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7.首都侵攻 1、

 英吉利イギリス軍のジョーンズ大将は、日本國侵攻の総司令官という重責を担い、旗艦ヴィクトリーの艦橋に座乗していた。彼の艦隊は、大西洋艦隊の一部を率いて、はるか故郷を後にした。途中、数ヶ所の植民地に寄港するごとに、物資の補給を怠らず、さらに艦隊には新たな人員と艦船が加わり、来るべき戦闘に向けて着実に戦力を増強しながら、極東を目指し航海を続けてきたのだ。


 艦隊は最後に香港へと寄港し、そこで物資や人員、艦船を最大限に充実させた。束の間の休息で英気を養うと、満を持して出港。最初は台湾海峡を抜け、沖縄方面へと進路を取っていたかのように見せかけたが、途中で鮮やかに舵を切り、日本國の首都を直接目指した。


(大丈夫だ。首都侵攻の情報は漏れていない)ジョーンズ大将は、自らの謀略が成功しているという確信を胸に、静かに艦隊の指揮を執っていた。その顔には、勝利への予感が微かに浮かんでいた。


(奴らは我々の情報に踊らされ、沖縄と鹿児島の守りを固めているらしい。そして、露西亜ロシアもまた、そう思っているはずだ。首都の防衛は手薄なはず。この隙を突き、一気に首都を制圧する。北海道は当面の間は露西亜にくれてやるが、その後は……) ジョーンズ大将は、内心でニヤリと笑みを浮かべた。彼の頭の中には、日本國全土を掌握する壮大な計画が描かれていた。


 艦隊は、日本の沿岸線を巧妙に避け、発見されることのないよう遠回りをしながら首都を目指した。香港に寄港した際、情報部から入手した首都の詳細な地図が、彼の作戦を確固たるものにしていた。(さすがは大英帝国の情報部だ)ジョーンズ大将は、その仕事ぶりに内心で賛辞を送る。地図は彼の希望通りの部数が正確に印刷されており、上級士官や最上級魔導士たちとの綿密な作戦会議も、その地図のおかげで細部まで徹底的に詰めることができたのだ。後は、この周到に練られた作戦を実行するのみ。


 そして今、作戦開始直前。旗艦ヴィクトリーの周囲を、十二隻の精鋭艦が厳重に取り巻き、他の艦艇はやや距離を取って航行していた。まるで巨大な捕食者が獲物を前に息を潜めているかのような静けさが、広大な海に満ちていた。


 作戦開始の時がきた。ジョーンズ大将の前に、黒いローブを纏った六人の最上級魔導士が、無言で立っていた。その存在感は、艦橋の空気を重くする。


「予定通り、作戦を実行します。よろしくお願いします」

 ジョーンズ大将の声は、丁寧だが、そこには指揮官としての揺るぎない意志が込められていた。


 最上級魔導士は、大英帝国において最上級の貴族と同等、あるいはそれ以上の扱いを受ける存在だ。英吉利軍大将であるジョーンズには、本来であれば彼らに命令する権限はない。魔導士たちに直接命令を下せるのは、国王ただ一人。今回の日本國侵攻に際し、ジョーンズは特別に国王より直々の命令権を与えられ、この作戦に出撃していた。しかし、たとえ命令権があったとしても、彼らは畏敬の念を抱くべき相手だ。そのため、ジョーンズの口調は、どうしても丁寧にならざるを得なかった。


 六人の最上級魔導士の中で、最も年長に見える者が、静かに口を開いた。

「それでは、行くぞ」

  その言葉を合図にするかのように、彼の姿が、煙のようにフッとその場から掻き消えた。続く五人の魔導士たちも、まるで幻のように、次々と空間に溶け込むように消え去っていった。彼らが発する微かな魔力の余韻だけが、艦橋に残された。





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