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11.対策 1、

 林田は井上を伴い、できる限り急いで寮へと戻った。自室の扉を勢いよく開け、迷うことなく棚に手を伸ばし、目当ての次元転送装置を手に取った。ちょうど二セットあり、井上と別行動も可能だと確認する。


 井上は、部屋の外、廊下で静かに待機していた。

「井上、中に入ってこい。」

 林田が声をかけると、「失礼します」と短く応じ、井上は部屋の中へ足を踏み入れた。


 林田が次元転送装置の一セットを井上に渡そうとした、その時だった。けたたましい緊急の集合ラッパが、寮全体に鳴り響いた。緊急事態においては、休憩中であろうと休暇中であろうと、病気や怪我で動けない者を除き、すべての寮生は直ちに集合場所に駆けつけなければならない。


 林田は、渡しかけていた次元転送装置と、自分用にするつもりだったもう一つのセットを、元の場所へと戻した。今は任務が最優先だ。彼女は井上とともに、一目散に集合場所へと急いだ。


 集合場所に到着すると、そこには既に庄山大尉と林中尉が、厳しい表情で立っていた。彼らの周りには、続々と寮生たちが集まってきている。林田と井上が合流するのを確認すると、庄山大尉が二人に問いかけた。

「他の二人は?」


 林田は躊躇なく答える。

「商店街の近くの広場で、人々を守っています。」


「そうか。」

  庄山大尉は短く応じ、それ以上は何も言わなかった。彼の表情には、安堵と、そして更なる決意が読み取れた。


 寮生たちが全員整列を始めると、庄山大尉は「後で話がある」とだけ林田たちに告げ、その場を離れ、整列を終えた寮生たちの前へと歩み出た。


 整列が完了し、点呼と不在者の確認が終わると、庄山大尉は静かに話し始めた。

「既に諸君らも知っていると思うが、我が国の中枢である主上がいらっしゃる社と皇居、そして議事堂、首相官邸が攻撃を受けた。また、陽動作戦と思われる商店街への攻撃も行われた。そして、国家安全保障省の本部も首相官邸の建物に連なっていたため、攻撃を受けてしまった。」

  彼の言葉に、わずかにざわめきが起こったが、すぐに静寂が戻った。庄山大尉は、寮生たちの動揺を抑え込むかのように、さらに言葉を続けた。

「だが、心配はいらない。国家安全保障省本部は、あらかじめ準備していた緊急時の庁舎へと既に移転し、業務を遂行している。尚、主上がいらっしゃる社と皇居、議事堂、首相官邸や、他の国家機関の庁舎も同様に、緊急時のために準備していた場所へと移転済みだ。」

 庄山大尉は、集まった寮生たちをゆっくりと見回した。彼らがほとんど動揺していないことを確認すると、力強い声で告げた。

「諸君らの訓練場や、この寮も敵から攻撃される可能性がある。したがって、移動することにした。十五分後には数班に分け、移動を開始する。各自、荷物をまとめて十五分後に集合すること。以上、解散!」


 解散の号令と共に、寮生たちは一斉に走り去っていった。林田と井上は、その背中を見送りながら、庄山大尉と林中尉の元へと駆け寄った。


 庄山大尉は、林田たちが近づくと、静かに話し始めた。

「君たちには、十五分後の寮生の移動とは別行動を行ってもらいたい。」


 林田は、新たな任務の予感に胸を高鳴らせ、問い返した。

「何をしたら良いのですか?」


 庄山大尉は、林田の視線をしっかりと受け止め、説明を始めた。

「今、北海道では露西亜ロシア軍と激しい戦闘が続き、一進一退の状況だ。援軍を送りたいが、想定外の首都攻撃が起こった上、沖縄や南九州も今後攻撃されないとは言い切れない。国家安全保障省本部としては、部隊を自在に一瞬で移動させ、機動力を格段に向上させることで、敵を翻弄したいという意向だ。現在の転送装置では、せいぜい七人程度しか一度に移動できない。そこで、大人数を移動させることができ、かつ簡単に持ち運べる転送装置が欲しいのだ。今あるのは簡単に持ち運べない」


 林田は、その言葉に思案を巡らせた。

「科学者に確認が必要です」


「できるだけ小さいものが欲しいので、そのように伝えて欲しい。移動のための転送装置は、我々が使用してきたものを使って構わない。」


「庄山大尉と林中尉はどうされるのですか?」

林田が尋ねると、庄山大尉は静かに答えた。

「我々は転送装置は使用せずに寮生を連れて移動する。また、進捗状況の報告を毎日行ってくれ。」


 林田は、頷きながら尋ねる。

「持っていきたいものがあるので、自室からそのまま移動します。報告はどちらに伺えばよろしいでしょうか?」


 庄山大尉から報告先の緯度、経度、標高を聞き終えると、林田と井上は、迷うことなく林田の自室へと向かって走り去った。彼らの表情には、新たな任務への決意と、この危機を乗り越えるための強い意志が宿っていた。












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