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2.訓示

 さて、話は遡るが、林田未結は、日本國における情報伝達の速度を飛躍的に向上させるため、国家情報局内で転送装置の普及に尽力していた。その任務は、渡辺中佐の補佐という重要な役割を担いながらも、彼女自身の軍での所属は、意外にも最前線の歩兵部隊であった。


 日本國の国防軍は、七軍に加え、伝統的な歩兵部隊や騎馬隊をも擁する、多様な編成を誇っていた。歩兵部隊はさらに細分化され、かつての弓隊に代わって、今は砲兵隊や機銃隊といった近代的な装備が並んでいた。


 部隊が寝起きする寮は、二階建ての建物が六棟、中庭を囲むようにして建ち並んでいた。質実剛健な造りだが、どこか生活感が漂うその場所で、林田は日々を過ごしていた。


 夜が明けて間もない頃、まだ空気には夜の冷たさが残っていた。けたたましい集合ラッパの音が外から響き渡り、静寂を切り裂いた。林田は既に身支度を終えていたため、迷うことなく制服に身を包み、瞬く間に集合場所へと向かった。


 何事だろう。林田が集合場所に到着した時、そこにはまだ誰の姿もなかった。この寮に現在居住しているのは、軍の研修生たちだ。林田と同じく、並外れた身体能力を持つ強化人間も三人、そこにいた。


 林田が到着してすぐに、他の強化人間三人も続けて現れた。沈黙の数分が過ぎ、やがて、ざわめきと共に全員が集まり、五十人ほどの研修生が整然と列をなした。一糸乱れぬ直立不動の姿勢、いわゆる「気を付け」の姿勢で、彼らは上官の言葉を待った。


 研修生全員の整列を確認した寮長が、毅然とした声で集合完了を報告する。すると、研修生たちの前に、陽光軍中尉の林が静かに歩み出た。彼は立つとすぐに、「休め!」と低いながらもよく通る声で号令をかけた。


「朝早くから集まってもらったのは、緊急事態が発生したためだ。」

 林中尉は、一人ひとりの顔をじっくりと見回しながら話し始めた。彼の視線は、有無を言わせぬ強い意志を宿していた。林中尉は情報局員のメンバーだが、情報分野の研修時には教官として研修生の前に立つこともあり、研修生たちは皆、彼の厳しさと的確な指導を経験済みだった。


 緊急事態。その言葉の響きに、研修生たちの間に微かな緊張が走る。林中尉の口から語られたのは、衝撃的な事態だった。**露西亜ロシアが、突如として日本國の北部領土、北海道へと侵攻したというのだ**。研修は今まで通り続けられるが、予定表通りの進行は難しくなるだろう。柔軟な対応が求められる、と林中尉は続けた。情報局としては、この混乱に乗じて、露西亜の工作員が扇動的な宣伝や流言を流す可能性があると考えている。そうした情報に惑わされることなく、常に情報の出所を確認し、その信憑性を吟味するようにと、厳かに訓示された。


 訓示が終わると、解散の号令がかけられた。しかし、強化人間である林田と他の三人の計四名は、林中尉に呼び止められ、寮の中にある談話室へと向かうよう指示された。


 六棟ある寮のうち、一棟は食堂や談話室、浴室といった、隊員たちの束の間の休息を許す空間として活用されていた。




 




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