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第一章(1)

 大陸の南にあるエラルズ王国は、近隣諸国との関係も友好であり、のんびりとした平和な国である。近年では不作知らずで、むしろ他国に援助をしているように資源は豊かなものだ。


 そのエラルズ王国では、貴族の子女は十五歳になれば王都にあるタラン学園に通う。この学園は貴族だけでなく、平民であっても突出した能力があれば特待生として受け入れている。


 だから私も十六歳になる年に学園へ入学した。ちなみに王都タランにあるから、タラン学園という名がついたらしい。


「まぁ、イレーヌ。制服も似合うわね」


 白いジャケットに白いスカートの制服はさわやかさであふれているが、胸元の赤いリボンがアクセントになっていてかわいらしい。スカートの内側にはフリルが縫い付けてあり、動くたびにそのフリルがちらちらと見え隠れする。


「お母様、変ではありませんか?」


 初めて袖を通した制服に、私は居心地の悪い思いをしていた。一番は、似合っているかというのが不安だったのだ。


「えぇ、とっても似合っているわよ。ね、あなた?」


 先ほどから黙り込んで何も言わない父だが、母から意見を求められ「ああ」とひとことだけ声を発した。


「いやぁね。イレーヌがあまりにもかわいいから、かける言葉も見つからないのよ」

「イレーヌ姉様。とっても素敵です。僕も早く、学園で勉強したいな」


 弟のイーグルも私をおだてるような言葉をかけてきた。恐るべし、十歳児。


「イーグルも十五歳になれば、学園へ通えるようになるわよ」


 褒めてくれた礼だと言わんばかりに、イーグルの猫のような毛並みの黒い髪をくしゃっとなでれば、猫のように気持ちよさそうな笑顔を作る。


「さあ、そろそろ行かないと入学式に遅れますよ」


 母がパンパンと手を叩いて、先ほどから直立不動のままぴくりともしない父を促した。


「イレーヌ姉様、いってらっしゃい。後でお話を聞かせてね」

「ええ、いってきます。イーグルは良い子で留守番しているのよ?」

「僕、そんなに子どもじゃないんだけどなぁ?」


 不満そうに唇を尖らせるイーグルは、どこからどう見ても子どもである。

 私は両親と一緒に、馬車に乗り込んだ。タラン学園では、入学式と卒業式には家族と一緒に出席する決まりがあるのだ。


 カタカタと小さく揺れる馬車の中で、私よりも緊張しているのは父のほうかもしれない。


「お父様……?」

「この人ったら、イレーヌが学園に通うのは嫌だってごねているのよ?」

「えぇっ?」


 それは初耳である。


「学園にはさまざまな人が通うでしょう? もちろん男性も。だから、イレーヌがどこの馬の骨かわからないような男性を好きになって、結婚すると言い出したらどうしようって」


 クスクスと声を押し殺すようにして笑う母は、少女の雰囲気をまとっている。

 だが、私は知っている。父が母と出会ったのも学園で、その後、父のほうから猛烈にアピールして母と婚約したというのを。これは母方の祖母から聞いた話だ。


「お父様、ご安心ください。私だって、自分の身分はわきまえているつもりです。いくらなんでもロイル侯爵家に泥を塗るような、はしたない行いはしませんから」

「違うんだよ……」


 やっと父が口を開いたが、それは蚊の鳴くような小さなものだ。


「あら、何が違うっていうの?」


 母はとことん父を揶揄うつもりなのだろう。


「イレーヌは、王弟殿下と同い年だろう? それに、ポーレット公爵子息も一緒だ……」


 父に言われるまで、私はその事実を知らなかった。

 母に連れられて参加するお茶会では、似たような年齢の女の子ばかりが集まるもの。社交デビューもしていないし、それがこの国ではわりと当たり前だった。親族以外の年齢が近い異性と顔を合わせるのは、学園に通ってからというのも多い。


「ですが、お父様。学園内では生徒はみな平等。王弟殿下であろうがポーレット公爵家の嫡男だろうが、関係ないですよ」

「う~ん、イレーヌ。そういうことじゃないんだよ~」


 今にも泣き出しそうな父を、母が笑って宥めている姿が、我が親ながら微笑ましい。


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