからもお詫びの品でも贈りますけど」

「余計なことはするな」


 そのままシオドアは、振り向きもせずに部屋から出ていった。


 彼のいなくなった室内で、私は行儀悪くソファに寄りかかるように座って息を吐いた。

 シオドアとの会話は、駆け引きのようで疲れてしまう。さらにに弱みを見せてはいけないと気も張っているから、彼がいなくなったところで、するすると身体から力が抜けていく。


 しばらくしてからエマを呼び、お茶の用意をしてもらう。


「奥様、お疲れですね。ゆっくりお風呂に入って、マッサージなんていかがでしょう?」


 エマの明るい声に励まされる。


「ありがとう。実は、さっきシオドアにアーヴィンの手紙を見せたのよ」

「あぁ……それでは奥様がお疲れになったのも理解できます」


 エマがテーブルの上にお茶の入ったカップをコトリと置いた。カップから立ち上がる白い湯気は、香ばしいにおいと共に室内に溶け込んでいく。


「でも、お茶会に行くのは私だけだとシオドアには伝えたわ」

「それで、旦那様は納得されたのですか?」

「えぇ。だって、旦那様は体調を崩して寝込んでいれば、大好きな愛人に看病してもらえるのよ?」


 お茶を一口飲んで、喉の渇きを潤す。自分でも思っていたより、口の中はからからに渇いていたらしい。


「それから明後日は、ポーレット公爵家の晩餐会に出席することになっているから。ドレスの準備をお願いね」

「もちろんです。その日は、向こうのお屋敷にお泊まりでしたよね?」

「そうね。シオドアにも伝えたけれど……まぁ、気乗りしないわよね」


 それはお互いさまだと割り切るしかない。


「ところで、リンダさんは離れでどういった生活をしているかって、聞いているかしら?」


 この屋敷の中で働く者同士の情報網は、私自身、把握しきれていないほど綿密に繋がっているらしい。


「そうですね。一応、奥様の友人という立場ではありますが……気づいている人は気づいているかと……」


 リンダとの関係を隠そうとはしていないシオドアのことだから、そう思われてしまうのも仕方ない。

 どうせなら、いっそのこと私の友人として側に置くという案も考えたが、シオドアが「余計なことをするな」と怒るのが目に見えている。


 とにかくリンダは、私の友人で話し相手ということで通しているが、常識ある者からしてみれば、そんなのがただの口実だとすぐにわかる。


「だったら、よい機会なのかも」

「何がですか?」


 私の言葉を拾ったエマが、身を乗り出してくる。


「だから、公爵邸での晩餐会よ。リンダさんを置いて、私とシオドアが参加するわけでしょ? 夜会だと堂々と愛人を連れて参加する方もいるみたいだけど、今回は身内の晩餐会ですもの」


 慣れたパーティーになればなるほど、愛人を連れて参加する者も多い。場合によっては、夫婦で参加しているのに、お互い愛人をパートナーにしているとか、そういった事例もあると聞いている。


「そうですね、さすがに公爵邸ですから。いくら旦那様であっても、愛人と妻に求められるものの違いには気づいているのではありませんか?」


 そうだった。愛人に子を、妻にはその子の教育をというのが、シオドアの求めているものだ。


「そうね」


 呟いた私は、熱いお茶を一口、飲んだ。


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