第三章(7)
朝食を終えた私は、早速、例の誓約書の作成に取りかかった。といっても、内容は大したものではない。
シオドアとリンダの子を公爵家の後継者として私が認めること。その子の養育はシオドアの妻が行うこと。そして私とシオドアは白い結婚を貫くといった内容だ。
白い結婚、つまり夫婦の間に性的接触がない関係を継続すれば、二人の間に子は授からない。
シオドアは知らないのだろうか。白い結婚を続けていれば、いずれは離婚が合法的に認められるということを。
これも、家門の存続、後継といった観点から決められた法律だったと記憶しているが、これが適用されるのは女性側が処女であるのが絶対条件であり、夫婦生活が破綻している場合、たいていは他の相手に逃げがちになっていた。女性側が他の男性と身体を重ねてしまえば、その条件が適用されず、合法的な離婚にまでたどりつかないというのが現状である。
もし、私がアーヴィンと関係をもってしまった場合、いくらシオドアと性的接触がなかったとしても、私に非がない状態での離婚は難しい。
しかしアーヴィンは王族であり、いくらふらふらと出歩いていようが王族籍は抜けていなかったはず。
第一継承権はセリウス王子にあるが、アーヴィンはその次に継承権を持っている。それ以降は前王の兄弟にまでさかのぼり、関係が複雑すぎて公にはされていない。
そしてその王族には略奪婚という特権があり、この特権が使えるのは王族籍に残っている独身男性、すなわちアーヴィンとセリウス王子のみ。
アーヴィンは、シオドアから私を奪うと言ってくれたが、それがいつになるかはわからない。
仮に今日、これからアーヴィンがやってきてシオドアに離婚を迫って私に求婚した場合、この特権が使えるかと問われれば答えは否だ。
何よりも『本当に愛する者と出会ったときに限る』という条件があるため、学園卒業後、この国を出ていってしまったアーヴィンが、私と愛を深める時間はなかったと考えるのが妥当である。再会してから日が経っておらず、アーヴィンの横恋慕として解釈されてしまう可能性も高い。それらを踏まえても、早くて一年後というのが妥当だろうか。
そこまで考えたとき、紙に書いた内容をもう一度確認する。
白い結婚の維持、後継者とその養育。特に白い結婚さえ維持すれば、いずれシオドアと離婚ができる。
早速私はその紙を手にして、シオドアの元へと向かった。どうやら彼も自室で休んでいるらしいが、内扉は使わずあえて通路に出てから外扉を叩いた。
「イレーヌです。旦那様、今、お時間はありますでしょうか」
気だるそうなシオドアの声が聞こえ、私は彼の部屋へと入る。
シオドアはソファーで横になって、うつらうつらとしていたらしい。
「なんだ、何か用か?」
不機嫌をまとわりつかせる口調だったが、私はそれを意にも介さず笑顔を振りまいた。
「はい。昨日、お約束した誓約書の件。内容をまとめましたので、確認していただきたいなと」
「はっ。相変わらずだな、君は。昨日の今日じゃないか」
「えぇ。ですがこういったものは早く決めておかないと、もめ事の原因になりますから」
シオドアの顔の前に例の紙を差し出せば、渋々と彼もそれを手にとった。面倒だと思っているのはその態度からみてとれたが、それでも誓約書の中身に興味を持ったようで、彼の視線は文字を追っていた。
彼が口を開くのを、私は彼の隣に経ちながら待っていた。そして一通り目を通したシオドアが、誓約書をパサリと返してきた。
「いいんじゃないか? 僕が言ったこと、すべて書かれている。後継は僕とリンダの子、その子の養育は妻である君が行う、そして僕と君の関係は真っ白なまま……」
そこで口をつぐんだシオドアは、目を細くし、何やら考え込む。
「いや、もう二つ。内容を追加してほしい」
彼からさらに提案があるというのは、予想外でもあった。




