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21.北の大地 1、

 露西亜ロシア軍が北海道に侵攻してくる以前から、日本國政府は北海道民を本州に避難させるための大規模な輸送作戦を展開していた。海軍の艦艇だけでなく、民間船舶にも協力を仰ぎ、北海道と本州の間を全力でピストン輸送したのだ。それでも、約250万人いる北海道民の全てを輸送しきることは叶わず、露西亜軍が上陸へと踏み切ってしまった。露西亜軍が上陸した後は、北海道民を侵攻してくる方角の反対方向へと、陸軍が警察の協力を得て迅速に誘導した。そのおかげで、今のところ民間人の死傷者はまだ出ていない。


 しかし、戦場においては、依然として露西亜軍の優勢が続いていた。彼らの分厚い前衛により、日本軍は押し込まれ続けている。後方からは神術による援護が行われるものの、露西亜軍も強力な魔法で対抗してくるため、均衡が破れない。決定的に戦況を左右しているのは、まさにこの前衛の兵力差だった。


 日本軍には各地から増援部隊が到着しており、順次、前線に送り出されている。だが、露西亜軍は着実に占領地を広げていた。


 日本軍が最も懸念しているのは、露西亜軍の増援部隊がいつ到着するか、ということだった。占領地が広がれば、それを守るためにさらに人員が必要となる。したがって、露西亜軍の増援部隊はいずれ必ず来るだろう、と予測されていた。


 北部方面隊のトップである本田大将は、自軍の人員不足を痛感していた。平時であれば方面隊の人員は12,500名だが、戦時である今は各地からの増援で25,000名と倍増している。それに対し、敵兵は渡海時には100,000人いたとの情報だ。上陸するまでに激しい迎撃で2割〜3割は減らしたものの、依然として圧倒的な戦力差があった。そして今、刻一刻と日本軍の死傷者が増え続けている。


 北部方面隊は二個師団体制である。今、その師団長二人、すなわち第一師団師団長の佐藤中将と第二師団師団長の鈴木中将、そして彼らの参謀二人、そして本田大将の合計五名が、最前線の作戦本部としている簡素な天幕で会していた。


「敵は、前線が伸びて補給線が延びてきたせいか、最近、進軍がわずかに遅くなってきている。大人数転送装置の完成ももう少しだという情報が入ったから、ここがまさに踏ん張りどころだ。」

  本田大将は、険しい表情で四人を見回しながら、現状を共有した。


「敵増援部隊の情報は何かありますか?」

 第一師団師団長の佐藤中将が、真剣な眼差しで尋ねた。


「情報局から、着々と準備は進んでいるようで、まもなく出発するだろうと連絡が入った。」

  本田大将は答え、さらに続けた。

「我々としては、増援が来る前に少しでも敵兵を減らし、占領地を奪還したいところだ。」


「その件ですが、参謀と話し合っていて、一つ、策がまとまりました。」

  第二師団師団長の鈴木中将が、前へと進み出て言った。


「策とは?」

  本田大将が興味を抱いたように尋ねる。


「伸びているはずの敵の補給線を寸断し、作戦行動を鈍らせるというものです。」

  鈴木中将が説明すると、本田大将はさらに具体的な方法を求めた。

「具体的にどうやって寸断する?」


「敵に見つかりにくい夜間に、月光軍出身者が行います。月光族は夜目が利きますから、夜間隠密行動に最適です。」

  鈴木中将が提案する。


 しかし、本田大将には懸念があった。

「元々、月光軍出身者は人員が少ない。彼らは現在、夜間の警備で重要な役割を果たしており、彼らの働きにより防衛線が上手くいっている。そこから人員を割けば、他の場所の守りがおろそになるのではないか。」


「そこで、本田大将から国家安全保障省本部に、他の方面隊から月光軍出身者の増援をお願いしてもらいたいのですが。」

  鈴木中将は、自らの提案の実現のために、さらなる要求を突きつけた。


「佐藤中将はどう思う?」

  本田大将は、佐藤中将に意見を求めた。


 佐藤中将は、隣に控える参謀と軽く言葉を交わすと、慎重な口調で答えた。

「大人数転送装置が稼働するのがいつになるか分からない状況です。その間にも敵は増強されるでしょう。したがって、この作戦も、実行しておくべきだと思います。」


 本田大将は深く頷いた。

「わかった。本部に話してみよう。」

  彼の決断が、北海道の戦況を動かす新たな一手となるのか。簡素な天幕の内部に、緊迫した空気と、わずかな希望の光が満ちていった。




 


 

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