ダンスってひとりでも、みんなとでも楽しいよ?
ケーキの国 第8章
光の道を進む途中、下ではケーキの国の住人たちが
「天使だ!」「天使の道だ!」と歓声を上げていた。
誰もが天使との再会を夢見て、大騒ぎだった。
リリカは小さくつぶやいた。
「すごいね〜♡」
ミントは前を向いたまま、少し硬い声で答えた。
「私たちケーキの国の住人は、ずっと天使に守られて生きてきました…
それなのに大切にすることができなくて…
いなくなってから後悔しているのです……
でも、天使との日々を取り戻したいと思っています」
ミントは真剣な表情を浮かべ、
普段はぷっぷに合わせていた歩みを少し速めた。
きゅるりは遅れ始めたぷっぷに寄り添い、
ぷっぷは気力を振り絞って歩いていた。
リリカは白くなるほどに握りしめられたミントの手を見つめ、そっとつぶやいた。
「……いざとなったら、抱っこでまとめて連れてくよ♡
ミントちゃんの気持ちも大事だし♡」
光の橋の終着点は、
中央広場を見下ろす丘の上にある《雲の街》の白の公園だった。
ミントは驚いたように呟いた。
「こんなに近くにいらしたなんて……」
そしてようやく3人を振り返った。
ぷっぷは疲れ切ってリリカに抱っこされ、
きゅるりがぷっぷの手をそっとさすりながら励ましていた。
「……私……ごめ」
ミントが言いかけた。
ぷっぷはゆっくりと顔を上げた。
「ほんの少し休ませてもらいましたの、それだけですわ」
ミントはおそるおそる近寄り、ぷっぷの手を取った。
「謝らせてください。自分の気持ちを優先させすぎて、周りを見ようとしなくて……先走ってしまいました」
ぷっぷはそっとミントの手を撫でた。
「受け止めましたわ……でも私も歩みを乱してしまいましたの。だから謝るのはお互い様ですわね」
きゅるりはぷっぷを抱くリリカとミントの背中をまとめて抱きしめた。
「大丈夫、みんなミントさんの気持ちわかってるの」
リリカはにっこり笑って3人を見つめた。
「さあ、行こう♡ リリカがついてるからね〜♡」
4人は寄り添いながら、歓声に包まれている白の公園に降り立った。
そこにはタルトが来ており、少し渋い笑みを浮かべながら手を振っていた。
雲の街の人々が見守る中、
光の道の終着点にある扉を4人は開けた。
白く薄く輝く空間の中に、小さな天使が佇んでいた。
天使は4人を見つめると、そっと顔を伏せて泣き出した。
その羽根は飴細工のように溶けて消え入りそうだった。
「天使様……」
ミントはショックを受けて駆け寄った。
天使はミントの髪を撫で、心配そうに顔を覗き込んだが、それでも泣き止まなかった。
そこへタルトが子犬の妖精たちを伴って入ってきた。
泣く天使を切なげに見つめると、子犬たちに世話を頼み、4人を促して部屋を出た。
ミントは離れがたそうに振り返り、そっと頭を下げてからタルトと共に扉を後にした。
扉が閉まったあと、天使は嗚咽混じりに呟いた。
「私の愛おしい子、
どうしてひとりなの?
そんなに仲が悪くなってしまったの……」
タルトは城の広場に戻ると、扉の前に敷物を敷かせ、4人を座らせました。
「まずは天使を見つけてくれて、心から感謝する。わしは本当に嬉しいんじゃ」
そう言って、深く頭を下げた。
リリカは首をすくめて困ったように笑った。
「みつけるだけじゃだめみたいね〜♡」
きゅるりとぷっぷ、そしてミントがタルトを見つめた。
タルトは顔を上げると、静かな声で続けた。
「……わしも考えた。
光の道が出現し、すぐに文献を漁った。
昔、ケーキの国の住人は三人揃って天使の元を訪れておったそうじゃ。
だからケーキの国の住人が1人しか含まれておらん四人では、足りぬかもしれんと覚悟しとった」
そしてわずかに笑みを浮かべ、低い声で言った。
「だが、わしは止めなかった。
民は熱狂しておったゆえ、皆の願いを背負って行ってもらいたかったんじゃ」
タルトはゆっくりと息を吐いた。
「オーブを出したのはイチゴ、ブルー、そしてミントじゃな。
残りの者も集めよう。
明日までに六人で再び天使の部屋に赴き、特別なケーキを捧げる。
それがこの国の、そして天使を救う道だとわしは信じておる」
そして、数時間後、
大型鳥類の妖精たちの尽力もあり、イチゴ、ブルーも揃い、色とりどりのケーキも用意された。
白馬の妖精のホイップさんは訴えた。
「シンプルであることで、気品と上質を醸すのですわ。
私の生クリームとラズベリーソースのケーキこそ天使にふさわしいと考えます」
小鳥の妖精、派手なフードをかぶったキャラメルさんは首を振った。
「古いよ。
おいらは多様性をもっと重視したいね。
ケーキはもっと飾らなきゃ。
でっかいリボンとか人形とかどうよ?」
さまざまな妖精たちが自分のケーキこそ天使にふさわしいと、口々に主張した。
ケーキの国の住人たちは、俺のケーキこそ一番だと、あちこちで一触即発の雰囲気になってしまった。
タルトは皆に落ち着くように伝え、オーブを出した3人に、どんなケーキを天使に捧げたいのかと問いかけた。
イチゴは言った。
「イチゴと生クリームのケーキがもちろん最高、
でもここにあるケーキ全部が最高なんだと思うぜ」
ブルーも続けた。
「自分のケーキが最高だって思うのは素晴らしいことです。
選ばれなかったとしても、皆さんのケーキを否定しているわけではありません」
ミントも静かに話した。
「自分の考えを話しましょう。
相手の話も聞きましょう。
お互いにお互いのケーキを見ましょう」
住人たちは困ったように周りを見渡していた。
その時、リリカはぴょんと飛び跳ねて手を高く上げた。
「リリカ、ケーキアソートとか大好きー♡
みんなのケーキを天使に捧げよ?
特別なケーキが1個じゃなきゃいけないなんて誰も言ってないよ〜♡」
タルトやケーキの国の住人たちは驚いた。
口々に「そんなので平気なのか?」とか「全部なら俺のも天使に捧げられるのか?」と囁き合った。
タルトは決意したように告げた。
「そうしましょうぞ。
みなのもの、ケーキをすべて天使の部屋に運ぶのじゃ」
たくさんのケーキが次々に天使の前へと運ばれていった。
最初、天使は涙を流しながら、ただ呆然とそれを見つめていた。
けれど――
ケーキが一つ、また一つと並ぶたびに、
その涙は少しずつ止まりはじめていった。
そして、天使の唇に――
かすかだけれど、たしかな“微笑み”が浮かんだ。
やがて、最後のひとつのケーキがそっと差し出された時、
天使は――
満面の笑顔になっていた。
イチゴ、ブルーを加えた六人は天使に告げた。
「天使様、私たちの特別なケーキです。
どうぞ受け取ってください」
その瞬間。
キラキラとまばゆい光が天使のまわりを包み込んだ。
天使の光を見たケーキの国の人々は歓声を上げた。
抱き合う者、手に手を取って踊り出す者、
嬉しさのあまり泣き出す者までいて、
公園はお祭りのような騒ぎに包まれた。
六人も抱き合って笑い、喜びを分かち合った。
そんな中で――
天使は、ほほえみながら、静かにささやいた。
「……嬉しい。
ずっと、この時を待っていたの。
みんなが笑顔になれる、特別なケーキが、ほしかったの」
ケーキの国は5つのエリアに分かれる
中央広場(天使のいる神聖な特別な場所)
雲の街
海辺の街
山の街
森の街
中央広場はケーキの国の中心で神聖な場所
雲の街は中央広場を三日月形に囲む都会で、他の街すべてと中央広場に接する
海辺の街は赤い海を抱え、中央広場・雲の街・山の街に接する地方都市
山の街は中央広場から遠く離れた星降る丘があり、住人は中央広場から離れた場所に暮らす
森の街は唯一中央広場に直接接せず、雲の街を経由しなければ中央広場に行けない