表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/14

プロローグ(2)

 なぜ私が夫と愛人の子を教育せねばならないのか。ふつふつと苛立ちが込み上げてくるものの、そこにはわずかな悲しみも混じっていた。


 それを悟られぬよう、言葉を続ける。


「リンダさんだって、我が子と引き離されたらかわいそうではありませんか?」


 言葉を突きつければ、火照った頬にひんやりとした夜気が心地よく、次第に冷静さを取り戻す。


「それには心配およばないよ。彼女は僕の愛人だから、屋敷の離れに住まわせる」


 結婚した日に愛人を紹介しただけでなく、同じ敷地内に住まわせるからそれを認めろとまで言ってきた。


「それって、私に利点はありますか? あなたの妻としての責務を押しつけられ、さらに次期公爵の子の教育までやらされ。その間、リンダさんは何をされるのでしょう? 愛人ですから、旦那様に抱かれるのが仕事でしょうか? 片方はあんあん喘いでいるのに、こちらだけ重責を負うのは不公平ではありませんか?」


 声に出してしまった瞬間、本音が溢れ出たことに驚いた。こんな屈辱を耐える必要があるのかと、心が叫んでいる。


 それでもシオドアは落ち着いた様子で「なるほど」と呟く。


「だったら君も愛人を作るといい。その重責に堪えられなくなったら、愛人に慰めてもらえばいいよ? そうすれば僕たちは公平だろう? そう、平等なんだよ、僕たちは。君が大好きな学園の教えだ」


 自分が愛人とよろしくしたいから、私にも愛人を作れと言ってきた。

 むしろ逆にこれを好機だと捉えるべきだろう。ポーレット公爵家以外の後ろ盾を見極める絶好の機会だ。


「では、旦那様。私は先に会場に戻りますね。これだけ人が集まっているんですもの。愛人を探すにはもってこいでしょう?」


 会場はまだ熱気と祝宴の空気に包まれているだろう。


「そうだね、僕はもう少しリンダと過ごしてから戻るよ。僕のことを聞かれたら適当に誤魔化しておいてくれ」

「はい」


 私はにっこりと微笑んで答えた。この状況では笑うしかないが、気を抜けばすぐに涙がこぼれそうだった。だから笑うのだ。


 広間に戻るため、くるりと身体の向きを変えると、目の前に人の姿が見えて慌ててしまう。すぐに平静を装うものの、私の動揺は知られてしまったかもしれない。だけど、無視するわけにはいかないだろう。何か、声をかけなければ。


「ごきげんよう」


 私の声で、シオドアもリンダも第三者の存在に気がついたようだ。


「ごきげんよう、イレーヌ」


 さわりと風が吹いて花の香りがいっそう強くなった。


「あら?」


 その声には聞き覚えがあった。いや、忘れたくても忘れられない声。


「なかなか面白い話をしていたようだね。失礼だと思いながらも、つい、聞き入ってしまった」

「アーヴィン……いえ、失礼しました。王弟殿下」


 月明かりに照らされ正装に身を包むのは、国王の年の離れた弟、アーヴィンだ。そして学園時代の私のライバルでもあった人物。


「結婚おめでとう、シオドア」


 アーヴィンがシオドアに向かって艶めかしく微笑むと、王族特有の青銀の髪が月光を反射させる。

 久しぶりに彼と会ったが、以前よりも髪が伸びたようで雄々しさに磨きがかかっている。


「あ、ありがとうございます。王弟殿下……」


 シオドアの動揺が伝わってきた。

 私、アーヴィン、シオドアの三人は、同じ教室で勉学に励んだ仲である。といってもアーヴィンとシオドアは本当にそれだけの関係。


「君の妻は、ここにいるイレーヌだと思っていたが?」


 アーヴィンの力強い紫眼がシオドアを射貫く。


「ええ、そうです」

「だが、今は違う女性と一緒にいるね。つまり君は、結婚早々、愛人と逢い引きをしていたと。だからイレーヌにも愛人をすすめたということで、合っているかな?」


 どこから彼は聞いていたのだろう。こんなみじめな姿をアーヴィンには見られたくなかった。

 恥ずかしさで胸が締め付けられたものの、それでもなぜか彼のやわらかな眼差しに心がざわめく。


「そうですね。僕とイレーヌは愛し合って結婚したわけではありませんから。家のために結婚しただけです。お互い愛する人がいるなら、その愛を邪魔しないようにと、そう話し合っていたところです」

「なるほど」


 アーヴィンはにこりともせず頷いたが、すぐに相好を崩して私と向き合う。


「ところで、イレーヌの愛する人は誰かな?」


 私は鉄仮面のような表情で答える。


「本来であれば、シオドアと答えたいところですが……」


 チラリとシオドアに視線を向けるが、彼はまだリンダと密着している。やはり私はお邪魔らしい。そろそろ会場に戻ろう。シオドアに何かを期待するだけ無駄である。


「今のところ、愛人は募集中です。せっかく人が多く集まっておりますので、そちらで探そうかと」


 自分の結婚披露パーティーで愛人を探す。おかしくも虚しい。


「……だったら、俺なんかどうだ?」


 噴水の水がひときわ高く噴き出し、弾けた水滴が光をまといながら、きらきらと落ちていく。


「何が?」

「だから、愛人。募集中なのだろう?」


 月明かりを浴びてやわらかく微笑むアーヴィンの言葉に、私はコクリと喉を鳴らした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ