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勇者ではなく  作者: 滉希ふる
第2部 Assassin Works
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宿命編15-青春-


 仕官候補生組の旗を持ち帰った俺達第八訓練班。

 防衛組はさぞボロボロの有様だとばかり思っていたのだが……

 確かに全身泥まみれで装備はボロボロであった。

 だが、人的損傷は少なく、彼らの表情も活気に満ち満ちていた。

 

 俺達、旗奪取フラグ・だっしゅ組が仕官候補生組の旗を持って近づいてゆくと全員が静まり返る。

 これはどういう状況だろうか?とやや困惑する俺達の前へ、ホルフが守り抜いた一般組の旗を持ちながら歩み寄ってきた。

 

「きっちり、フラッグを守り切ってみせたぞ?」

「こっちもしっかりはた持って帰ってきてやったぜ?」


 俺とホルフが固く握手を交わす。

 それと同時に全員が勝利の雄叫びと共にこちらへと一気に駆け寄ってきた。

 

「あっ……おいッ!?ちょッ!?」


 全員に取り囲まれた俺とホルフは体を持ち上げられ胴上げされた。

 思ってたよりは上がらないもんだと、初めての体験を味わう。

 ……まぁ、思っていたよりは良いもんだと思いつつも、正直いつ地面に落とされるかみたいな恐怖心もあった。

 と、そんな俺の不安は杞憂となり、やんわり着地させられる。

 その後は皆各々の形で喜びを分かち合った。


 ……おっと、そういえば今回の賞品を頂き忘れていたな?


 周囲を見渡し、目的の人物を探す。

 すると、仕官組の教官陣が集合する中、他の教官達を叱責するキモロン毛の姿を確認した。


「そ・お・だぁ〜♪教・官・殿ぉ〜♪」

「……なんですか?」


 俺が近くに寄ると、ログノールはやや平静を装いつつ、怪訝な様子を見せる。

 機嫌が悪いのは仕方がないとして、さっさと目的を果たすとしよう。


「いやぁ〜、髪を刈って差し上げようかと思って〜♪」

「結構です。あまり頭に乗らない事ですね?今回は偶々運良く…」

「悪いが負け惜しみは自分のとこの負け犬共にしてくれ。俺は興味がー」

 

 懐から短剣を取り出すと同時に相手の瞬きの内に振り抜く。

 【瞬間三点突き】。左、上、右の順に頭をスレスレの軌道を描くと、三箇所ほぼ同時にパラパラと髪が地面に散らばった。

 

 一瞬の出来事にログノールは何をされたのか分からないが、過程が見えずとも結果は当然残っている訳で。

 彼がそれに気がつくのに数秒の時間を要する。視界の上からパラパラと落ちてゆく自分の頭髪に「えっ?」と薄い反応を見せた。

 しかし、それも数秒の事。頭に両手を乗せる。一度二度三度。それからも「無い無い?」と言いながら頭をペタペタと触っている。

 とはいえ、短剣で切り付けただけので綺麗に剃り上げることは出来ず、正面は角刈り、後方はキモロン毛という超不恰好な様相となってしまっていたが……これはこれで面白いから「有り」だな。


「思ったより似合ってんじゃん?

 後ろは勘弁してやらー」

「まっ、待ちなさいッ!?これは貴方が……」


 最後まで聞いてやる義理もないのですぐに立ち去る。

 いまだに現実が受け止められないのか、地面に散らばる自信の頭髪を拾い集める姿は実に滑稽だった。

 これならば命をかけた甲斐もあるという物だ。

 ちなみに一般組の教官人も大爆笑でしたよっと。


———————————————


 対抗戦終了後。時間は過ぎ、夕食の時間になった訳だが……

 なぜか教官引率の元、普段は立ち入り禁止である仕官組の隊舎の方へとやってきていた。

 その一室、『大広間』に通されるとそこには多くの食事が並べられており、立食形式のパーティようだ。


「祝勝会なんて教官達も太っ腹じゃねーか?」

「いや、そういう訳じゃないらしいよ?」

「……はぁ?」

「元々、対抗戦の勝利側への国からのご褒美らしい」

「今まで一度も一般組が勝てた事無いから、説明の必要無いと思われてたみたいだな」

「そりゃぁな……言っても、ぬか喜びさせるだけだしな」


 その教官達は酒を煽って大盛り上がり。本人達もこの日が来るとは夢にも思っていなかっただろう。

 それなら「聞いた所で」って話なら「いっそ言わない方が」ってなりますよね〜。


 ちなみに仕官組の旗と共に持ち帰ってきた後輩はというと……


「おーい、クロノアちゃ〜ん!こっち追加頼むよー!」

「はーい!!ただいまー!!」

「クロノアちゃ〜ん!こっちも頼むよー!」

「は、はいーっ!?少々お待ちをッー!?」


 『給仕係』として忙しく働いております。

 本来なら『晒乳首さらちくびの刑』にする所だったのが、教官と同期達に全力で止められた。

 クロノアは一応レイフォードの血縁という事になっている為、皆がそれにビビった結果だ。

 あまりにもぬる過ぎる罰だが、今は祝いの席な訳だし、穏便に済ませておく事とした。

 正直に言おう。俺も少し浮かれている。


 それから特別ゲストがもう一人。

 教官達が接待に勤しんでいるお相手。

 我らが王太子様。マーティス・エーデルタニア殿下。

 なぜか祝辞を述べに来られたの訳だが……最初に紹介された時に目が合ったが不適に笑みを浮かべていた所を見るに俺への嫌がらせなのは間違いない。


 だがそんな事は些事だ。

 殿下はいつもの護衛の三人と共に教官達と歓談中。

 こちらに近づいてくる様子は無く、更に言えば俺の方から近づけば護衛連中から睨まれる事だろう。

 つまりは気にする事は無いという事です。


 俺は会場の隅の壁に寄っ掛かり、優雅にグラスを傾けつつ、「さてさて、次はどのご馳走を物色しようか?」と品定めをするのみだ。

 もう一度言おう。俺も少し浮かれている。


「ふう……」

「何サボってんのお前?」


 暫くすると給仕係の刑に処されていた後輩が隣にやってきた。

 手には飲み物と料理の乗せられた皿を持っていた訳だが……

 え?何やってんのコイツ?


「キビキビ働かんかいッ!この負け犬がッ!」

「いやっ!?教官方がもう良いって!」

「そら、随分とお優しい事で」


 たく、レイフォードの身内だと思われて、甘やかされやがって……

 そもそも、今回の罰ゲームは一般組全体からでは無く、俺個人からの物だったはずだ。

 なのにも関わらず、なんの断りも無く終了とはコイツも偉くなったもんだ。


「先輩が鬼畜過ぎるだけでは?」

「そらぁ、すまんねぇ〜?

 後輩が情けなさ過ぎると苦労が絶えんのだよ?」

「……そんな事言われたって、どうしようも無かったじゃないですか?」

「それでも、もうちょいはやってくれると思ってたんだがな?誠に遺憾だよ。全く……」


 むすっといじけ気味に唇を尖らせるクロノア。

 だが、「鬼畜過ぎる」とか言われても、今回の対抗戦に際しては少しも厳しくしたつもりは無い。

 もちろん俺に負けるつもりが無かった以上、後輩に勝ち筋など皆無だったのは事実だ。

 しかし、その状況から少しは評価出来る『何か』が合っても良かったとは思う。

 今のクロノアの実力は正直三年前より弱くなっているような気すらする。

 問題は『その要因』が『俺が側に居る所為』なのか、『王国に染まった所為』なのか、そのどちらなのかという事だ。


「……先輩ならどうしてたって言うんですか?」

「旗持って全軍侵攻」

「それが出来たら……

 でもだとしても、乱戦に持ち込んで、旗を奪取してましたよね?

 そもそも先輩なら正面突破も簡単でしょうし」


 それが出来たらやってましたよ!って言いたかったのだろう。

 こちらも「絶対無い」とは思っていたので理由は分かる。

 分かるが、『自尊心そこ』はなんとかして欲しかった所である。

 更にはその後の『エイマンの謎行動』と『予想通りの魔眼シルヴィア運用』。裏をかかれて『ボロ負けの後輩』。

 全てがダメダメだった。何一つ評価出来る点が無い。


「お前らのクソ作戦よりはマシだったろうぜ?

 少なくとも裏はかかれてたろうし」

「それは……」

「結果論だろうが事実は事実だ。

 良かったな?ここが王国で。魔王軍むかしなら死んでんぞ?」

「……はい。すみませんでした」


 そこまでビビらせるつもりは無かったのだが、クロノアの表情が強張る。

 これからの事を考えると、気を引き締めさせる必要がある為、仕方無しだが。


 俺とクロノアの間に微妙な空気感になる中。

 近づいてくる男が一人。というか、話しかけるタイミングを伺っていたのだろう。

 丁度、話が終った所に声をかけてきた。


「時にレイフォード女氏?

 君はルークの後輩だと聞いたが?」

「え…えぇ。そう…ですが?」


 そう困惑しつつ受け答えをしたクロノア。

 声をかけてきたのは我らが防衛隊長『ホルフ・イバーグ』。

 だが、なぜ俺ではなく後輩に声をかけたのか?

 

「なるほど。そういう事だったのか」

「????」


 ホルフは俺達を見て何かに納得したのか、メガネを一度クイっと上げる。

 その様子に後輩は見るからに、ハテナ顔をする。

 それに対してホルフが溜息を漏らし、次に俺へと視線を向ける。

 何やら「私が言っても良いだろうか?」みたいな目で見られている気がするが……

 ……何が言いたいのか、俺には分からんのだが?


「ルークがこの訓練期間を通じて『何をしたかったのか』がようやく理解できた。

 君は彼女に経験を積ませる為、敢えてヒールを演じ、我々を鍛え対抗戦で競わせ、成長を促したという事だな?」

「……あの?何を言っているのかは分かりませんが、ただの成り行きだと思いますよ?

 先輩はその場の思い付きで動く人なので」


 おい、こら?後輩?

 お前?つい今し方まで落ち込んでいませんでしたか?立ち直り早すぎん?速攻でディスられたんですが?

 てか、誰が思い付き人間じゃいッ!誰よりも思慮深く考えに満ち満ちた行動を常に心掛けているわいッ!

 ……タブンネ?


「ハァ……なるほど。

 君が今までどれだけ苦労してきたのか……想像に難くないな」

「どうして私が悪い事になっているんですッ!?

 先輩の事、美化し過ぎですからねッ!?」


 ホルフはというとクロノアの言葉には一切聞く耳を持たず、俺へと同情を向けてくる。

 逆になぜこんなにも信頼されてるんだろうか?まだ出会って一ヶ月だというのに。

 だが、付き合いの長い『失礼過ぎな後輩』と、付き合いは短いけど『信頼の厚い同期』。

 どちらに同調するかは考えるまでもない話だ。


「どうやらホルフ?俺の一番の理解者はお前のようだ」

「当たり前だ。むしろ気がつかない方がどうかしていると思うがね」

「いや、絶対に違いますよッ!?深読みし過ぎないでくださいッ!?」


 そしてそんな俺達の会話をいつの間にか他の同期達も俺達の話を聞いていたようだ。

 皆端々に「俺だって薄々分かってたけどな」とか「そんな事だろうと思ってたぜ」とか、ホルフの言葉に同期達が首を縦に振りつつ肯定的な態度を見せる。


 ……え?なんで皆、俺に対してそんなに信頼が厚いの?

 この一ヶ月、適当に過ごしていただけなのになぜ?

 はい。もちろん、最初から考えていた訳では無く、思いつきと成り行きです。


「レイフォード女史。いくら付き合いが長くとも、彼の思考を理解出来なければ時間の無駄だ。

 現に我々は物の一ヶ月で君達に勝利した」

「うぐっ……それは……っ!?」


 それを言われるとぐうの音も出ない後輩。

 何せついさっき敗北したばかりだし、説教されたばかりだもの。 


「君はまずルークを理解する所から始めるべきだな?」

「いやッ!?それに関しては私の方が絶対理解していると思いますよッ!?」

「ならば良いだろう。どちらがよりルークを理解しているか、勝負といこう」


 なぜか、目の前で俺の分かり手選手権みたいなのが始まってしまった。

 第八訓練班主催の元、俺に関するクイズが出題されている訳なのだが……

 あの?本人の前でやるのやめてくれません?そんなんどうでも良いわっ!

 一方、他の連中は宴もたけなわ。


「お前達は最高の訓練生だッ!

 105期生万歳ッ!エーデルタニア王国万歳ッ!」

「「「「うおーーーーッ!!ガンホーッ!!ガンホーッ!!」」」」


 酒を飲んだワイドムートが上裸でテーブルに上がり、場を盛り上げている。

 

 酔っ払いすぎだろ?アイツら?

 殿下も居るのに、無礼講し過ぎてねーか?

 だが、まぁ。今日ぐらいは浮かれても仕方無しだろう。

 だって俺も少し浮かれてるしなっ!


「やはり私の勝ちのようだ」

「いやいやいやッ!?

 皆さん、一体誰の話をされているんですッ!?

 それ、先輩じゃないですよねッ!?」


 いつの間にか俺の分かり手選手権は終わっていた様子。

 しかもクロノアの奴負けたのか……いや、ホルフよ?俺達、一ヶ月の付き合いだよな?自分で言っておいてなんだが、なんでそんな理解者面できんの?


 クロノアの言葉に耳を傾けず、ホルフと第八訓練班の面々も上になり馬鹿騒ぎに加わってゆく。

 そこで俺とクロノアだけが取り残された訳だが……


「なぁ?後輩よ?」

「そんな事ないもんっ!

 絶対私の方が先輩の事理解してるもんっ!」


 地団駄を踏む後輩。

 圧倒的アウェイだったから仕方無しだと思うんだが、なぜそんなに悔しそうなんだ?

 一体どんな問題が出ていたのだろうか?全く聞いていなかったが今になって気になってきた。


 ……まぁ、でもそんな事よりだ。


「後輩よ?俺がなぜお前をここに連れてきたのかわかるか?」

「……晒者にする為ですよね?」

「それもだが……『ツッコミ役』が居なくなると困るだろ?」

「……へ?」


 そう後輩へと告げると俺も上を脱ぐ。


「うおォォォー!ガンホー!ガンホー!」

「せ…先輩……?」


 俺も一度、この馬鹿騒ぎに加わってみたいと思ってたんだよね。

 大切な事なので最後にもう一度言います。俺も少し浮かれているッ!!


———————————————


 宴会もお開きになり、皆が宿舎へと戻り始めていた。

 そんな中、一人その列を抜けると会場のベランダで外を眺める。

 訓練施設くらいしか見える物はないが、この一ヶ月を振り返るに丁度良い景色も他に無い。


 たったの一ヶ月だ。所詮はただのリハビリ。

 そう。ただそれだけだったはずなのにな……


 ここで行われた訓練を。同期達との営みを。

 まさか最後に、こうして思い返させられるとは『一ヶ月前の俺』が想像していた訳も無く。

 チープな言葉で片付けたく無い『この感情』を。

 『それ』を思い出してしまった事に少しだけ後悔しているけれど……それでも、ここで過ごした日々をただ過ぎ去るのみで消化する事は出来なかった。


「満足したか?」


 背後からの気配には気がついていた。

 なぜか祝辞を述べにきた殿下だ。

 宴会中一度も接触してこなかったので、話しかけやすいように一人なったのだ。

 その所為で余計な干渉に浸ってしまったのは「悪手だった」と言わざる負えない。


なんにだよ?『リハビリだ』っったろ?」

「それにしては随分と楽しんでいたそうじゃないか?」

「んなこたぁ……」


 その言葉に「無い」と即答出来ていれば、何も感じずに居られた。

 ……だと言うのに。本当に残念ながら、そうなってはくれなかった。


「……いや。

 まぁ、それなりには、な」

「素直だな?」

「知らなかったからな……

 『他の誰か』なんて「どうでも良い」って本気で思ってた」

「なら、めるか?」

「まさか……」


 「止める」彼が口にしたのは『これから先の作戦』。『魔王サタン暗殺』。

 この作戦が開始されたなら。俺が王国から動いたならば。……戦争は始まる。

 開戦時、真っ先に攻撃されるであろう最前線。そこに今、同期達は向かっている。

 飛空艇から投下される無数の爆薬によって、成す術無く蹂躙される未来だけが彼らを待っているのだ。

 その作戦開始の引き金を。今は俺が握っている。


 ……だが、仮にここで俺が立ち止まったとして何かが変わるのだろうか?


 余命が僅かに増えるだけだ。どれだけ逃避をしようとも、破滅の時は必ずやってくる。

 都合良く『正義の味方』が…『勇者様』が現れて、誰も考えもしない方法で、何の犠牲も無く魔王を倒す。

 そんな都合の良過ぎる事が起こってくれればどれだけ良いか。

 それならば楽で良い。俺は何も考えず、のんびり自室のベッドで惰眠を貪れる。


 ……だけど。

 その答えは。もう知っている。


 俺の人生において「都合良く誰かが」なんて事は一度として無かった。

 だからこれから先も変わらない。

 認められない未来があるのなら、自分自身の手で捻じ曲げるしかない。

 例え他者の命をいくら犠牲にしたとしても。


「ただ、良かったよ。

 これなら少しは罪悪感を感じられそうだ」

「……」

「『同期達アイツら』を殺すのは俺だ」


 自分自身で手を汚す事だけが『殺し』では無い。

 そうなると知っていて、何も言わない事も。それを前提で作戦を立てる事も。

 実質、そうなるのなら同じ事だ。


「……辛くは無いのか?そんな風に全て抱え込むのは」

「『抱え込む(それ)』って便利な言葉だよな?

 ま、「見捨てた」って言いたくない気持ちは分からんでも無いが」


 別に『その言葉』を否定したかった訳では無い。

 状況が違っていたなら自分自身でも使っていたかもしれない。

 でも今は……今は違うと思った。

 俺は俺自身の願いと目的を達する為に彼らを礎にしようとしているのだ。

 そして、そこから目を逸らす事をしたくは無いのだ。


「どうにもならない事もあるだろ?」

「分かってんじゃん?

 止めるつもりなんか毛頭無ーよ。他に方法なんて……無ーんだから」


 殿下はその俺の言葉に何も返してはくれなかった。

 彼も分かっているのだ。もう、これしか無いと言う事を。


 僅かな後悔と哀愁と共に宴は終わってゆくのであった。


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