みんなと一緒にアフタヌーンパーティーしよ?
ケーキの国 9章です
ラスト
6人は、天使やタルトたちと一緒に中央広場へ戻ってきた。
天使が台座に腰を下ろすと、その後ろに大きな虹がはるか外へと架かった。
タルトは6人を見つめて、ゆっくり言った。
「ほら、あれが外へ続く虹だ。
尊敬する旅人たちよ、無事に帰ってほしいと願っておる」
イチゴとリリカは向かい合った。
「リリカ、大きいいちごもらってない気がする〜♡」
「はっ、お前らしいな。
もう一回来いよ。
まだまだ見せてない海域、たくさんあるぜ?」
ブルーはぷっぷの手を取り、やさしく囁いた。
「どんなに暗い夜も、どんなに明るい星空でも。
僕は星空にいます」
「素敵ですわ。
夜に空を見上げるたびに、あなたを想いますわ」
ミントはきゅるりと手をつないで、他の4人が別れを交わすのを静かに待っていた。
そして小さな声で言った。
「寂しいです」
きゅるりはその手をぎゅっと握り返した。
「私も」
3人はケーキの国の人々に手を振りながら、虹の橋を渡っていった。
下ではたくさんの人が見送り、手を振っていた。
橋の上を歩く3人は、突然身体がふわっと浮く感覚を覚えた。
リリカは素早くきゅるりとぷっぷを引き寄せた。
ケーキの国に来たときと同じように、ぐるぐると回転しながら急上昇した。
「またですの〜!」
ぷっぷは2人にしがみつきながら思わず叫んだ。
そのとき、3人の首にかけていたミントの人形が形を崩し、
小さな光の粒になってキラキラと散っていった。
「いやっ!」
きゅるりは必死に掴もうとしたが、光はすり抜けて消えてしまった。
涙をこぼすきゅるりを、
リリカとぷっぷは離さないように強く抱きしめた。
……
同じ頃、ケーキの国。
ミントは、虹を渡っていく3人をいつまでも見送っていた。
ふと視界から彼らの姿が消えると、台座の前にコロコロと音を立てて人形が落ちてきた。
ミントはその場に膝をつき、泣きながら拾い上げた。
天使は優しく見つめた。
「可愛い子。
どうか泣かないで。
特例を作らないこと──
それがあなたと、大事な3人を守ることだと私は信じているの」
タルトもそっと肩に手を置き、柔らかく告げた。
「ケーキの国のものを外へ持ち出すことはできぬ。
それは天使の加護があるゆえだ。
それを忘れてはならん」
--
3人は互いに抱き合い、不思議な力に耐えていた。
やがて急に足元に確かな地面を感じ、不思議な光の中から帰ってきた。
「あー、どこに行ってたのー?」
「準備もうほとんど終わったよー」
村中の人たちがリリカの庭に集まり、次々に声をかけてきた。
どうやら、姿を消してから1時間ほどしか経っていないらしかった。
リリカは少し頭を振って、みんなに手を振った。
「みんなありがとう〜♡
リリカ、すごく嬉しい〜」
村人たちの視線がリリカに集まる中、
ぷっぷは押しつぶされないようにそっと輪から離れようとした。
「あっ、ぷっぷさん。あの大鷲さん、どうにかして」
隣人の妖精に見つかり、庭の片隅へと連れていかれる。
そこにはテーブルの上で大きな羽を広げ、ケーキを守る大鷲がいた。
周りには誰も近寄れないでいた。
「近付こうとすると威嚇するのよ。
誰も近寄れなかったわ」
嘴でつつかれそうになったという妖精に、ぷっぷは丁寧に頭を下げた。
「申し訳ありません。
ワタクシのせいですわ。
後ほどきちんとお詫びいたしますわ。
今は大鷲のところへ参りますので、失礼いたしますわ」
そっと近づくと、大鷲はふくふくとした体をわずかに震わせ、静かに翼を畳んだ。
「ワタクシを……守ってくれましたのね?」
その声は、かすかに震えていた。
ぷっぷは優しく微笑み、そっと大きな羽根に手を伸ばした。
「ありがとう。
忠義深いあなたに、心から感謝いたしますわ」
大鷲は「くくる……」と小さく鳴き、ゆっくりと首を垂れて肩に顔を寄せた。
「……ワタクシ、あなたの忠誠にふさわしい、高貴な妖精であり続けますわ──」
その言葉に、大鷲はまた小さく「くるっ」と鳴いて応えた。
誰もいない庭の片隅。
ようやく再会できた2体の姿を、きゅるりは切なげに、それでも嬉しそうに見つめた。
きゅるりの後ろを通りながら、リリカがくすっと笑って囁いた。
「やっぱり大鷲ちゃんが本命か〜♡」
きゅるりは去っていく後ろ姿に向かって小さく言った。
「こら、だめよ」
大鷲がケーキの上から退いてくれたので、
ようやくみんなでケーキを切り分けられた。
「素敵なケーキだ」「美味しい」と口々に言い合いながら、笑顔で食べた。
きゅるりは自分に配られたケーキの上のミントをそっと見つめた。
「食べられないよ……」
そんなきゅるりに、音もなく背後から忍び寄り、
リリカはフォークで素早くケーキをすくってぱくっと食べた。
きゅるりは目を丸くしてリリカを見た。
リリカは小首を傾げて笑った。
「美味しーよ? 食べないの?
きゅるりちゃん、ケーキはね、美味しく食べなきゃ
それで、また一緒に遊びに行こ?」
きゅるりは覚悟を決めたように、
ミントが乗ったクリームをフォークですくい、口に入れた。
ミントの爽やかな香りと一緒に、どこかでコロコロという音が聞こえた気がした。
「……美味しい」
そう呟くきゅるりを、一瞬だけ抱きしめると、
リリカはほかの村人たちへ向かって手を振りながら歩いていった。
「リリカさんは、繊細さが足りないと思いませんこと?」
ぷっぷの声にきゅるりは振り返った。
大鷲を連れたぷっぷは、いたずらっぽく笑いながらティーカップを差し出した。
「でも、たまに鋭いから、
リリカさんはたまらないですわよね?」
きゅるりとぷっぷは顔を見合わせて笑った。
大鷲は隣にいるぷっぷに胸を押し付けて「キュー」と鳴いた。
村人たちがケーキを食べ終えた頃、
リリカは庭の端で楽器を手に取り、歌い出した。
村人たちは手拍子を打ち、楽しそうに踊り始めた。
〜♪
美味しいケーキ 美味しく食べて
あなたのためだけのケーキ
心をこめて作ったの
あなただけを待ってるわ
歌声は、村人たちの輪に、ぷっぷや大鷲、きゅるりに届き、
そして、はるか遠く——
ケーキの国へも届くように、優しく響いた。
きゅるりは目を閉じて、ミントの笑顔を思い出した。
ぷっぷは大鷲の羽を撫で、静かに手拍子を打った。
大鷲も「くるる」と小さく鳴き、ぷっぷの肩に寄り添った。
リリカはみんなを見渡しながら、
少し首を傾げて、にこっと笑った。
「ねえ、聞こえてる?
そっちでも、ちゃんと食べてるよね?
リリカ、また行くからね。約束だよ〜♡」
〜♪
心をこめて作ったケーキ
誰かの笑顔を待ってるケーキ
だからいつでも繋がってる
またいつか会いに行くよ
その歌声は、風に乗って広がっていき、
いつまでも優しく響いていた。