第四章(2)
「お茶会のお誘いだったわ」
アーヴィンの手紙をひととおり読み終えた私の声は、自分でも気づかぬうちに弾んでいたらしい。エマがニヤニヤしながら、お茶を淹れてくれた。
「まぁ、素敵なお誘いですね。その日は私が腕によりをかけて、奥様を磨き上げます」
「もう、結婚式じゃないんだから」
「あ、だけど。そちらの手紙が旦那様宛に届いたというのなら、旦那様もご一緒に出席される予定ですか? となれば、お二人で衣装は……」
「まさか」
私が声をあげると、エマは驚き、目をぱちくりとさせる。
「招待状には二人でと書いてあるけれど、この日は旦那様に風邪を引いてもらえばいいのよ。ほら、あの人、都合が悪くなればすぐに体調が悪いとか言うじゃない? それよ、それ。そして、リンダさんに看病してもらえばいいのではないかしら?」
我ながらいい考えである。これで私は、堂々とアーヴィンと二人きりで話ができるし、シオドアもリンダとイチャイチャできるだろう。
私は『シオドアと交わした誓約書の件』をアーヴィンに早く伝えたかったのだ。
「だから、お茶会に同行するのはあなたよ、エマ」
「えぇっ? 私ですか?」
「旦那様は体調をくずし、土壇場で欠席の予定なの。だからって私一人で参加するわけにはいかないでしょう? アーヴィンとの関係はあまり公にしていいものでもないし。となれば、信頼できる人を同行させないとね」
私とアーヴィンの関係は非常に複雑なものである。堂々と「愛人関係です」とは言えないし、だからって彼と顔を合わせることを避けていれば、特権の略奪婚における条件『本当に愛する者と出会ったときに限る』を満たすのは難しい。
ようは駆け引きなのだ。周囲に不貞と気づかれず、彼との仲を深める。
シオドアが提案してきた形だけの結婚は、私にとっても都合のいいものでもあった。
ただシオドアの場合は、リンダとの関係を誤魔化そうとはしているが、隠そうとはしていない。リンダは名目上、私の友人で私の話し相手、つまり客人という扱いになっているが、勘のいい人間なら気がついているだろう。ただ、それを口にしないだけで。
そもそも私の客人が離れにいるという話がおかしい。そのため、私がリンダを容認している点が、彼女の存在を曖昧にしていた。
「アーヴィンには返事を書くわ。シオドアには一応、伝えるけれど……あの人、公爵家のことには興味あるけど、こちらの……子爵家のことはどうでもいいと思っているのよね……」
アーヴィンからの手紙は、シオドア宛ではあるが、それはロンペル子爵宛になっている。
そしてシオドアはわかりやすい。ロンペル子爵という爵位は、中継ぎのようなものだと考えており、彼本人はいずれ公爵を継ぐわけで、そのときロンペル子爵はシオドアの弟のどちらかに譲るつもりでいるのだ。
またロンペル子爵領は公爵領の一部であり、結局ポーレット公爵の管轄下におかれている。それもあって、名ばかり子爵のようなものでもあった。
ただ、この結婚を機に、ポーレット公爵はシオドアに子爵領を任せたいと思っているみたいだが、シオドア本人ははした領地だと吐き捨てるだけで、てんで興味を示さない。となれば領地管理は、今までのように公爵に任せたほうがいい。
「それで、王弟殿下とのお茶会はいつ頃のご予定なのでしょうか? 私も心の準備が……」
「もう、エマったら。学園時代の級友が顔を合わせるだけよ? そんなに緊張しなくても」
私の言葉にエマはふるふると首を横に振る。
「あれは学園にいたから許されるわけで……。今の私からしてみれば、恐れ多いもったいない話です」
私は苦笑するしかない。
「お茶会は一か月後くらいを考えているから、調整しておいてほしいっていうのが、アーヴィンからの手紙の内容よ? それまでに……エマを鍛えたほうがよさそうね」
シオドアはエマを辞めさせたがっているけれど、私はもちろん彼女を手放す気はない。
エマは家族のためにお金が必要で、そのために仕事をしている。守るものがある彼女は芯があって強いけれど、できれば彼女を守ってくれるような相手と出会ってほしい。そうなったときは、私もエマをその人に託したい。




