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第三章(6)

「なるほど。それは非常に理にかなっておりますね」

「本来であれば、結婚してからの一か月は蜜月だなんて呼ばれているけれど。シオドアとの関係はそういうものだから、私も自由にやらせてもらうわ。だけど、一応は夫婦だから、表面は取り繕わないといけないでしょう?」

「まかせてください。もし、お二人の関係が不仲だなんて噂が流れたときは、私が別な噂で上書きいたします」


 やはりエマを味方につけたのは間違いではなかった。ただ上書きできるだけの別な噂がどのようなものになるのかは、気になるところだが。


「では、朝食はお部屋に運びますね」


 そう言ったエマは、私の髪をきれいに梳かし、邪魔にならないようにとハーフアップにしてくれた。今日は人と会う予定もないから、ドレスも簡素なものだ。


「ありがとう。もし、シオドアが戻ってきているようなら、教えてくれる? 例の誓約書についてさっさと決めておきたいのよ」

「承知しました」


 頭を下げてから部屋を出ていくエマを見送ってから、私はソファーに脱力したように腰を下ろした。

 気持ちが張り詰めていたのだろう。一人になると、なぜか無性に泣きたくなった。それは悲しいからとか悔しいからとかではなく、空しさなのかもしれない。


 なんのために結婚したのだろうと、そんな考えがふっと湧いてくるのだ。


 ポーレット公爵家がこの縁談を望んだのは、ロイル侯爵家の資金狙いだと思っていた。それらしい言動を公爵はにおわせていたが、ロイル侯爵は気づかぬ振りをしてのらりくらり交わしていた。結果、今のところロイル侯爵家からポーレット公爵家への大々的な援助は行われていない。お世話代と称したお金が少々、ロイル侯爵家からポーレット公爵家に支払われたくらいである。


 そしてロイル侯爵家側としての利点は、父が財務大臣になったということだろうか。ポーレット公爵が推薦してくれたおかげで、父はその地位に就いた。


 そう考えると、私とシオドアの結婚は、ポーレット公爵にとってはなんのメリットもなかったのではないだろうか。


 ポーレット公爵家ほどの家柄があれば、他の公爵家、はたまた自国だけでなく他国の王族とのつながりだって望めたはずだ。いや、資金だけを狙うのであれば、もっと裕福な家柄だってあったはず。


 それなのに、わざわざロイル侯爵家、まして私を選んだ理由がよくわからない。やはり、父を財務大臣にさせたかったから? それとも父を、強硬派として囲っておきたかったから? 今までは婚約期間だったから露骨な援助を避けていたけれど、結婚を機に本格的に父に援助を頼みたいから?


 考えれば考えるほど、この結婚の目的がわからなくなってしまった。シオドアは私を嫌っているし、ポーレット公爵だってロイル侯爵家からの援助は受けていない。


 もしかして、シオドアと結婚する必要がなかったのでは? と、そんな考えさえ浮かんできてしまう。

 完全に思考の泥沼にはまってしまった。


 そのとき、扉を叩く音が聞こえ、返事をすればエマがワゴンを押して部屋に入ってきた。


「朝食をお持ちしました」


 エマの明るい声で私の気分も落ち着いてきたが、すぐに彼女は顔を曇らせた。


「顔色が悪いようですが、具合が悪いのでしょうか?」

「ちょっと考え事をしていただけよ。きっと昨日の疲れもあったし、お腹が空きすぎているからかしら?」


 私が笑って答えると、エマも安心したのか笑顔を見せる。


「そういえば、旦那様は食堂で朝食をとられてました。奥様のことを聞かれましたので『昨夜のことでお疲れのようなので、お部屋で朝食をとられるとのことです』と答えておきましたが、問題はなかったでしょうか?」

「ええ、そうね。昨夜の件で疲れてしまったのは本当だし……嘘ではないわね……」


 だが私たちは新婚だ。まして昨日は初夜と呼べるような一夜だったわけで、それで「お疲れ」となれば、何を想像するか。不仲説が広まるよりはいいだろう。シオドアがああやって離れとこちらを行き来しているくらいなのだから。


「では、あとで旦那様に会いにいくわ」

「はい。それがよろしいかと」


 エマが淹れてくれたお茶を一口飲むと、香ばしさと少しの渋みが口の中いっぱいに広がった。


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