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第二章(6)

 そこから夫人は「イレーヌさんのドレスはこちらを基調としているから……」と説明を始め、シオドアの衣装にしてもああでもない、こうでもないと言い始めた。


「母さん、わかりましたから」


 夫人が興奮してまくしたてるように説明すれば、シオドアは冷めたような表情を浮かべる。


「母さんの見立てにまかせますよ」


 母親を立てているようにも聞こえるが、ようは投げやりなのだ。


 好きに決めてくれ。


 そんな彼の心の声が聞こえたような気がした。

 その日はなんとか朝から夕方までかかって私とシオドアの衣装が決まり、公爵夫人も満足そうに笑みを浮かべる。


「当日が楽しみだわ」

「今日はありがとうございました」


 夫人に礼を言い、頭を下げる。


「でもイレーヌさん、本当に帰ってしまうの? この時間なら一緒にお夕食でも……」


 公爵夫人からの誘いは嬉しいものだが、シオドアの目が「早く帰れ」と言っている。私がいればゆっくり休めないからだろう。


「母さん。あまり引き止めるものでもありませんよ。結婚すれば、彼女はポーレット家の一員になるわけです。ロイル家の家族と一緒に過ごす時間だって残り少ないのですから、大事にしたいでしょう?」

「そうね、シオドアの言うとおりね」


 それでも夫人は寂しそうに微笑んだ。


 ポーレット公爵家はシオドアの下に弟が二人いて息子しかいないから、私が公爵邸に来るのを楽しみにしていたと、夫人はいつも言っている。ありがたい話だし、私も公爵夫人の言葉は素直に嬉しいのだが、いかんせんシオドア本人が問題なのだ。


「シオドア、しっかりイレーヌさんをお送りするのよ」

「わかりました」


 シオドアがエスコートするかのように腕を差し出してきたため、私は少し戸惑いつつも彼の腕を取った。


「では、彼女を送ってきます」

「本日は、お招きいただきありがとうございました」


 これは公爵夫人を安心させるための演技だと自分に言い聞かせて、笑顔を作った。


 帰りはポーレット公爵家の馬車で送ってもらえることになった。


 カタカタと静かに走る馬車の中、シオドアは私の斜め前に座っている。

 閉ざされた空間で、いくら結婚を約束した仲であっても、気持ちがすれ違っている相手とどのように接したらいいのかがよくわからない。


 婚約が決まってからというもの、定期的にお茶会だといって彼とお茶を飲むような時間はあったが、それはサロンやガセボなどもう少し広く開放的な場所であり、近くには使用人の姿もあった。


 だけど今は違う。公爵家に向かったときはエマが同行してくれたが「帰りは送るから」という公爵夫人の言葉で、先に帰ってもらったのだ。だから今は、本当に二人きり。


「君は、僕との結婚に納得しているのか?」


 不意にシオドアが私に問いかけてきた。

 何か答えなければと、私も言葉を紡ぎ出す。


「そうですね。私たちのような人間であれば、愛の伴わない結婚も珍しくはないでしょう?」

「つまり、この結婚に愛はないと、君は言い切るわけだ」

「愛は育むものでもあります。結婚後に愛情が育っていくかもしれません」

「なるほど。さすが優等生の回答だな」


 嘘がなく、シオドアの機嫌を損ねないようにと考えた、私なりの最善の答えだと思っているのだが、彼はそれ以上何も言わなかった。


 愛がないのは互いに同じなのでは?


 逆に、私から愛していますと言ったほうが、彼だって困るだろう。気持ち悪いと思うかもしれない。

 しかし、彼と言葉を交わしたのがきっかけになったのか、私の口からぽろぽろと言葉が出てきてしまう。


「あなたが私を嫌っているのはわかっております。これから結婚するにあたって、共に生活するのが苦であるというのであれば、お断りいただいてかまいません。こちらからは断れませんので、それだけご承知おきください」

「ふんっ。そうやって君は僕をバカにするのか?」


 腕を組んだままシオドアはじっと私を見つめてくる。


「バカにしているつもりはございません……ただ、学園にいたときから、何かと私の存在を気に食わないように見えておりましたので」

「ああ、気に食わない。その澄ました顔がね。ただでさえ魔女のような外見だというのに。少しくらい僕に対して愛嬌を振りまいたらどうなんだい?」

「努力します」

「そういうところだよ」


 ふんっと、彼は顔をそむける。


「それに……その言葉遣い……」


 ぼそぼそとシオドアが何かつぶやいていたようだが、私の耳には断片的にしか届いてこなかった。


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