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第三章(2)

 途中、義父の姿を見つけたので「外で休んできます」と声をかけた。公爵は、私がアーヴィンと仲がいいことをプラスに考えているようだ。つまり、王弟殿下をポーレット公爵の派閥に率いれる。


 この国の政界は大きく三つの派閥に分かれている。ただ、そのうちの一つである過激派は表に出てこないため、実質、穏健派と強硬派の二派によって互いにけん制し合いながら支えているように見えるのだ。


 そしてポーレット公爵は強硬派の人間だった。自分たちの主張を貫こうとする態度が強く、場合によっては軍事力や制裁も利用しようとしており、今の議会では最も強い力をもつ勢力である。


 それに対して穏健派は対立を避け、物事をなんでも穏やかに解決しようとする。


 過激派は強硬派の人間よりもその考えは極端で激しく、人の命すら道ばたの石ころと同じように軽んじるとも言われているため、決して表舞台に出てこようとはしない。表面上は強硬派、もしくは穏健派に属しているように見え、裏で活動の手を広げているとか。実際、過激派が誰なのかというのは、はっきりしていないらしい。


 そして父であるロイル侯爵は、強硬派が穏健派か、どっちつかずの態度を取っていたため、二年前、財務大臣になるためにはなかなか厳しい条件の下にいた。そのときの対抗馬が、当時の財務大臣の筆頭補佐官のトルストという男性である。彼は平民出身であったが、学園時代に優秀な成績を収めたため、どこかの貴族の養子になったらしい。その伝手を使って王城勤めを果たし、大臣の筆頭補佐官の地位まで上り詰めたとか。


 しかし、公爵が目をつけたのは、筆頭補佐官ではなくロイル侯爵であった。穏やかな性格で真面目、国王からの覚えはめでたいし、領民からの信頼も厚い。ポーレット公爵から言われれば、格下の父は「はい」としか言えない。まるで飼い慣らされた家畜のように、上には従うという教えが染みついているくらい真面目なのがロイル侯爵である。


 だから私とシオドアの縁談を受け入れ、父は財務大臣の地位を手に入れた。父自身がどういう思いでそれを手にしたのか、あまり多くを語る人でもないので真意はわからない。


「喉が渇いただろう?」


 バルコニーから庭園を一望する私に、アーヴィンがグラスをそっと差し出した。


「ありがとう」


 夜風が熱を持った身体に心地よく、冷たいお酒は口の中を刺激しながら渇いた喉を潤していく。


「ところでアーヴィン、聞きたいことがあるんだけど」

「なんだい?」


 お酒で濡れた彼の唇があまりにも艶めかしく、私の胸はドキッと弾んでしまう。それに彼の神秘的な紫色の瞳に見つめられたら、気持ちもそわそわして落ち着かない。


 学生時代とは異なる感情にとぎまぎしてしまったものの、もう一口お酒を飲んでから彼に尋ねた。


「愛人って、何をするのかしら?」


 くつくつと、喉の奥でアーヴィンが笑う。


「なによ?」


 彼に笑われたのが面白くなく、私はむっと頬を膨らませる。


「いや、そうくるとは思わなかった」


 アーヴィンは私の機嫌を取るかのように腰に手をまわし、ぐっと抱き寄せた。


「ちょっと。近いわよ」

「いいじゃないか。俺は君の愛人なんだから。つまり愛する人だ。愛する者同士は、こういうことをするんだよ」


 アーヴィンは私が逃げられないようにと、がっしり抱きしめつつ、顔を近づけてきた。


「ちょっと……何をするのよ」


 私はアーヴィンをぐいぐいと押し返したが、彼の力が思っていたよりも強く、びくともしない。


「だから、誓いのキスを。俺は君の愛人として、健やかなるときも病めるときも、君を愛し敬い慈しむことを誓うよ?」


 それは昼間の式で司教から言われた言葉。シオドアと「誓います」と誓ったばかりなのに、私も彼もすでに違う相手といるというわけだ。


「時期を見て、君をシオドアから奪うつもりだから」


 不毛な結婚生活が始まるのは目に見えている。だけど、いつかアーヴィンがと思っていれば、意外と楽しい生活が送れるかもしれない。


「うん、待ってる……」


 私が微笑んだところで、アーヴィンの顔が近づいてくる。月光によって照らされる私たちの影は静かに重なった。

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