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16.首都侵攻 6、

 日本國の安全保障省は、今、まさに多忙を極めていた。北の北海道では、露西亜ロシア軍との激しい防衛戦が展開されており、その一方で、未曾有の敵艦隊が東京湾に侵入してきたのだ。二正面作戦という、国家存亡をかけた危機に直面していた。


 国家情報局の諜報員たちは、各自が所持する転送装置を駆使し、全国各地に駐屯している陸軍歩兵隊の中から選抜された精鋭を、遠く離れた北海道へと転送するために奔走していた。一度に転送できる人員には限りがあるため、何度も往復を繰り返さなければならない。中には、転送装置のバッテリー蓄電量が不足し、強化人間の村にある充電施設まで移動するという、貴重な時間を費やすロスタイムも発生していた。


 首都圏では、東京湾に侵入した艦隊がどこを目指しているのか依然として不明だったため、警察が主導し、首都圏沿岸部の住民を内陸部へと避難させる誘導を開始した。陸軍は万一の事態に備え、既に臨戦態勢に入っていた。


 東京湾内の横須賀には、日本國海軍の重要な基地がある。しかし、艦艇の多くは既に北海道へと移動しており、残された艦艇はわずかだった。元々、東京湾に侵入してきた艦隊の隻数に比べれば圧倒的に少なかったが、今はさらにその差が広がっていた。


 沖合を悠然と航行する艦隊の軍艦旗が確認され、ようやくその正体が英吉利イギリス軍と判明した。その艦隊の一部が、まるで獲物を捉えたかのように方向転換し、直接横須賀基地めがけて迫ってきた。


 横須賀基地から緊急出港した日本國の艦隊は、わずか十六隻。それに対し、迫りくる敵艦は四十隻にも及ぶ。しかも、敵艦は恐ろしく巨大だ。日本國の艦艇の三倍はあるかと思えるほどの威容を誇っていた。


 横須賀基地を出港した日本國艦隊に向かって来ていた英吉利軍の艦隊は、途中で動きを停止した。彼らは、主力艦隊と日本國艦隊の間に位置取るように展開したのだ。その目的は明白だった。日本國艦隊を英吉利軍の主力艦隊にこれ以上近づかせないための牽制だと解された。日本國艦隊は、自らの艦艇数を大きく上回る英吉利艦隊に対し、このまま突進することはできない。もし強引に突撃すれば、敗北は目に見えている。そうこうして迷っているうちに、英吉利艦隊の主力は、着実に彼らから離れつつあった。


 英吉利軍のジョーンズ大将は、旗艦ヴィクトリー艦橋で、遠巻きに日本軍の艦艇を眺めながら、部下たちに明確な指示を出していた。

「日本軍の艦艇に対し、牽制さえしておけば良い。無駄な戦闘は避けるのだ。」

  彼が四十隻の艦艇を送り出したのは、そのためだ。ジョーンズ大将は、不必要な損失を何よりも嫌った。本国は遠く離れており、簡単に艦艇の修理ができる状況ではないし人員補充も時間がかかる。さらに、戦費もかなりかかるため、無駄な損失がかさめば、上官からの叱責は免れないだろう。そして、その上官は王族だ。もし、損失を最小限に抑え、短期間で日本國侵攻を成功させることができれば、上官への貢献だけでなく、自身の地位も飛躍的に向上するはずだ。


 彼の当初の作戦は、日本國の国家中枢を急襲し、奪取することだった。しかし、国家中枢機関が入っている建物に侵攻したものの、要人たちはどこに逃げたのか全く分からず、一人も捕らえることができなかった。彼らを探し出すには、相当な時間が必要となるだろう。そこで、東京湾に艦隊を侵入させ、日本側に相当な人員をこちらに割かせ、首都に入り込んだ精鋭部隊や元々入り込んでいた諜報員が動きやすいようにする。また、状況によっては上陸作戦も敢行し、日本國を徹底的に攪乱し、最終的にはこの国を完全に制圧する。ジョーンズ大将の頭の中には、冷徹で緻密な、新たな日本國制圧の計画が描かれていた。


 



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