表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/28

6 休暇 2、

 昼食を済ませた林田は、食事代を支払い、ゆっくりと街を歩き始めた。穏やかな午後の陽光が、彼女の顔を優しく照らす。しばらくすると、前方から見慣れた三つの人影が近づいてくるのが見えた。同じ強化人間であり、彼女の部下である中村、木下、井上だった。三人は林田の前でぴたりと立ち止まり、軍規に従い、きっちりと敬礼する。林田もそれに答礼を返した。


「任務中ではないから、敬礼は不要でいいぞ」

 林田の言葉に、中村は少しばつが悪そうな顔をして「そうでした」と呟いた。


「今から飯を食いに行きますが、一緒にどうです?」

 中村が恐縮しながらも誘う。林田はにこやかに首を振った。

「今、食べてきたところだ。」


「それでは、俺たち今から食べてきます!」

「ゆっくり食べてこい。」

 三人は林田に軽く会釈をすると、連れ立って食堂の方へと立ち去っていった。その背中には、休暇を満喫する兵士たちの開放感が漂っていた。


 林田は、三人の背中を見送ると、再びゆっくりと歩き出した。ここ首都とも、しばらくお別れだ。いつになったら、再びこの平穏な街に帰ってこられるだろうか。そんな思いが、胸の奥に一抹の寂しさとして広がる。すれ違う人々や、商店の中から時折向けられる挨拶に、彼女は立ち止まって丁寧に挨拶を返す。市民たちの温かい眼差しが、林田の心にじんわりと染み渡った。


 天気は変わらず晴れ渡り、ところどころに白い雲が、まるで綿菓子のようにぽっかりと浮かんでいる。こんな日は芝生に寝転がったら、さぞ気持ちがいいだろうな、と林田は思った。しかし、残念ながらこの商店街の近くには、そんな場所は見当たらない。


 商店街を抜け、しばらくのんびりと歩き続けると、やがて小学校の校庭が見えてきた。校庭では、子供たちが無邪気に歓声を上げ、夢中になって遊んでいる。林田は、柵越しにただぼーっとその光景を眺めていた。子供たちが楽しそうに遊ぶ姿を眺めるのが、彼女は好きだった。その純粋な笑顔を見ていると、日々の訓練や、背負う重責から解放されるような気がしたのだ。


 しばらくして、そろそろ寮へ帰るか、と思い立ち、商店街の方向に向かって歩き出した。そういえば、英吉利イギリスが沖縄か鹿児島に侵攻してくるという情報があったが、あの話はどうなったのだろうか。北海道と同様、沖縄と鹿児島にも全国から応援部隊が派遣されたと聞いていたが、北海道と沖縄、鹿児島以外の防衛は手薄になっていないだろうか? ふと、そんな懸念が頭をよぎる。この首都も、本当に大丈夫なのだろうか。まあ、それは上層部が考えることか、と林田は思考を打ち切る。そんなことを考えながら歩いていると、周囲がにわかに薄暗くなってきた。まだ夕方には早い時間だ。違和感を覚え、空を見上げると、そこには目を疑う光景が広がっていた。


 首都の上空、澄んだ青空を切り裂くように、巨大な六つの黒雲が、おぞましく渦を巻いていた。なんという禍々しさだろう。不吉な予感に、林田は身震いした。


 商店街を歩いていた人々も、数人が異変に気づき、空を見上げて指差す。「あれはなんだ……?」と、怯えたような声が、あちこちから口走られていた。林田もまた、その恐ろしい光景を、ただ見上げていた。


 渦巻く黒雲の、その禍々しい中心部のすぐ下。そこには、宙に浮かんだ人間の影があった。六つの黒雲のそれぞれに、同じことが起こり、合計六人の人影が宙に浮遊している。六人とも、不気味なほどに同じ黒い服に身を包んでいた。そして、全員がゆっくりと右手を掲げ、掌を上にした。次の瞬間、彼らの掌の上には、赤黒い火球が発生し、見る見るうちに大きく膨れ上がっていく。そして、その右手を、一斉に、ゆっくりと地上へ振り下ろした。




 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ