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投棄

 京都最大の繁華街、四条。その中心部である四条河原町から幾らか離れた、栄華も陰り出す客足の乏しい通りに、打ち棄てられた廃ビルがある。狭い路地の横に立つこの朽塔は、以前入居者が自殺したと言う経緯から死神ビルと呼ばれている。

 深夜、その死神ビルの路地裏に面する窓から、古道房夫(ふるどうふさお)は顔を出し、懐中電灯で照らして周囲を見わたした。

 昼間であってもろくに陽の差さないその路地に入る人間は皆無であり、それを良いことに積み上げられた大小様々ながらくたが見えた。下に誰も居ないことを確認した古道は、自身のいる四階の窓からゴミを投げ捨てる。それはコンビニで購入した弁当の容器や、自身が出した糞尿のたぐい、そして昨夜から今まで自分が楽しんだ、裸の女の死体である。窓から投棄された物達は、地面に接する時に若干の音を立てたが、すでに積まれていた先達たちがクッションとなり、表通りまでは聞こえない。最後にもう一度、周囲を確かめ、古道は顔を引っ込めた。

 古道がこの場所を見つけたのは七日前のこと。今ではすっかりこのビルを気に入っていた。当然、ガスや電気、水道は止まっている。しかし、新聞や段ボールを工夫すれば暖かい寝床が作れたし、灯り代わりのライトはある、水や食料は近所のコンビニで買えばよく、排便等はそのレジ袋に出してから外に捨てればよい。それに、ここにいれば女も手に入る。生活に必要な金は、その女から頂けばよい。

 彼は先ほど自身が捨てた女の、財布を物色する。てっきり高校生かと思っていたが、女子大の学生証が入っていた。それが市内にある大学かどうか、最近京都にやって来た古道には判らなかったが、一緒に自宅の物らしいアパートのカードキーも入っていたため、この女は一人暮らしだろうと推測した。現金は自身の財布に入れ、学生証等は寝床横のリュックにしまった。

 次に、女が大事そうに抱えていた手荷物の中身を検める事にする。古道が女を襲ったのは、先ほどゴミを捨てた路地裏であるが、ナイフを突き付けられても後生大事に抱えていた物だ。大金か、それともあんな場所にやってくる程だから後ろ暗い物か、とにかく女を”自宅”に連れてきた時から興味はあったのだが、女を使うことに目がいってしまい、今まで放置してあったのだ。期待に胸を躍らせチャックを開く。量販店で簡単に手に入るであろう安物のバックは、重々しくその口を開けた。

「なんだこりゃ」

 その中身を見て、思わずそう呟いた。

 中に入っていたのは、ビニールで何重にもくるまれた何かの塊だった。ビニールを剥がそうとしたが、穴を開けた部分から腐臭のする液体がもれ、手が汚れる。その臭いに顔をしかめながらも膜を取り去ってみると、それはどうやら死んでから何週間も経つ赤ん坊らしかった。

 古道の顔が不快に歪む。久しぶりに女で楽しめたというのに、何だこれは。そう思った彼は、あの窓から乱暴にそれを投げ捨てた。強く投げすぎたため、死体は一度向かいの壁に当たり、そこに染みを残したが、そんなもの古道の知るところではない。

「なんて女だ。清楚な顔しやがって、こんな、こんな、ああ、子どもを捨てに来たのか。確かに、処女じゃなかった。最悪の女だ。そんな汚れた身体で、死体を万力みたいに抱きしめた身体で俺に抱かれやがって、俺に首を絞められてビクビク気持ちよさそうに白眼剥いてやがったくせに、俺を裏切りやがって。俺が、初めて捨ててやった女なのに。既に捨てられてたってわけだ。どうせ下らない男に股開いて、喘いで、糞するみたいにガキを産んだんだろうが、そんな糞穴に俺のを突っ込ませやがって。これならこの前殺した婆の方がまだましだ」

 彼はペットボトルの水で手を清めながらそう毒づいたが、一昼夜にわたる性交の疲れが眠気を誘う。

「ああ、最悪の気分だ。寝てしまおう。どうせ朝になれば下の女は消えているんだ。あんな糞女の顔なぞ、忘れてしまおう」

 そう言うと、古道は新聞紙と段ボールで作った、自身の寝床に入り込み、直ぐにいびきを立て始めた。


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