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12.首都侵攻 3、

 議事堂や首相官邸を守る警備隊と、日本國国家安全保障省第三大隊治安部隊の兵士たちは、眼前の敵兵が数だけでも圧倒していることに、既に気づいていた。しかし、それ以上に恐ろしいのは、彼らの攻撃の質と量が、日本側の予想を遥かに上回っていたことだ。


 前衛として突進してくる銃剣部隊に対し、風軍出身兵士たちが神術による多数の風刃攻撃を放つと、敵兵の後方に控えていた魔術師たちによる土魔法の土壁が瞬時に生成され、風刃を完全にブロックした。土壁が姿を現したのも束の間、すぐさま反撃の火球攻撃が土壁を飛び越え、日本兵の頭上から襲いかかってくる。


 空から降り注ぐ火球の雨に対抗したのは、現場で消火活動に当たっていた消防隊だった。消防隊の隊員の大半は水の一族。彼らは、火球の落下を食い止めるべく、渾身の力で水の防壁を張った。さらにその防御を強化するため、水の防壁の下には、水の神術を応用した氷壁をも張り巡らせた。炎と水と氷の魔法と神術がぶつかり合い、あたりには焦げた匂いと水蒸気が立ち込めた。


 英吉利イギリス軍の精鋭部隊は、少しでも早く議事堂や首相官邸を占拠し、国家中枢を掌握することを最優先目的としていた。彼らは魔法で生成した土壁を消失させ、さらに前衛の銃剣部隊が突進して、一斉射撃で敵を排除し、一気に政府機関を制圧する算段だった。


 しかし、英吉利軍が土壁を消失させると、その先には、またしても新たな土壁が、まるで生命を持つかのようにそびえ立っていた。これは、地軍出身兵士による神術だ。英吉利軍は魔法で作り出した土壁を消すことには成功したが、神術による土壁の出現は想定外だった。これにより、議事堂や首相官邸を占拠し、この国の中枢を掌握しようとする彼らの作戦は、遅延し始めた。


 石田は、間断なく新たな土壁を生成している地軍出身兵士たちに、土壁を横方向にも広げるよう指示していた。敵は必ず回り込んでくるに違いない。このわずかな時間でも稼ぎ、中に残っている国会議員や大臣、職員、そして消防隊を、安全な場所へと移動させたい一心だった。


 石田は、近くにいた初老の国会議員に、焦燥をにじませた声で問いかけた。

「緊急脱出装置として設置された転送装置を使って、なぜ避難されなかったのですか!」

  初老の国会議員は、鼻で笑うように吐き捨てた。

「あんなものは信用ならん!」

「しかし! もう転送装置を使うしか、ここを逃れる道はありません!」

 石田の必死の訴えにも、国会議員は耳を貸さない。

「敵を蹴散らせ! それが貴様らの仕事だろう!」


 石田は、この男は今の状況を何も分かっていない、と絶望的な思いで困った表情を浮かべた。多勢に無勢。このままでは全滅だ。

「多勢に無勢です。少しでも可能性がある転送装置を使うべきです!」

  石田は、後方にある建物を見やり、焦燥と苛立ちを覚えながらも続けた。

「幸い、後方の建物は炎上を免れています。敵は土壁を回り込んで、建物内にも侵入して襲いかかってくるでしょう。そうなれば、我々は守りきれません!」


 その時、近くにいた文部大臣が会話に割って入ってきた。

「私も信用しがたいとは思っているが、もう彼の言う通りにするしかないと思う。我々も転送装置に行きましょう。」

  そう促すと、初老の国会議員もようやく、渋々ながら同意した。石田は、これで助かったと、心の中で安堵した。彼は周囲の状況を見回す。周りの者たちは、皆この国会議員と文部大臣についてきた者たちだったため、全員が転送装置のある場所へ向かうことに問題はなかった。


 石田は、国会議員や大臣、職員、そして消防隊員らの前方と後方に、兵と警備隊をそれぞれ二分し、厳重に警戒しながら後方の建物へと入って行った。敵兵は、既に土壁を回り込んで建物内に侵入したに違いない。彼らが入っていった後方の建物に繋がる左右の建物は、既に鎮火しているものの、中庭に向かって右側の建物は損壊が激しかった。来るなら左側だろう。石田はそう予測していた。


 建物に入って右側に折れ、五メートルほど進むと、左側に横幅二メートルほどの頑丈な鉄扉が見えた。その鉄扉の取っ手を回し、手前に引くと、重い音を立てて鉄扉が開き、薄暗い通路の先に、地下へと続く階段が見えた。石田は、国会議員や大臣、職員たちを先に地下階段の方へと行かせ、続いて消防隊員、警備隊員、地軍出身兵士、そして風軍出身兵士の順に続かせた。


 地軍出身兵士が階段を降り始めようとした、その刹那だった。石田の予測通り、敵兵が左側の建物内から、こちらに向かって猛然と襲いかかってきた。


 鉄扉が開いていたため、それが盾となり、敵兵からは石田たちの姿は見えない。しかし、彼らの気配を察知したのだろうか、敵兵は迷わず、通路の奥に向けていきなり銃撃を始めた。


 銃弾は重い鉄扉に弾き返される。地軍出身兵士と風軍出身兵士が次々と中に入り、石田が鉄扉を閉じようとした、その時だった。けたたましい炸裂音と共に、石田は大きく吹き飛ばされ、地面に倒れ伏した。


 焦げた匂いが鼻腔を突く。魔法による雷撃を受けたのだ。敵は、銃撃が効かず、鉄扉が盾になっていることを確認すると、即座に魔法に切り替えたのだ。電撃が鉄扉を伝い、それを閉じようとしていた石田は、まともに感電してしまった。


 石田は心肺停止状態だった。しかし、この極限の状況下で、心肺蘇生法を施す時間など、どこにもない。石田のすぐ近くにいた風軍出身兵士たちは、躊躇なく彼の体をふわりと浮かせ、階段を急いで降りていく。しんがりの風軍出身兵士たちは、追撃する敵が鉄扉を簡単に開けられないように、風の神術で強力な風圧を鉄扉から階段方向へ吹かせながら、地下へと続く階段を駆け下りていった。





 



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