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18 避難所 2、

 美知を抱きしめた林田は、満ち足りた心で避難所となっている体育館を後にした。超小型次元転送装置は既に寮からポケットに入れて持ち出している。後は背中のサックに収めた転送装置で本部に移動し、今後の任務指示を仰ぐだけだ。


 小学校の正門を出ようとした、その時だった。耳慣れない言い争う声が聞こえてきた。正門に立っていた警察官二人と、その前に立つ男女六人が激しく口論している。どうやら警察官が身分証の提示を求めているようだが、六人のうち二人しか持っておらず、残りの四人は中に入ることを拒否されていた。なぜ身分証を持っていないのか、警察官が厳しく詰問している声が聞こえる。


 事態は、いきなり急転した。警察官に言い争っていた六人のうち、二人が突然右手を振り上げ、見る間に風が渦を巻く。そして、その手を振り下ろした刹那、ウインドカッターが放たれた。


「あっ……!」という短い悲鳴をあげる間もなく、二人の警察官はあっけなく、頭と胴体が離れて地面に転がった。血しぶきが舞い、無残な姿を晒す。その光景を目撃した者たちの一部から、凍り付くような悲鳴が上がった。その悲鳴を聞きつけ、小学校の中から人々が何事かと集まり始めた。他の場所を巡回していた警察官たちも、異常事態を察知し、小学校の正門へと向かってくる。


 警察官を倒した後、六人の集団は、何事もなかったかのように小学校の敷地内へと歩き始めた。先ほどウインドカッターを放った二人は、小学校の中から出てきた人々に向かって、再度ウインドカッターを放とうと、再び右手を上げ、振り下ろそうとした、その刹那――。


「ぎゃっ!」

 二人がほぼ同時に、苦痛に歪んだ悲鳴を上げた。彼らはそれぞれ、自身の右肩を、まるで激痛に耐えるかのように左手で強く押さえている。林田がするすると背後に回り込みあっという間に二人の肩を捻り更に関節を外したのだ。


 小学校の中に向かい始めた六人は、実は英吉利イギリスのスパイだった。正確に言うと、身分証を持っていた二人は英吉利諜報部の者であり、残りの四人は、先に首都中枢へ侵攻した精鋭部隊三千名の中から選抜された兵士だった。身分証を持っていた二人は日本人ではあったが、かつて英吉利に滞在した経験があり、その際に英吉利諜報部員としてスカウトされたのだ。精鋭部隊から派遣された四人は、全員が東洋人であるという理由で選ばれ、諜報部員二人と行動を共にしていた。彼ら四人の日本語能力は様々で、完全に理解できる者もいれば、少しだけ理解できる者、全く理解できない者もいた。このように多様なメンバー構成で複数のチームが組織され、日本國の中枢機関が今どこにあるのかを探るべく、四方八方に散っていたのだ。


 商店街の一次避難先である小学校に現れたこの六人のうち、二人は風魔法を操る魔導士だった。そして、その二人が躊躇なくウインドカッターを放ち、日本の警察官を殺害してしまった。身分証を所持していた諜報部員の一人、高杉という二十八歳の男は、かつて英吉利に仕事で滞在している際に諜報員としてスカウトされ、既に四年もの間、諜報活動に従事してきたベテランだ。


 諜報員になるための訓練中、彼は「自分が諜報員だとバレることは諜報員失格である」と厳しく叩き込まれた。これまで、彼は目立つような行動は極力避けてきた。しかし、今回、同行した精鋭部隊から派遣された風魔法使いが、その鉄則を覆し、騒ぎを起こしてしまったのだ。こうなっては、もはや静かな情報収集は不可能。力による情報集めに切り替えるしかない。高杉は、隣にいる身分証を携帯している同僚にその旨を素早く伝え、自身に英吉利で学んだ身体強化魔法をかけた。彼の全身が、微かに光を帯び始めた。


 




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