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第三章(3)

 火照った身体をしばらくの間冷ましてから、私は一人で広間へと戻った。


 アーヴィンと愛人関係になると決めたわけだが、結局のところ、何をどうしたらいいのかはさっぱりわからない。


 広間ではまだ祝宴が続いているが、この宴は日が替わっても終わらないだろう。王族であれば三日三晩続くとも言われている、めでたい席なのだ。


「イレーヌ、帰るぞ」


 声をかけられ、はっとした私は振り返る。そこには視線を鋭くしたシオドアが立っていた。


「帰るって……別邸にですか?」

「あぁ。一応、僕たちは今日、結婚したわけだからな。主役の二人は初めての夜を過ごすため、パーティーを途中で抜けるのが慣例だ。僕たちもそれに倣う」

「承知しました」


 私を抱くことはないと宣言したシオドアだが、慣例とか周囲の目とかは気にするらしい。


 彼はそれ以上何も言わず、私に向かって腕を突き出してきたため、無言のままその腕を取った。

 少し歩いたところでシオドアに声をかける。


「ところでリンダさんは?」

「先に帰らせた。僕が戻るのに、一人でここに残しておくわけにはいかないだろう」


 それは彼女が慣れぬ場所で一人きりになってしまい、孤独を感じると思っているからか。それとも、一人になった彼女を誘おうとする男性がいると困るからか。


 シオドアとしては前者を心配しているのだろうが、彼女のあざとさがあれば、社交の場において孤独になるようなことはないはずだ。

 そう思いつつも「そうですね」と同意し、この場をやり過ごす。


 別邸はここから馬車で十分もかからないような場所にある。王都内にこれだけの屋敷を構えられるのだから、資金繰りが厳しいと言われようがやはり公爵家なのだ。


 私とシオドアの婚約期間中、公爵はそれとなく領地収入が思うようにいっていないと父に愚痴をこぼしていたようだが、そこから援助してほしいとか、そういった話には広がっていない。厳しい状況を訴え、父のほうから「援助しましょうか」と言わせたいのだろうと察した。父もそれとなく公爵の狙いには気がついていたようで、その言葉は決して口にはしなかった。


 それでもいくらかは融通したはずだ。それは、私がポーレット公爵家で教育を受けていたからで、授業料みたいな扱いになっていたと記憶している。そのお金が、どれだけ公爵家に影響を与えたかはわからない。


 馬車の中、シオドアと向かい合って座っているものの、私たちは始終無言だった。


 結婚式を挙げたばかりの二人とは思えないほどに、冷え冷えとした空間であり、馬車の振動だけが静かに響いていた。


 別邸についた私は、幾人もの侍女の手によって浴室へと連れていかれ、ドレスを丁寧に脱がされ、初夜に備えて湯浴みをする。身体中にこれでもかというほど香油をぬりたくられ、扇情的な夜着を着せられた。


 ガウンを羽織り、寝室で一人待つ。

 シオドアは渋々とこの場に来るだろう。リンダとの仲を続けるためにも、私との夫婦関係はそれとなく維持したほうが都合はいいだろう。だけど彼は、私との初夜は放棄するつもりのようだが、それはそれでかまわない。跡継ぎとなる子はリンダが生むとまで言っているのだから、私は名ばかりのロンペル子爵夫人として、必要最小限、この屋敷に目を配ればいいだけ。


 寝室にある天蓋つきの大きなベッド。そこにぽつんと一人、私は座っていた。物音一つせず、自分の鼓動が異様に大きく聞こえる。


 本来であれば夫との初めての夜を迎えるために、ドキドキと胸を弾ませながら待つものなのだろうが、私は違う意味で緊張していた。


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