第四章(3)
念のため、シオドアにもアーヴィンからの手紙の件は伝えておこうと思っていた。
「旦那様、このあと、お時間はありますか?」
夕食時に声をかけると、シオドアは困惑したように視線を向けてきたが、私はにこやかに笑みを浮かべる。
「用件はなんだ」
「ここではちょっと……二人きりで」
そう、私とシオドアは仲の良い夫婦で新婚なのだ。だから、夕食後に二人きりになりたいと言うのは、おかしな話ではない。
「わかった。では、僕のほうから君の部屋へ行こう」
つまり私との話しが終われば、さっさと部屋を出てリンダのところへ行くという流れである。私がシオドアの部屋へ行けば、私が部屋を出ない限りは、彼はリンダの元に向かうことはできない。つまり、次の行動の主導を取るためには、相手の部屋へ行くほうがいい。
「ありがとうございます、お待ちしております」
この屋敷で働く使用人は優秀である。新婚の甘い会話にも顔色一つ変えない。そしてリンダの存在に決して触れてこない。
二日後には夫婦そろってポーレット公爵家の晩餐会に呼ばれているし、ここでもシオドアと仲の良い夫婦を演じなければならず、ボロを出さないためにも日ごろから演技をしておくのは必要なのだ。ようは練習のようなもの。
そのため食事中の会話もなんとかしようと私が話題を振っており、シオドアがそれに付き合ってくれるので、仲良し夫婦の偽装は大したものだと自分でも思う。
夕食後、私が自室で待っていると、早速シオドアがやってきた。先ほどまでの食堂での態度とは大違いで、不機嫌をまき散らしている。
「それで、なんの用だ?」
ソファーに乱暴に腰をおろしたシオドアは手と足を組んだ。
「アーヴィンから手紙が届きました」
彼の前に手紙をパサリと置くと、慌てたようにシオドアがそれを手にするも、封筒の中から手紙を取り出そうとしてそこで躊躇う。
「僕が読んでもいいやつなのか?」
「えぇ、ぜひ。ロンペル子爵宛てに届いたものですから」
それでも私の様子をうかがうような視線を向けてから、手紙を取り出した。彼の目の動きがすべての文字を追ったのを確認してから、声をかける。
「アーヴィンが私たちをお茶会に誘いたいようです。出席に関しては、何も問題はありませんよね?」
「あぁ。しかし僕も出席するのか?」
どこか気まずそうな表情を浮かべるシオドアだが、私は楽しくてにっこり笑みを浮かべた。
「まさか。旦那様はリンダさんと一緒にいたいでしょう? これは、私がアーヴィンと会うための口実です。約束しましたよね? お互い愛人との関係には口を挟まないと。だからこの日、旦那様は体調を崩してください」
シオドアも察したようで、眉間にしわを作る。
「だけど王弟殿下からのお誘いです。二人とも欠席するわけにはいかないでしょう? ですから、そのお茶会には私が一人で出席します。その間、リンダさんが旦那様を看病する手はずを整えておきますから」
シオドアは手にしていた手紙を乱暴にテーブルの上に投げつけた。
「わかった。お互い、愛人との関係には口を出さない約束だからな」
これ以上の話は不要だと言わんばかりに、シオドアは立ち上がる。
「あ、旦那様。リンダさんのところに行くのであれば、明後日は泊まりで不在になると伝えておいてください」
「明後日? 泊まり……?」
まるで心当たりがないようなシオドアの態度に、私は大きくため息をついた。
「明後日はポーレット公爵家から晩餐の招待を受けているのです。私たちが新婚旅行にも行かないから、お義母様たちが心配していらっしゃるのですよ。まさか、それまで欠席するとか言いませんよね?」
と言ってはみたものの、シオドアのことだから頭が痛い、お腹が痛い、とにかく体調が悪いと言って、断りそうで怖い。




