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森林浴って素敵〜、街の公園でもできるかな?

ケーキの国とアフタヌーンパーティー

6章


2つのオーブを囲んで、4人は星降る丘の一角に座ります。


リリカはちょっと思案顔で呟きます。 「2回とも握手したらオーブが出たね〜」


「はい、その共通点はとても重要なことだと思います」

ミントは軽く頷きます。


ぷっぷは悩むように答えます。

「でも、それ以外の共通点がわからないわ

ケーキの国の住人と握手することに、何か意味がございますのかしら?」


「うん、そうかも〜、

ミントちゃん♡握手しよ?」

リリカは、両手を差し出します。


ミントは軽くうなずき、そっと片手をリリカの手に重ねます。


しばらくそのままにしましたが、何も起こりません。


「残念だけど、仕方ないよね

キラキラスポット1カ所で1個なのかも?」

きゅるりは困った顔で言いました。


「はい」

ミントはリリカの手を離して、静かに言いました。


「やはり当初の予定通り、森の街の光の井戸に参りましょう」


「そうだね〜今できる最善かも〜♡」


ぷっぷは、ふと横を向きました。

そこにはブルーと同じ姿をしているが、光の強さが様々な星の妖精たちがいます。


「スター19475はみずくさいのー」

「手伝うー」

「スター19475たすけてー、直したら余計に水漏れちゃったー」

「俺、やれるー」


星たちはオーブの出現により、水道橋に集まりました。

そしてスター19475が1人で修理していたことを知ったのです。


今は夜空に星は無く、

星たちはすべての水道橋を囲むように列をなしています。


星降る丘にすべての星たちが降り立っているため、水道橋の周りは昼間のような明るさです。


「圧巻だよね〜、近くからだけでなく、遠くからこの様子みたいかも〜♡」


「水道橋に集まっているから、遠くで見たらもしかして光の川みたいになってたりして?」


「そうかもしれませんね」

3人は星たちの輝きに目を奪われます。


ぷっぷだけは星たちの中から1人を見つけようと、ゆっくりと水道橋を見渡します。

その時、ぷっぷは1人の星の妖精と目が合います。


ぷっぷはにこやかにその妖精に手を振ります。


ぷっぷに手を振られた星の妖精は嬉しそうに駆け寄ってきます。

周りの星たちに「すぐ戻るー」と伝えて。


「ぷっぷさん!」

ぷっぷの前に立った小さな光の星が呼びかけます。


ぷっぷは優雅に答えます。

「ブルーさん、ごきげんよう

とてもお忙しそうですわ

私の所に来てくださって嬉しゅうございます

ですが、ご無理はなさっていませんこと?」


ブルーはぷっぷを見上げ、にこやかに言います。

「みんなが手伝ってくれることになったんです

半年くらいかかるかなって思っていたのですけど、みんなでやったら、2〜3日ぐらいで終わりそうです」


ぷっぷも微笑みます。

「まぁ、よろしゅうございましたわ」


ブルーは少し言いにくそうに伝えます。

「それで、あのさ……水道橋の修理が終わったら、

僕 夜空に昇る仕事もしてみようと思うんだ」


伺うように話すブルー。


ぷっぷは嬉しそうにうなずきました。 「素敵ですわ

星空を見上げたら、そこにブルーさんがいらっしゃるかもしれませんのね」


ブルーははっとしたようにぷっぷを見つめます。

「水道橋の修理をする僕を気に入ってくれたのに、

その仕事が減っちゃうけど、

まだ友達でいてくれる?」



ぷっぷはそっと口元を押さえて微笑みます

「もちろんですわ

私が素敵だと思ったのは、お仕事内容ではなくて、

ブルーさん本人ですもの」


ブルーはホッとしたように笑う


「僕、みんなの修理を手伝ってくる

夜空にいるから、

暗くて見つけにくいと思うけど、

夜空に僕はいるから」


「ええ、一度お別れですわね

でもまた会いましょう

真っ暗な夜空でも、満天の星空でも、

あなたを探すために夜空を見上げますわ」


ぷっぷとブルーは、見つめ合います。

その時ブルーの周りに星たちがわらわら集まります。


「ブルーってなにー」

「やり方わかんないー」

「あだ名良いなー」

「僕、今日からバナナって名前にするー」

「俺、パイナップルー」

「えー、誰かあだ名つけてー」


星たちはブルーを囲み、今にもブルーを押しつぶしそう。

ぷっぷは

「抱っこしてお運びしましょうか?」

というが

ブルーに全力で拒否されていた。


リリカはぷっぷを見つめ、ぽつりという

「ぷっぷちゃん、大鷲さんはどうするの〜?

あれ〜?もしかして……各地で仲良し♡ってやつ〜?」


きゅるりはリリカちゃんをたしなめます。

「リリカちゃん、だめよ?」


リリカはきゅるりの顔を見て

「は~い♡」

と答えました。



朝も過ぎ昼近くになり、星たちが自分たちの家に戻る頃、

テントで睡眠を取った4人は、

眠そうな星たちに見送られ

星降る丘を出発しました。


「はー

とってもキラキラだったね〜♡」


「ねー素敵だったね」

リリカときゅるりは2人で楽しく話しながらポテポテ歩きます。

ぷっぷはその隣をしっかりとした足取りで歩いています。



ミントは3人を振り返り、静かに告げます


「本日中に光る井戸にたどり着くのは難しいかもしれません。

道中にある私の家で、今夜は泊まることにしましょう。」


「え〜、ミントちゃんのおうち楽しみ〜♡」

リリカは嬉しそうに飛び跳ねます。


きゅるりは驚いて尋ねます。


「私、ミントさんは中央広場の近くに住んでると思ってた」


ミントは頷きながら、話します。

「はい、中央広場の横にも借りている部屋はあります。


でも、私を含め、多くのケーキの国の住人は、

中央広場の近くに常に住んでいるのではなく、

どうしても天使のそばにいたいときにだけ、

部屋を短期間借りるのです」


リリカは面白そうに尋ねます。

「へ〜♡そうなんだ~

じゃあ〜♡ タルトさんも〜?」


ミントは答えます

「いいえ、

彼は雲の国の住人で、もともと中央広場のすぐ横に住んでいたのです


私はタルトさんの家の部屋を借りているのです」


そんな話をしながら、山から谷へそしてまた山へ

4人は進んでゆきます。


太陽が傾き、辺りが薄暗くなってきた頃、森の外れの道で急に振り返ったミントが

「皆さん、私の家に着きました

お疲れでしょう、食事を用意しますので、どうぞこちらへ」

そう言って、

より一層暗い木々の間に手を伸ばし、何かをつかみ開けました。


そこには小さな玄関がありました。


「どうぞ、そのままでお入り下さい」

ミントは玄関やリビングの灯りをつけながら、3人を招き入れます


「お邪魔しま~す♡」

「失礼いたしますわ」

「お邪魔します」

3人はミントのお家のリビングのソファへと導かれ、そこに座ります


リビングは

緑と白で統一された家具と

色とりどりの細々とした小物がかざられ、

天井近くに明かり取り用の窓もあり、

とても可愛い部屋でした。


「森の中におうちがあるんだね〜

これ、可愛い〜♡」

リリカはテーブルに置かれた木の人形をそっと持ち上げます

持ち上げた時に人形はコロコロと音を鳴らします


「簡単なものですが」

そう言ってミントは大きなパンとチーズ、ジャムなどを持ってきました。


「音の鳴る小物を見つけると、つい集めてしまいたくなるのです」

ミントは3人にパンを切り分けながらそう話します。

ワインとグラスも4つ持ってきて、注いでゆきます。

「申し訳ないですが、今日はワインでお食べ下さい。

井戸が少しとおくて、

明日の朝はお茶をお出しします」


「この家は、森の外れにある木々の隙間の暗がりに建っています

昼間でも少し暗いのですが、

あの明かり取りのおかげで家の中に少し光が入ってくるのです」



「木々の隙間の暗がり?」

きゅるりは不思議そうに繰り返します


「はい、木々の隙間の暗がり——

何もないように見えるその場所に、

たまにぽっかりと空間が広がっているのです

外からはわからないですし、

すべての隙間にあるわけではありません

私たちは、こうした空間を“妖精の落とし穴”と呼び、

その中にある家を“落とし穴の家”と呼んでおります」



「まぁ、落とし穴ですの?」

ぷっぷはワインのグラスを、テーブルに置いて尋ねます。


「はい、高さに違いはありますが、大抵の妖精の背丈以上に、凹んだ空間となっているのです。

知らずに入り込んだ妖精が落ちて出れなくなることもあるので、

夜はこの森は出歩かないほうが良いのです。

昼間よりももっと、妖精の落とし穴は暗闇に紛れておりますから。」


もう遅いということで、

残り少ない水でタオルを濡らし、簡単に体を拭いた4人は、

ソファやベッドなどに別れて眠ることにしました。


まだ夜も明け切らない薄暗がり

リビングでコロコロと小さく鳴る音できゅるりは目を覚まします。


そっと辺りを見渡すと、

音の鳴る人形を1つ手に取り、ミントが、水桶を持って出かけるところでした。


きゅるりは慌てて、飛び起きます

「まって、ミントさん

私も行きますよ」


「申し訳ありません、起こしてしまいましたか」

ミントはパタパタとシーツを直したり、身繕いするきゅるりを横目に

もう1つ音の鳴る人形と水桶を用意します。


「お待たせ、ミントさん行こう?」

きゅるりは用意してくれたもう一つの水桶を受け取ろうと手を伸ばします。

ミントは、そっと水桶と人形を渡しました。


「お人形?」

不思議そうにきゅるりは言います。


「はい、間違えて妖精の落とし穴に入って、抜け出せない時に、

これを鳴らし続けて助けを呼ぶのです」


ミントは静かに言います。


「お助けグッズなのね」

感心したようにきゅるりは言います。

「だから、おうちにたくさんあったんだね」


ミントは少し視線を落として言います。

「本当は自分だけならば、1つあれば充分なのですが

つい、見かけると集めてしまうのです

きっと怖がっているのだと思います

子供の頃からある落とし穴ですが、

ずっと怖いものだから、注意しなさいと言われていましたので」


寂しそうにミントが呟くので、

きゅるりは少しミントが、心配になりました。


「ミントさん、はぐれないように手をつなぎましょう」

きゅるりは玄関を出た後に話しかけて、

そっと温めるかのように、ミントの手を握りました。


ミントはきゅるりを見上げて

そっとその手を握り返しました。



井戸に向かう途中、

ミントはきゅるりと手をつないだまま、長い木の棒を反対側の手で持ち前方の地面を叩きながら進みます。

きゅるりは2人分の水桶を片手に持っています。


「落とし穴が前方にないか確認して進んでいるのです

行きは杖が使えるから比較的安全です

帰りは水桶を抱えなければならないので、

少し危険ですが、行きと同じ道を辿って帰るのです」


「途中風が、強く吹いているところを通ります

飛ばされないように注意して下さい」


そう言って、ミントは迷いなく森の道を進んでゆきます。


風の強い場所も2人は支え合い、

井戸の前までたどり着くとこができました。


井戸から水を汲み、

ミントは水桶に蓋をして、それを両手で抱えました。

木の棒は背中にくくりつけます。

きゅるりも同じ様に水桶抱えます。


「気を付けて帰りましょう

私の足跡を辿ってついてきてくださいね」


そう言って、ミントは先頭に立って歩き出します。


風の強い場所を通り抜けほっと力を抜いた瞬間

バランスを崩したきゅるりは

「あっ」

と声を上げます


慌てて振り返ったミントが見たものは

妖精の落とし穴に落ちてゆく、きゅるりの姿でした。


「きゅるりさん!」

ミントは水桶を放し、手を伸ばしきゅるりを支えようとしますが、

そのまま2人もつれるように落とし穴に、落ちてしまいました。


道には2つの水桶だけが残されていました。



ミントときゅるりは落とし穴の底で互いに謝ります


「ごめんなさい、私安心したら、足がもつれちゃって」

「いいえ、それよりも私の方こそ、ごめんなさい

きゅるりさんの上に落ちてしまったわ

お怪我はありませんか?」


ミントはきゅるりの上からそっとどきます。


「全然平気です

私もこもこしてるので

痛いところはないですよ」


きゅるりは上を見上げて言います。

「あー、自力は無理そうですね

私の背中にミントさんを乗せても無理そう」


「じゃあ、人形を鳴らしましょ?

リリカちゃんとぷっぷちゃんが助けに来てくれるように」


そう言って、ミントを振り返ると

ミントは泣きながら座り込んでいました。


「ミントさん!」

きゅるりは驚いてミントに駆け寄り、抱きしめます。


「私、私

子供の頃に落とし穴に、落ちてしまって

母が助けに来てくれたけど

母が大怪我をしてしまって

どうして人形を鳴らしてしまったんだろうって

怖いんです

人形を鳴らすのが怖い」


泣いて震えながら話すミントを

きゅるりは潰さないようにそっと抱きめ、

「大丈夫ですよ」

と声をかけます


「あのときも、鳴らさなければよかったって……

助けてって言わなければ、母は傷つかなかったのにって……」


子供のように泣きじゃくるミントに優しく声をかけます


「お母さんはミントさんが人形を鳴らしたこと

怒っていないと思います

きっと嬉しかったと思います

だってミントさんを見つけられたんですもの」


ミントは首を振って呟きます


「私が頑張りきれなかったんです

相手の都合や言うことを全部、頑張って満たしてあげれば

それで問題ないんです

私が頑張れば……」


きゅるりは、ミントが震えながら人形を握りしめるその手をそっと包んで、

自分の胸元に寄せます。


ミントはきゅるりを見上げました。


きゅるりはミントの目を見て静かに話します。


「相手に寄り添うことは、

相手の言う事をすべて肯定したり

、相手の願いをすべて叶えることではないと思ってます。

相手に自分の考えを何も渡さないのは、

あなたを大切に、思えば思うほど

相手にとってさみしいことだと思うんです。」



ミントはつぶやくように言います


「そっとしていれば、自己主張なんてしなければ、みんな困らないと思ってた……」


きゅるりはミントを撫でながら優しく言います

「寄り添うって私は、

相手を見つめること、

自分を伝えること、

相手と自分のことを考えること

そう思っています


人形を鳴らしましょ

リリカちゃんとぷっぷちゃんに、一緒に伝えましょ」


ミントは静かに頷き、

2人は一緒に、ミントが握りしめていた人形を振りました。


コロコロと音がした瞬間――

緑の光がふたりの体から溢れ出し、混ざり合い、新緑のように淡く輝く緑のオーブが生まれた。


《オーブは、ケーキの国の全員の心にある小さな光。

それは、外の誰かと考えを通わせ、互いを認め合ったとき――そっと姿を現すのです》



「オーブ……、どうして私から?」

ミントは驚きます。


きゅるりは微笑んで言います。

「きっと、ミントさんが頑張ったからだと思います

さぁもう一つ頑張りましょう


人形を鳴らしましょう

落とし穴を出たら、天使を迎えに行きましょう」


ミントも微笑みます

「はい、頑張ります」



2人が人形を鳴らしてから半刻ほど経った頃――

遠くから、風に乗って声が届きました。


「あ〜、見つけた〜♡」

リリカの声です。

ぷっぷも落とし穴の近くで叫びます

「参りましたわよ

お助けしますわ、もうしばらくお待ちになってくださいまし」


きゅるりとミントはお互いを見つめ合い、そっと抱きしめました。


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