山って空気が澄んでいるよね、森林浴ってこういうことかな?
ケーキの国とアフタヌーンパーティー
5章
海辺の街で赤く染まる海を眺め、手がかりを得た4人は、ケーキの国の“3大キラキラスポット”の残りふたつに向かうことを決めていた。
そのひとつが「山の街の星降る丘」、もうひとつが「森の街の光の井戸」。
「星降る丘のほうが行きやすいですわ」とミントが提案し、一行はまずそこへ向かうことにした。
イチゴは一向に向かって言います
「俺はここで漁を続ける、
天使の捜索はお前らに任せた
お客もひっきりなしだし
天使が復活しても、ケーキの材料がないんじゃ、様になんねぇだろ?
お前ら、期待してんぜ!」
「え〜、きてくれないの〜」
リリカは残念そうに言います
「ごめんな、結局海しか愛せない妖精なんだよ〜
また来いよ、
いつでも舟に乗せてやるよ」
イチゴは笑って言います
リリカは仕方なさそうに言います
「そっか〜、分かった
今度一番大きないちご、リリカにちょうだいね♡」
にやっと笑って
「天使の次にな」
と答えます
口をとがらすリリカを
豪快に笑いながら
「わかった、わかったよ、お前に一番な!」
と言います
やったーと、ぴょんぴょんはしゃぐリリカに
ぷっぷは小さく呟きます。
「はしたなくてよ」
きゅるりは隣でくすくす笑っています。
「みんなで食べようね〜♡」
リリカは上機嫌でくるくる回りました。
大笑いするイチゴにミントが深く頭を下げます
「お前も、気負いすぎんなよ」
ミントに声をかけると
「じゃあな」
と言って舟の方に去ってゆきます
「「「またね〜」」」
4人はそれぞれイチゴに別れを告げ、歩き出しました。
赤く染まる海の向こう、夜の気配がゆっくりと広がっていく。
「……星降る丘、ですわよね」
ぷっぷがつぶやくと、ミントが地図を広げる。
「北の山沿いを抜ければ、森を通って丘の街に出られます」
「道中、星とか見えたら素敵ね」ときゅるり。
リリカはぐっと腕を伸ばして、海風を胸いっぱい吸いこむ。
「よ〜し! 行こっか♡ 星に会いに〜!」
こうして4人は、次なるキラキラスポットを目指し、夕暮れの港町を後にしました。
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「はへほー……ケーキの国って、どこを見ても素敵だねぇ〜♡」
リリカは空を見上げ、ぽかんと口を開けて呟く。
星降る丘の空は深い藍色に染まり、大小さまざまな星たちがきらめいていた。
時折、星たちは1つ、2つと丘へ降りてきて、水道橋の先にあるカゴへ果物を落とし、笑いながら空へと戻っていく。
「すべり台……かな?」
きゅるりが不思議そうに目を輝かせる。
ミントはそっと説明を添えた。
「空にあるブルーベリーやカシス、ハスカップなどの果物を、星たちが採って運んでいるのです。
よく見ると、光の強い子、弱い子、それぞれが一生懸命働いています
みんなが集まってこの星空になっております」
「ここもケーキの材料を採っているんですのね?」
と、ぷっぷが感心したように尋ねる。
「ええ。ケーキの国では、あちこちの場所で素材を集めて、それぞれが持ち寄ってケーキを作っていたのです」
ミントの声には、少しだけ切なさと懐かしさが混じっていた。
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「じゃあリリカ、すべり台いってきまーす!」
リリカは片手を高く掲げて、星たちの流れに向かって走り出した。
「まーぜーてー♡」
「私もっ」
きゅるりも続いて駆け出す。
残されたミントとぷっぷ。
「行かないんですか?」とミントがそっと尋ねると、ぷっぷは少しムッとしたように返した。
「すべり台なんて、誇り高き成熟した妖精がやることではありませんわ」
ミントは小さく「そうですか」と呟き、岩陰などを丁寧に調べはじめた。
すると、ぷっぷもミントから少し離れ、「別の場所を見てまいりますわ」と歩き出した。
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「……あんなに果物を運んで、どこにためているのかしら?」
丘には、ぷっぷの背よりも高い水道橋がいくつも張り巡らされていた。
果物はどうやらその中を通って、どこかへ送られているようだ。
終着点を目指し、ぷっぷはゆっくりと歩き出した。
やがて、水道橋の柱の陰に、弱々しい光を放つ小さな星の妖精がいるのに気づいた。
「こんばんは。……素敵な星空ですこと」
少し気取った口調で、ぷっぷは話しかけた。
「……こんばんは。」
小さな妖精は、自分よりも大きな木材を持ちうつむきがちに答えた。
「ワタクシ、ぷっぷと申しますの。お見知りおきを」
「……僕は、スター19475。」
徐々に小さくなる声でスター19475が答える
「はじめまして、スター19475さん。
おせっかいかもしれませんが、私何かお手伝いできるかしら?
大変ご苦労されていらっしゃるみたいだわ」
「…手伝ってくれるの?」
俯いていた顔を上げてる。
「ええ、あなたが許してくれるのなら」
ぷっぷは優雅にお辞儀をして言いました。
「じゃあ、僕が釘を打つからこの木材を支えてくれる?」
スター19475は持っていた木材をぷっぷに手渡し、歪なはしごを水道橋に立てかけます
ぷっぷは言われた通り木材を水道橋のそこに押し付け、スター19475が釘を打つ場所に合わせて支える場所を変えます。
ぷっぷが手を上げれば水道橋のそこに届きますが、スター19475はぷっぷの身長よりも小さく
毎回降りては次の場所にはしごを立てかけて釘を打ちつけます
「いつもはどうしていらっしゃるの?」
ぷっぷは問いかけます
「いつもは接着剤を使うんだ」
「こんなに大きな板は接着剤だけじゃか無理だから、もう少し小さくするんだ
それで最初に接着剤をつけてから木材を貼り付けて、くっつくまで下から支えるんだ
くっついたら、さらに釘を差したり、パテで隙間を埋めたりしてる」
スター19475は少しだけ早口にそしてどこか誇らしげになりながら、仕事のことを話します
ぷっぷは
とても感激して言います
「みんなが滑り台で作業している中で、水道橋の修理をなさっているなんて。あなた、とても立派ですわ」
「……すごくなんて、ないよ。これしかできないんだ」
スター19475は寂しそうに俯いた。
「まぁ、高いところが苦手でいらして?」と、ぷっぷが問いかけると、ブルーは首を振った。
「違うんだ。僕が滑っても光が足りなくて、みんながっかりするんだ。
“星降る丘”に来たのに、降ってきたのがブルーベリーだけだったって……」
声が震え、今にも泣き出しそうだった。
「僕は、星空には必要ない。僕がいなくても、星空は変わらずキラキラしてる。
僕は、“特別な星”になれなかった星なんだ……
あのひときわ輝く《ベガ》のように、個別の名前をもらえなかった星なんだ」
ぷっぷは少しだけ視線を落とし、静かに尋ねた。
「では、なぜ水道橋の修理をしていらっしゃるの?」
スター19475は小さく肩をすくめながら答えた。
「だって壊れたら、みんな果物を運ぶのが大変になるでしょ?
僕が直せば、みんなは滑ることに集中できる。……それだけなんだ」
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ぷっぷはスター19475を見つめ、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「たとえ誰かにとって特別でなくとも、前を向かねばなりませんわ。
人の評価だけで、ご自分の価値を決めてはいけませんの。
それでは、あなたが傷つくだけですわ。
価値観とは、移ろうもの。
誰かの理想に縛られてはなりません。
目指すべきは、あなた自身の理想でございます。
ワタクシだって、リリカではありませんのよ。
あのように甘くて強く、誰からも愛される妖精ではありませんわ。
けれど――
ワタクシがワタクシを特別と信じてあげなければ、誰が信じてくれますの?
まず、ご自身を支えるのは、あなたでなければなりませんのよ。
いつまでも下ばかりを見ていては、
今こうして目の前にいるワタクシにすら、気づけませんわ。
ワタクシが語りかけているのは、
この星空の下で、
たったひとりの――あなたですのよ」
—
スター19475は、はっとしたように顔を上げた。
しばらくの沈黙のあと、小さく息をのむように言う。
「ぷっぷさん……
星空に届かなくても……ここでできることが、あるんだって……
ちゃんと、見てくれる人がいるんだって……」
目に涙を浮かべながら、スター19475はそっと言った。
「もし、よかったら……スター19475じゃなくて、
ブルーって呼んで下さい
僕が、自分で自分につけた名前なんです
でもこんなに暗い星の僕が、名前を名乗るなんて恥ずかしくて今まで誰にも教えたこと、無かったんです」
ぷっぷは優しく言います
「素敵なお名前だわ
ブルーさん
初めて教える妖精が私なんて光栄だわ」
ブルーはぷっぷを見上げて
そっと手を差し出しました。
「もし良かったら、お友達になってください」
差し出されたその手に、ぷっぷは優しく手を添えた。
「もちろんですわ。
たとえ目立たなくとも、ご自分にできることを誠実に果たすあなたは、
ワタクシにふさわしいご友人でいらっしゃいますのよ」
ふたりの視線が重なったその瞬間――
青い光がふたりの体から溢れ出し、混ざり合い、夜空のように深く澄んだ青いオーブが生まれた。
---
「オーブです! 二つめの!」
駆け寄ってきたミントが、目を輝かせて叫んだ。
「あとひとつで、天使のもとへ行けます!」
リリカときゅるりも走ってくる。
「やったー! さすがぷっぷちゃん♡」
「ぷっぷちゃん、すご〜い!」
ぷっぷは優雅に微笑みながら言った。
「ブルーさんの優しさと勇気あってこそですわ」