パーティーにお花とお茶は必要でしょう?
ケーキの国とアフタヌーンパーティー
2章
リリカが自宅にたどり着くと、玄関の横には大きなバスケットを抱えた羊の妖精、きゅるりの姿がありました。
「きゅるりちゃん♡ もう来てくれたの? うれしい〜! リリカ、きゅるりちゃんのこと大好きー♡」
ケーキの箱を抱えたまま、リリカはぱたぱたと駆け寄ります。
「リリカちゃん、今日は誘ってくれてありがとう。
パーティーの準備、お手伝いできたらな〜って思って。
テーブルクロスとかナプキンとか、お花も少し持ってきたの」
きゅるりは、少し恥ずかしそうに言いました。
「天使がいる♡……目の前に羊の天使が……!」
リリカはケーキを玄関ポーチの棚の上にそっと置いて、ぎゅっときゅるりを抱きしめました。
「リリカちゃん……恥ずかしいよ〜」
きゅるりは、でもとってもうれしそうに笑います。
ふたりは一緒にテーブルと椅子を庭に運び、クロスをかけたり、花を飾ったりとパーティーの準備を始めました。
「フルーツサラダでいいかな〜?
それとも、しょっぱいものも欲しい?
きゅうりのサンドイッチの方がいいかな〜♡」
リリカが迷いながらメニューを考えていると、新たなお客さんが現れました。
「麗しき朝でございますわね」
優雅な声とともに現れたのは、大鷲に乗ったハムスターの妖精・ぷっぷ。
その大鷲は鋭い爪で、大きな荷物をしっかりと掴んでいます。
「わぁ、ぷっぷちゃんも大鷲さんも来てくれたの? うれし〜♡」
リリカが笑顔で出迎えると、ぷっぷは少しツンとした様子で言いました。
「人伝にパーティーのことを聞いたのですけれど、
招待状がワタクシの手元に届いておりませんの。
……リリカさん、どういうおつもりかしら?」
「えっ、さっきぷっぷちゃんのおうちにも行ってノックしたのよ〜。
でも、ちょうどお留守だったの。
今日思い立ってみんなを誘ってるから、招待状は作ってないの。
ごめんね♡」
リリカは首をかしげて素直に謝ります。
「まぁ、当日にパーティーのお誘いなんて聞いたことありませんこと。
リリカさんらしいと言えるのかしら。
……ワタクシ、本来であれば参加などいたしませんけれど、
リリカさんがどうしても来てほしいと言うのなら、
少しだけ調整して差し上げてもよろしくてよ?」
ぷっぷはわざとらしく目を細め、リリカを見下ろします。
「リリカ、ぷっぷちゃんが来てくれるとすご〜く嬉しい♡
お願い、来て?」
「……仕方ありませんわね。
リリカさんはいつも突然なんですもの。毎回調整できるとは思わないでほしいわ。
それに、あなたのことですもの──きっとお飲み物のご用意などお忘れになっているのでしょう?
ティーセットと最高級の茶葉を持参いたしましたわ」
ぷっぷは鼻を高くしながらも、どこか嬉しそうに言いました。
「ありがとう、ぷっぷちゃん♡
やさしい〜! リリカ、ほんとにうれしい♡」
ぷっぷは大鷲に水桶を持たせ、井戸と庭を何度も往復してお湯の準備を始めます。
「リリカさん? 水がめはどこにあるの?
あなたのことですもの、きっと大勢お呼びしているのでしょう?
早くお湯を沸かさないと間に合いませんわよ!」
その慌ただしさに、リリカときゅるりは顔を見合わせて笑いました。
「やさしいね〜」
きゅるりが言うと、
「あの素直じゃないところがまたかわいいのよ〜♡」
とリリカも笑って答えます。
「あなたたち、手が止まっておりますわよ!」
ぷっぷの声が庭に響きました。
「はーい♡」
リリカときゅるりは、再び準備を始めます。
準備がある程度整った頃、リリカはふと立ち止まります。
「失敗…
あんなに可愛いケーキ、まだ見せてない〜」
玄関ポーチへ向かい
大切なケーキを箱からそっと取り出します。
天使が真ん中にちょこんと座っていて、きらきらな星やいちご、ミントが飾られた可愛いケーキ。
陽の光に当たって、天使がキラキラしています
「可愛い♡」
みんなに早く見せたくて
箱に戻さないまま、庭に小走りで向かいます
「ぷっぷちゃ〜ん! きゅるりちゃ〜ん! 大鷲ちゃ〜ん!」
リリカがみんなの名前を呼びながら、庭にたどり着くと、
「走るのはやめなさいな!
あなた、あんまり運動神経よくなくてよ?」
ぷっぷが駆け寄りながら注意します。
きゅるりも、心配そうにあとを追いかけます。
リリカがケーキをテーブルに置こうとしたそのとき──
「──あっ!」
3人の声が同時に重なりました。
リリカの足が、地面に置かれたきゅるりのバスケットに引っかかったのです。
咄嗟にケーキを支えようと手を伸ばした3人。
……その瞬間。
ケーキの中央にいる天使のキラキラが強い光になりました。
「きゃーっ!」
リリカ、ぷっぷ、きゅるり──3人とも、その光に吸い込まれていってしまいました。
「キューッ……キュルル……」
取り残された大鷲は、テーブルの上にぽつんと残されたケーキに向かって、小さく鳴いたあと、しばし空を見上げました。
まわりの森は静まり返り、小鳥のさえずりさえ、どこか遠くに聞こえるだけ。
大鷲は、鋭い視線をテーブルの上のケーキに向けました。
そして、そっと翼を広げると、その大きな体でケーキを覆うように立ち、鋭い嘴で静かに“守る姿勢”を取ります。
風がふわりと吹き、ケーキの上のミントの葉がかすかに揺れました。