第二章(3)
卒業式が終わり、パーティーのための準備の時間として休憩時間が入る。パーティーそのものが始まるのは日が沈みかけ、空に橙色から青紫へのグラデーションを作る時間。
学園の大広間は華やかなパーティー会場へと姿を変えていた。軽やかな音楽を奏でるのは王立楽団の人たちで、学園の卒業生もいる。
卒業パーティーは在校生、特に今の生徒会が中心となって準備してくれたもので、司会進行も彼らが行う。
一年前は送り出す側にいたのに、とうとう送られる側になってしまった。
「ほら、エマ。堂々としなさい」
びくびくと背中を丸めて歩こうとするエマにぴしゃりと渇を入れる。
「だって……」
「だってもへったくれもないと言ったでしょう? あなたの衣装はこの私が選んだの。似合わないはずがないの!」
着慣れないドレスをまとうエマを連れ、私も会場に入る。
「ほら、あそこにあなたのお友達がいるわ。彼女たちだって、きちんと身なりを整えているでしょう?」
会場の片隅で見つけたのはおどおどとしている級友たちの塊だ。
「もう、あの子たちも……」
私は尻込みするエマの手を引きながら、彼女たちの元へと向かう。
「ごきげんよう」
にっこり笑って声をかければ、彼女たちも「ご、ごきげんよう……」と複雑な表情を浮かべて答えた。
「リーシさんもドレスがとっても似合っているわ。さすがマリネン子爵夫人の見立てね」
「ありがとうございます。イレーヌさんにそう言っていただけると……自信になります」
「マリネン子爵夫人を信じなさい。そして我が家のエマもよろしくね?」
私の背中に隠れるようにしていたエマの背を軽く押し、彼女たちの輪の中にいれる。
「エマも素敵ね。さすがイレーヌさんです」
彼女たちの明るい声で、私も次第に高揚感へと包まれる。目をかけた人物が褒められるのは、悪い気がしない。
「では、また後で」
エマを信頼のおける友人に預けた私は、他の級友と話をしようとぐるりと会場内を見回したとき、アーヴィンがこちらに向かって歩いてきているのに気がついた。
彼の目はしっかりと私を捕らえており、彼との距離が近づくにつれ鼓動が早くなる。
「イレーヌ」
蕩けるような笑みを浮かべて私の名を呼ぶ彼はずるい。
「どうしたの? アーヴィン」
「どうしたもこうしたも。生徒会の彼らが頑張ってくれているからね。始まる前に彼らへ激励の言葉をと思って」
そういえば昨年もパーティーが始まる前、緊張していた私たちに生徒会役員の先輩たちが声をかけてくれた。忘れたわけではないけれど、時期を見て礼を言いにいこうと思っていたのだ。
「そうね。そろそろ時間としてはちょうどいいかも」
私はアーヴィンと一緒にパーティーに向けて最後の打ち合わせをしている後輩たちのところへと向かう。
「イレーヌ。そのドレスも似合っているな」
唐突に私を褒めるような言葉を口にするアーヴィンにあたふたしてしまう。
「何よ、急に」
「いや、そう思ったから正直に言っただけだ」
しれっと答えるアーヴィンが憎らしく見える。
「以前の……テロス展を一緒に見に行ったときのドレスも似合っていたが……はっきりした色合いのものも似合うな」
私が卒業パーティーに選んだドレスは鮮やかな赤のドレスだ。胸の下の切り替えから自然と流れるようなスカートは、装飾は控えめだが金色の刺繍で小ぶりの花模様が描かれている。
「ありがとう。あなたも素敵だわ。王子様みたい」
冗談めいた口調で言えば「本物の王子様だが?」と、揶揄いを含ませて答えてきた。
私とアーヴィンが並んで歩くだけで、感嘆の声が聞こえてくる。それはきっとアーヴィンに向けられたものだろう。制服姿と異なる彼の姿は見慣れないもので、気を抜けばうっとりと見惚れてしまうくらい。それはそれで悔しいので、なんでもない振りをする。




