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19  避難所 3、

 高杉は、身体強化魔法を最大限に発動させていた。彼の運動能力、知覚能力は常人の数倍に引き上げられ、物理攻撃や有毒物質への耐性も格段に向上している。それは、まさに人を超越した機能だった。


 しかし、その引き上げられた知覚能力をもってしても、目の前の林田の動きは完全に見切れない。予測不能な速さと正確さで、風魔法使い二人の右肩関節を瞬時に外した彼女は、まさに規格外の存在だった。


 林田はあちこちから六人の警察官が迫ってくるのを確認した、その刹那だった。六人の警察官は、突如として胸部に氷の矢を撃ち込まれ、苦悶の声を上げる間もなくその場に倒れ伏した。


 そして、間髪入れずに氷の矢は林田にも向かって飛んできた。警察官たちの容体を診る暇など、全くない。氷の矢を撃ち込んだのは、英吉利イギリス軍精鋭部隊からの斥候の一人だ。林田は、飛来する氷の矢を、あたかも舞うように軽々と躱かわした。すると、間髪入れずに、今度は十本の氷の矢が同時に、林田目掛けて飛来した。さすがにこれは大きな動きでなければ躱しきれない。林田は、全身をバネのようにしならせ、ギリギリでそれらを躱す。


 回避行動によって、一瞬動きが止まった林田の両脇に、身体強化魔法でパワーを増した高杉と、もう一人の身分証を所持していた男が、まるで影のようにピタリと密着した。彼らは林田の両腕を背後へと容赦なくねじ上げ、完璧に押さえつけた。強化人間である林田でさえ、この二人がかりの力には抗えず、完全に身動きがとれなくなった。


(なんという力だ。化物かこいつは)

 高杉は、内心でそう呟いた。身体強化魔法で強化した自分たち二人がかりで、ようやく何とか押さえ込めている状態だ。ほんのわずかでも力を緩めれば、林田は即座に反撃に転じるに違いない。彼は、氷の矢を放った者と、右肩を痛めていない残りの一人に、早く次の一手を繰り出すよう催促した。


 身動きができない林田は、容赦なく放たれる氷の矢に晒され、全身が細かく傷つけられていく。さらに、背後から接近した最後の一人が、土魔法で作り上げた巨大な岩石を林田の背中にサックの上からぶつけ、彼女はうつ伏せに押し倒された。そして、押さえつけられたまま、その巨岩をそのまま上から落とされた。


 狙いは四肢の破壊だ。まず、林田の左足に岩石が叩きつけられる。骨が折れる鈍い音と、林田の呻き声が、周囲の悲鳴に混じって響いた。続いて左肘に岩石が落とされると、左肘があらぬ方向に大きく折れ曲がった。痛みにもがき、再び林田は深く呻いた。


「さて、次は右側だ。おい、そっちはもう力が入らないだろうから、こっちを押さえつける応援をしてくれ!」

 高杉は、勝利を確信したかのように、もう一人の男に指示を飛ばした。


 土魔法を操る魔法使いは、巨大な岩石を空中高く浮かせ、林田の残り二本の四肢を叩き潰そうとした――その刹那だった。林田は全身の力を一点に集中させた。高杉の声が聞こえた方向、すなわち高杉の頭部があると確信した場所へ、凄まじく速いスピードで右足を後ろに跳ね上げた!


 不意を突かれた高杉は、バランスを崩し、大きく後方へと倒れそうになる。その隙を、林田は決して見逃さなかった。右手を素早くポケットに差し入れたかと思うと、彼女はすぐにその場から消失した。


 顔に蹴りが入る直前に、何とか躱そうとした高杉だったが、完全には躱しきれなかった。蹴りは彼の頬にまともに炸裂し、彼は地面に倒れ込んだ。身体強化魔法で全身を強化していたにもかかわらず、意識が飛びそうになるほどの凄まじい蹴りの威力だった。目の前が一瞬暗くなり、チカチカと星が瞬く。


「何が起きた!?」

 周りを見渡す六人。女はどこにもいない。まるで幻だったかのように、林田は忽然と姿を消していた。


 その間にも、悲鳴を聞きつけ、たくさんの人々が外に集まり始めていた。そして、応援の警察官たちも、続々と現場に到着しつつある。


 誰かを捕らえ人質として脅し、国家中枢機関がどこにあるのかを知っている者がいないか探るつもりだった。しかし、二人の負傷者(肩関節を外された二人)が出てしまい、これ以上の行動は困難だった。ここは一旦引くしかない。高杉は、残りの五人にそう言い聞かせ、速やかにその場を立ち去った。取り逃がした林田への、悔しさと警戒の念を胸に秘めて。


 

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