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15.対策 2、

 長野県の深き山中、その地下にひっそりと建設された施設。ここは、首都に万一のことがあった際のバックアップとして機能する、国家中枢機関の緊急用施設だ。国家安全保障省もこの地下に拠点を構えており、今、その最深部で国家安全保障緊急会議が開かれていた。重厚な扉に守られた会議室は、外界の混乱とは無縁の、しかし張り詰めた空気に満ちていた。


 会議の議題は多岐にわたった。まず、首都が受けた攻撃の被害状況と、それに対する対応策の報告。次いで、最前線である北海道の戦況、そしてその他の地域の状況が報告された。最後に、今後の国家としての対応方針が議論されることとなっていた。


 主上は、幸いにも緊急用の地下御所に転送装置で移動されており、無事が確認された。議事堂や首相官邸、その他の国家機関にいた要人や職員たちも、緊急避難用に建設された地下の大広間に設置された転送装置によって、無事避難が完了していた。しかし、国家安全保障省第三大隊治安部隊所属の石田中尉は、避難を援護する中で殉職したという痛ましい報告もなされた。商店街への攻撃は比較的短時間で終わったものの、その後の大混乱により避難は手間取り、正確な被害状況は現在も確認中だという。


 北海道の戦況は、依然として厳しいものだった。露西亜ロシア軍の上陸を許し、戦線は一進一退を繰り返していたが、数で勝る敵の力押しによって、日本國軍は少しずつ押され始めていた。前衛の兵力差は圧倒的で、日本國軍の前線は崩壊の危機に瀕しており、早急な増強が必要とされていた。したがって、他の地域からの増援が決定された。しかし、今回の首都への急襲という想定外の事態を経験した今、敵がいつどこに新たな攻撃を仕掛けてくるか、全く予断を許さない状況だ。特に南九州と沖縄への攻撃も、依然として警戒を怠ることはできない。増援に回せる人員は限られていた。


 そんな中、会議には一筋の光明がもたらされた。大人数を転送できる装置については、現在、強化人間の科学者たちによって鋭意製作が進められており、まもなく第一組目が完成する予定だという。それが何組か出来上がれば、部隊を臨機応変に、瞬時に移動させることが可能となり、戦局を大きく変える機動力を得られるだろうと報告された。


 会議が終盤に差し掛かったその時、国家安全保障大臣の遠藤のもとに緊急連絡が入った。会議室の重厚なドアがノックされ、遠藤大臣の腹心である竹下事務次官が、普段の冷静さを失った硬い表情で入室してきた。


 竹下事務次官から手渡されたメモに目を通した遠藤大臣は、思わず

「これは本当かっ!」

と、普段からは考えられないほどの大きな声を発してしまった。

「はい、至急、対応が必要です。」

 竹下事務次官は、感情を抑えた声で答えたが、その表情は依然として硬いままだった。


「何があったのかね?」

  事態の深刻さに気づいた久保首相が、遠藤大臣に尋ねた。 遠藤大臣は、竹下事務次官に発言の許可を与え、代わりに答えさせた。

「艦隊が東京湾に侵入し、湾内部に向かって進んでいるとの事です。」


「どこの艦隊で、規模は?」

久保首相がさらに問い詰める。 竹下事務次官は、情報がまだ不足していることを謝罪するように述べた。

「どこの艦隊かはまだ分かっていません。規模は、五百隻はあるものと思われます。」


「露西亜艦隊に比べたら少ないな。」

 遠藤大臣は、一見すると安堵したかのような感想を漏らしたが、その言葉にはどこか違和感が伴っていた。 その違和感を払拭するかのように、竹下事務次官が続けた。

「露西亜の艦艇の大きさは報告を受けていますが、それに比べると、今回の艦艇はかなり大きいようで、一隻あたりに露西亜軍の何倍もの人員を乗船させられそうです。詳細は続報待ちとなっています。」

  つまり、隻数は少なくても、一隻あたりの戦力は露西亜艦隊を上回る可能性が高いということだ。


「続報を直接ここに入れるようにしてください。ここを作戦本部にする。」

 久保首相が毅然とした声で告げると、竹下事務次官は「承知しました。関係各所に周知します」と答え、新たな命令を伝えるため、足早に会議室を出ていった。地下深くの作戦本部には、新たな戦慄と緊張が満ちていった。





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