お出掛け先なんだけど、街と海と山ならどれが良い?
ケーキの国とアフタヌーンパーティー
4章
赤く染まる海って、どんな赤色なのかな?」
そんなことをつぶやきながら、リリカたち3人は、ミントの案内で海辺の街の港へとやってきました。
「すてき〜♡」
赤く染まった海が、きらきらと輝いています。沖にはいくつかの舟が浮かび、船上では妖精たちが何かを引き上げているようでした。
きゅるりがそっとつぶやきます。
「きれいな朝焼け……」
すると、その隣でぷっぷが同時に言いました。
「なんて美しい夕焼けなの……」
ふたりは顔を見合わせ、不思議そうに見つめ合います。
――すると、
「いちごジャームっ♡!!」
リリカが、両手を大きく広げて、海に向かって叫びました。
「……」 「……」
きゅるりとぷっぷは、無言でリリカを見つめます。
そんな視線にもめげず、リリカはくるくると楽しそうに回りながら言いました。
「だって、見て♡ あの色、いちごジャムの瓶を太陽に透かしたときの色なんだもん〜」
ぷっぷはため息をつきつつ、口元をほころばせます。
「リリカさんってば、本当に困った方ですわ、
こんなに美しい景色の前でも食べ物なんですもの」
きゅるりはほわんと笑いながらつぶやきました。
「リリカちゃんらしいね」
ミントが静かに説明を加えます。
「天使はキラキラしています、
だからこの街で一番キラキラしている場所へご案内しました」
そのとき、沖から一艘の舟がこちらに近づいてきました。舟には真っ赤ないちごが山のように積まれています。
「ありゃ? ミントじゃん。いちご狩りに来たの?」
舟の上から声をかけてきたのは、子ぎつねの妖精・イチゴでした。
ミントが返します。
「こんにちは、イチゴさん。
今日は天使を探していて、
外からの手伝いの方も来て下さっているんです」
そして、リリカたちに紹介します。
「こちら、海でいちごを収穫しているイチゴさんです」
「海でいちご狩り〜!?♡」
3人はそろって声を上げました。
この海では、いちごだけでなく、ラズベリー、チェリー、ザクロ、ローズヒップ、さらにはワインが採れる海域もあるのです。
「へえ〜! さすがケーキの国! 海で採れちゃうんだね」
「はい、赤くてケーキに使えるものなら、だいたい海で採れますよ。
場所はイチゴさんが教えてくれます」
「おいらはホントはずっといちごだけ採りたいんだけどね〜。お客さんの要望なら仕方ないっしょ?」
イチゴはにかっと笑って言いました。
「それで、どうする? 沖に行きたいなら、いちごを下ろすの手伝ってくれたら舟に乗せてあげるよ」
ミントが静かにうなずきます。
「ぜひお願いします。
この街は海の街ですから、一度は沖へ行っておきたいと思いまして」
「オッケー! じゃ、手伝って〜」
リリカたちは、次々と舟からいちごを運び出しました。
イチゴは大事そうに、特別に大きないちごを手に取りながら、ぽつりとつぶやきます。
「これ……天使にあげたいんだ」
その瞳はキラキラと輝いていて、ミントはどこか切なげにその横顔を見つめていました。
「いちご大好き〜♡ フルーツいっぱい乗せたいなぁ〜」
リリカがうっとりして言うと、イチゴはむきになって答えます。
「いやいや、いちごと生クリームだけ! シンプルこそ至高! 気品と素材の良さが伝わるってのがいちごケーキの真骨頂なんだよ!」
熱く語るイチゴに、リリカたちは「うん、うん」とうなずきながら、舟の荷物をすべて運び終えました。
舟は沖へと出て、漁の邪魔にならないよう静かなスポットで停まりました。
「わあ〜、本当に海の中にいちごやザクロが成ってる!」
きゅるりは果物を拾うために海へそっと手を入れます。
ぷっぷは水をすくってはこぼし、そのキラキラとした光をじっと見つめていました。
ミントは身を乗り出して、海の中の影を見逃すまいと目を凝らします。
甲板に腰を下ろしたイチゴが、ぽつりとこぼしました。
「なんでこの海、いちご以外も採れちゃうんだろなぁ」
「いろんな選択肢があるって、素敵なことだよ〜♡」
リリカがにっこりして近づきます。
「そう? どうせ選ぶのはいちごだし、選択肢なんていらなくない?」
「ねぇ、この海の色って、何色に見える?」
リリカが問いかけると、イチゴはふざけたように言います。
「やっぱ、いちご色の海でしょ?」
「にてる〜♡ 私はね、いちごジャムの色〜!」
リリカがくるくる回りながら言うと、イチゴは笑って答えます。
「…なんだよ、いちご大好きじゃん」
リリカは、少しだけ真剣な顔で話し始めました。
「うん、いちごは大好き。でもね、“朝焼け”とか“夕焼け”って言葉も素敵だなって思ったの。
同じ色でも、見る人によって見え方が違うんだよ…。
私がいたところでは、いちごは畑とか森になるの。
いちごの季節になると、みんなで摘みに行ってね、ちょっとつまみ食いしたりして。
いっぱい採れたら、家族みんなでジャムを作るの。
できたジャムは、ご近所さんに分けて、笑顔が繋がっていくの。
だからね、私にとって“いちごジャムの色”は幸せの色なの。
でもそれは私の想い。
他の人の想いも、おんなじくらい素敵なのよ。
いちごも、ほかの材料も、みんな素敵♡」
イチゴは、ぽつりとつぶやきました。
「……そっか。他のも素敵かぁ」
「少し意地張ってたかもな……
みんなにいちごケーキを否定されたくなくてさ。
それで先に、否定しちゃってたのかもしれない」
リリカは笑いながら言います。
「うん、攻撃されたくないから先に攻撃しちゃうって、たまに有効だけど、ずっとはダメ〜♡」
イチゴは照れながら言います。
「わかったよ。ごめん。
おいらにとっていちごは特別だけど、
他の人にも“特別”があっていいし、当たり前なんだな」
そう言って、イチゴはリリカとしっかり握手を交わしました。
その瞬間――
ふたりの体から赤い光があふれ出し、混ざり合って、真っ赤なオーブが生まれました。
「えっ!? なにこれ〜!?」
リリカがオーブを抱えて目を丸くします。
ミントは驚いたように言いました。
「まさか……。そのオーブは、天使を探す“地図の元”です。
3つ集めると、天使のもとへ導く地図が完成するはずです」
「やったー! 天使の手がかりゲット〜♡」
リリカは大はしゃぎで舟の上をぴょんぴょん飛び跳ね――
その揺れで、危うく落ちかけたぷっぷに怒られるのでした。