お茶を飲んで一息ついたらお出掛けしましょ?
ぐるぐると回転しながら急降下する不思議な感覚に、リリカ・きゅるり・ぷっぷの3人は思わず身を寄せ合っていた。
小さな体のぷっぷが飛ばされないように、リリカときゅるりは彼女を真ん中に抱え込み、しっかりと支えていた。
ぷっぷは2人にしがみつきながら、体をぎゅっと縮めて震えている。
やがて回転が止まると、周囲から怒鳴り声や泣き声が聞こえてきた。
3人はそっと目を開け、あたりを見回す。
そこは広場だった。けれど、中央の台座も、その周囲も、ぐちゃぐちゃにつぶれたケーキで散らかっている。
妖精たちが怒鳴り合い、泣き叫ぶ、まるで混乱の嵐のような光景だった。
「な、なんですのこの状況……! こんな汚い場所、歩きたくなくてよ……」
ぷっぷは声を震わせる。
「ぷっぷちゃん、大丈夫。抱えてあげるね」
きゅるりは優しく微笑み、ぷっぷをそっと抱き上げた。ケーキで足が汚れないように大事に、そっと。
リリカは周囲の様子を見回してから、ふたりに向き直る。
「ふたりはここで待っててね。遠くには行かないよ、必ずすぐ戻るから♡」
そう言うと、比較的落ち着いて見える妖精のもとへ向かう。
きゅるりとぷっぷは、泣きそうな顔でお互いをぎゅっと抱きしめながら、黙ってリリカを見送っていた。
「こんにちはー♡ リリカっていいます。どうしてみんな泣いたり怒ったりしてるの?」
リリカが話しかけたのは、台座を見上げて心配そうにしていた猫の妖精だった。
「こんにちは。もしかして……外の人かしら? 私はミントよ」
ミントは寂しそうに台座をちらりと見やって言った。
「天使がいなくなってしまって、みんな混乱してるの」
「天使?」
リリカは首をかしげる。
「ええ。ちょっと待ってて。リーダーを呼んでくるわ。彼のほうがちゃんと説明できるから」
そう言ってミントは足早に広場を離れていった。
リリカはあたりを見渡し、他にも話せそうな妖精がいないか探したが……
どの妖精も泣くか怒鳴るかで、どうにも話しかけづらい。
「うーん……じゃあ、ミントちゃんを待ちますか♡」
そう言って、くるりと回りながらふたりのもとへ戻っていく。
少ししてから――
ミントが戻ってきた。隣には、大きな犬の妖精がいる。
「ミントちゃーん、こっちだよー。ありがとう♡」
リリカが手を振ると、ミントは頷いて犬の妖精に「あちらにいらっしゃいます」と伝えた。
犬の妖精が、静かにリリカたちに話しかけてくる。
「こんにちは、外の人たち。わしはこの国のリーダー、タルトじゃ」
「こんにちはー♡」
「こんにちは……」
「ごきげんよう……」
元気なリリカに比べて、きゅるりとぷっぷの挨拶はやや控えめ。
タルトはミントに頼み、持ってきた大きなカーペットを広場に広げ、3人を座らせる。
ミントは用意していたお茶を配ってくれた。
「さて、何から話せばよいか……」
タルトはゆっくりと語り始める。
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ケーキの国は、広場を中心に4つの地方に分かれていたこと。
広場の台座にはいつも天使がいたこと。
天使がいたことで、国じゅうがキラキラ輝き、いつも虹がかかっていたこと。
その虹をたどれば、外の世界にも出られたこと。
ある日、天使が「特別なケーキが食べたい」と言ったこと。
その一言で、妖精たちは「自分のケーキこそ特別」と言い争い、互いのケーキを壊し合い、広場をこんな状態にしてしまったこと。
そして、天使も、キラキラも、虹も、全てが消えてしまったこと――
—
リリカはタルトが話すたびに
「天使〜?」
「特別なケーキ〜♡」
「もったいな〜い」
と話かけるが、そのたびにぷっぷが
「リリカさん、お静かに」
と言って諫めていた。
天使の失踪の話を苦しそうに言い終えた後、タルトは3人を見て迷うように言った。
「外の人よ。お願いがあります。どうか……天使を探してもらえませんか?」
タルトは言葉が終わるとその場で深々と頭を下げた。
「外に出るには、天使の力が必要なのです。
これはあなたたちにとっても意味のあること。
もちろん、我々も全力で協力します」
しばらくの沈黙の後、ぷっぷが尋ねた。
「どうして、ご自身でおやりにならないの?」
タルトは苦しそうに答えた。
「もう探しました。国じゅう、どんな箱の中も、どんな影も……。
でも見つからない。だからこそ、外の人に頼りたいのです。
あなたたちなら、わしらと違う視点で見られるかもしれない。
どうか、お願いします。もう……万策尽きたのです」
きゅるりとぷっぷは、不安そうに顔を見合わせる。
そのとき、リリカが小首をかしげて――にっこり笑った。
「いいよー♡ リリカ、がんばる♡」
「リリカさん!?」「リリカちゃん!?」
驚くふたりに、リリカはあっけらかんと続ける。
「だって、やることないんだもん♡。広場でずっとみんなが泣いてる姿見てるより楽しいでしょ?
大丈夫、がんばって見つからなくても怒る人いないでしょ?」
「もちろんです。誰も怒りはしません。ただ……どうか、挑戦してほしいのです」
タルトは目を細め、また深く頭を下げた。
「オーケー♡ がんばっちゃうよー!」
リリカは腕をぴょんと突き上げ、笑顔を見せる。
ぷっぷは呆れた顔でため息をつき、きゅるりはクスッと笑った。
「リリカさんったら……ほんと、どこでも変わらないわ」
「うん、リリカちゃんらしくて安心するね」
ぷっぷは顔を上げて言います。
「同行させていただきますわ。
リリカさんだけでは心配ですもの。」
きゅるりも、それに続きます。
「はい、私も行きます。」
「うれしい〜♡
2人はリリカが守るよ〜」
リリカは2人を抱きしめようとして、
ぷっぷから「はしたないわ」と押し返されます
タルトは静かに言います。
「ミントを共に連れて行ってください
道案内は出来ますし、街の説明も出来ますので」
ミントは隣で深く頭を下げます
「は~い、ミントちゃんよろしくね♡みんなまとめて守っちゃうよ〜」
リリカはぴょんと立ち上がり、カーペットの外に出る。
きゅるりはぷっぷをそっと抱き上げて、リリカに続いた。
ミントは立ち上がり、3人に告げます。
「すべての街をご案内いたします。
特にご希望がなければ、最も賑わいのある、
『海辺の街』
を最初にご案内したいと思います。」
こうして3人はミントに連れられ、
『海辺の街』へ向かうことになった。