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第二章(2)

 三年間通った学園を卒業するためには、最後の卒業試験に合格しなければならない。これで合格できなければ再試験があり、それでも合格点に達しなければ卒業できないという規則になっている。


 さらに、この卒業試験で一位を取ると卒業式に代表として卒業証書を学園長から受け取れる大役がある。


 入学試験ではアーヴィンに代表の座を奪われたが、最後だからこそ、私は絶対に一位になりたかった。最後の試験結果が掲示板に貼り出されたときは、思わず「よし」と呟いたくらいで、アーヴィンは悔しそうに苦笑いしていた。


『最後の最後まで、君に負けてしまった』

『私、入学試験であなたに負けたのが悔しかったの』

『それで三年間も……? 意外と執念深いんだな』


 アーヴィンの言葉に私自身も納得してしまう。負けず嫌いのうえに執念深かった。

 そんなやりとりも、今となってはいい思い出だ。


「代表、イレーヌ・ロイル」

「はい」


 名前を呼ばれ壇上へ向かう。


 学園長と向かい合い、卒業証書を受け取ったときは、学園で過ごした三年間の思い出が頭の中を一気に駆け巡った。深く頭を下げ、胸を張って自席に戻る。


 そして学園長の挨拶、国王陛下からの祝いの言葉と続く。陛下とはテロス展で会ったきりであり、あのときは私的でもあったため、もっとくだけた印象を受けたが、今は威厳あふれる態度であのときとは別人のよう。それでもアーヴィンに似ていると、そんなことを考えていた。


 厳粛な時間から解放された私たちは、卒業パーティーに向けての準備に入る。


「エマ、パーティーの準備をしなきゃいけないから、急ぐわよ」

「イレーヌさん。本当に私のような者がいいのですか?」

「その言い方は禁止だと言ったでしょう? あなたは学園を卒業したら、ロイル侯爵家で働くのよ? だからあなたは侯爵家の一員なの。恥ずかしい格好でパーティーには参加させられないわ」


 エマは平民だが特待生で学園に通っていた。さらに私と同じAクラスにいたものの、彼女は卒業後の進路に悩んでいた。


 Aクラスであれば文官として王城で働くこともできるが、やはりそれなりの身分の者が優遇される。エマは仕事をして家族に仕送りをしたいようで仕事を探していた。だから、ロイル侯爵家で侍女として働かないかと声をかけた。


 優秀な人材に対する出資のようなものである。まずは侯爵家で働きながら貴族社会の振る舞いを身につけ、王城で働きたいのであれば、然るべきところの養子になれるよう手配する。もちろん、ロイル侯爵家の養子にしたってかまわない。それだけエマには価値があると、父が判断したらそうなることもあるだろう。


 私が父にエマを推薦したのは、彼女の学園生活が真面目で信頼のおけるものだったから。


 しかし今のエマでは卒業パーティー用のドレスが用意できない。そのためロイル侯爵家で準備したのだが、エマは「恐れ多い」と尻込みしているところをなんとか連れ出した。


「ありがとうございます、イレーヌさん」

「あなたの三年間の学園生活における報酬だと思えばいいわ」


 何もエマだけが特別なわけではない。優秀な人間を必要とする者は多く、エマに限らずAクラスの貴族出身ではない生徒たちは、どこかの貴族に世話になっている。そして彼らは特待生であるからこそ、Aクラスであり続けようとするから、やはり優秀であり続けるのだ。


 どこかの貴族のぼんくら息子とは大違い、と言いたくなったけれど、その言葉は決して口にはしない。


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