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17.避難所 1、

 商店街で英吉利イギリス軍の魔導士による無慈悲な火球攻撃を受け、命からがら避難した人々は、一度は広場に身を寄せた。しかし、吹き付ける風と、いつ降り出すともしれない雨を防ぐ術もなく、そこにずっと留まるわけにはいかなかった。そこで、急遽、商店街を抜けた先にあった小学校が、彼らの一次避難先として指定された。


 だが、この小学校も、いつ再び英吉利軍の攻撃を受けるか分からない、という不安が人々を覆っていた。本来であれば、軍を分散させて各地の一次避難所の警戒に当たらせたいところだったが、東京湾に英吉利艦隊が侵入してきたため、首都圏防衛のために軍は沿岸部に重点的に配置されざるを得なかった。そのため、一次避難所の警備は、警察が巡回するに留まっていた。警備が手薄な現状を鑑み、政府は急いで内陸部の、より安全な避難先の確保を急いでいた。そうした緊迫した状況の中、商店街の近くにあるその小学校に、林田未結が現れた。


 林田は、大人数を転送可能な転送装置の小型化について、強化人間の科学者にその可否を確認し、可能であれば早急に開発を進めてほしいと依頼するために、一度強化人間の村に帰還していた。そこで彼女が聞いたのは、既に小型化については研究が進んでおり、既に試作の段階にあるという吉報だった。


 林田は、その後も軍との橋渡し役として井上を強化人間の村に残し、自らは長野県山中地下にある国家安全保障省本部へと帰還した。そこで報告を終えると、彼女は上官からわずかな時間をもらい、真っ先に商店街の避難所となっている小学校を訪問した。何よりも、行きつけの食堂で、あの無邪気な笑顔で自分になついてくれていた美知のことが、ずっと気にかかっていたのだ。


 林田は、これまで人に「なついてもらえる」ような経験をしてきていない。むしろ、忌み嫌われることの方が多かった。彼女がかつていた世界で所属していた「アーク」の組織が行った事は、欺き、脅し、暴力、そして殺人が日常だった。司令官として冷徹に指示を出すこともあれば、自ら手を下すことも厭わなかった。こちらの世界に来てからは、この国のために身を粉にして働いている。それは、自分たち強化人間に安住の地を与えてくれたことに対する礼であり、そして何よりも、自分たちの安住の地を、誰にも侵されたくないという強い思いからだった。そういった理由からではあるが、過去に経験のない、人が純粋になついてくるという感覚は、彼女にとって非常に心地よいものだった。


 小学校の周囲では、数名の警察官が警戒しながら巡回しており、不審者がいないか目を光らせていた。林田は小学校の正門に立っていた警察官に、自身の身分証を提示し、中へと入った。


 体育館へ向かい、中に入ると、避難民の世話係をしている女性がいた。林田は彼女に、食堂の「美知ちゃん」を知らないか尋ねた。考えてみれば、これまで「美知」という名前は知っていたが、彼女の姓を訊いたことはなかったことに気づく。


 世話係の女性は、にこやかに答えた。 「ああ、食堂の美知ちゃんね。」 そう言うと、彼女は迷うことなく、林田を案内してくれた。


 体育館の中は、細かく仕切られ、世帯ごとに分けられていた。世話係の女性は、その迷路のような仕切りの中を、慣れた足取りで美知のいる場所へと導いてくれた。


 仕切りの向こうに、林田の姿を見つけた美知は、満面の笑顔で駆け寄ってきた。その無邪気な姿を見た瞬間、林田の胸に温かい安堵感が広がる。彼女は両腕を広げ、幼い美知を優しく抱きしめた。林田の硬質な表情に、一瞬だけ、柔らかな光が宿った。





 


 

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