クロノアデイズ 6
街へ買い物へと繰り出した俺とクロノア。
そこでナンパされているシルヴィアと遭遇。
俺達は学友を守る為に勇敢に立ち向かった。
……にも関わらず、俺は後から騒ぎを聞きつけノコノコやってきた騎士団連中に真っ先に取り押さえられた。
「待てェーーっ!俺じゃねーよっ⁉︎そこで倒れている方っ!
善良な国民に向かって、何晒してくれてんじゃいっ!」
「黙れ!見るからに怪しい奴めっ!」
「そうだ!貴様のような男が善良である物かっ!」
「なんだコイツ⁉︎まるで邪悪を絵に描いたような男だ⁉︎」
「取り押さえろー!」
お前ら、酷すぎやしないかっ⁉︎
初対面だよねっ⁉︎俺達、初対面だよねっ⁉︎
地面で突っ伏している冒険者三人には目もくれず、まず俺が拘束する騎士団員四人。
石レンガの地面に叩きつけられ、腕を後ろで抑えられた挙句、数度蹴りつけられる。
更に俺が無罪を訴えると、頭を足で踏みつけてきやがった。
……あのさ?誰でも良いので早く助けてくれない?
シルヴィアとエイマンが助けてくれる事を考慮して無抵抗で捕まったんだけど?
おい?早くしないと今上に乗ってる奴ら、掻っ捌くぞ?あと覚えたからな?お前らの顔?
その後、エイマンの説得によって、拘束を解かれたのだが……いや?拘束される前に止めて?せめて頭を踏まれる前には止めて?
砂埃と足跡まみれのYシャツを手で払いながら、顛末を見守る。
騎士団員達はエイマンに謝罪していた。流石は騎士団長様のご子息だ。
……いや、待てよ?謝罪はまず俺にしろよ?誤認逮捕な上、不当な扱いを受けたんだよ?
むしろ睨まれてるんだけど?「お前の所為で」的な視線をこちらに向けてきてんだけど?
だから、助けんの嫌だったんだよっ!こんなこったろうと思ったよっ!
「では、哨戒任務がありますので、我々はこれで失礼します」
「おい、テメェらっ!顔覚えたからなっ!月の無い夜には気をつけろよっ!」
本当に一切の謝罪もなく、立ち去っていきやがったよ、あの糞騎士共っ!
俺の発言に再び、こちらへと敵意の籠った視線を向けてくる。
何それ?俺が悪いの?
上等だ!騎士団がなんぼのもんじゃいっ!
と、事を構えようと思ったのだが……
「すまない。勘違いとはいえ、父の部下がとんだ失礼を」
と、エイマンから謝罪をされるが……別にコイツに対しては、含む所はない。
むしろ、エイマンからすれば、自分だけで対処していれば無難に事を鎮められたのに、俺の参入によって大事に発展してしまった。
よって、この場合の戦犯は阿保の後輩な訳だが……
「いえ!ヒューバー様が謝罪されるような事は何も!
悪いのは馬鹿な方法で仲裁しようとした先輩なんですから、どうか頭を上げてください!」
「いや?なんでこっちが悪い感じにしてんの?明らかに被害者だよね?俺?」
「先輩が被害者であった事なんて、私の記憶上、一度としてありません」
何それっ⁉︎流石に言い過ぎじゃないっ⁉︎偏見有り過ぎじゃないっ⁉︎
裁判で示談に持ち込めるはずなのに、弁護人が裏切って死刑を求刑された気分だよっ!
……まぁ、俺?今回は弁護される側じゃないはずなんだけどさ?俺、マジで味方いねー。
「だが、彼らも悪気があってやった訳ではない。王都の平和の為の行動であった事はわかって欲しい」
「それは何だ?遠回しに、俺は『存在してるだけで平和を脅かしてる』って言いたいのか?」
「……あながち間違いでも無いと思いますが?」
苦い顔をするエイマンと、なぜか俺の弁護をしてくれないクロノア。
クロノアの方向へ視線を向けるが、向こうからは赤ら様にプイっ!と視線を外される。
コイツ?投げ飛ばした事を根に持っているようだな?
「しかし、そう言う訳にはいかない。
その汚れた服も弁償させて欲しい」
「いえ、お気になさらず。
先輩は元々こんなもんでした」
おい、貴様?後輩?
せっかく、向こうが「弁償したい」って言ってるのに、なんで拒否すんの?
しかも言うに事欠いて「元々」って何さ?こんな足跡まみれの服で外歩き回る奴、居る訳ないじゃん?逆にお前は「足跡まみれの横を歩いてた」って事になるけど、それは良い訳?
……だが、しかしだ。俺はこの二人と深く関わり合うつもりがない。
可能な限り接点を持ちたく無い。栞里の事は守るとは誓ったが、それはあくまで裏側の話。
表向きは今まで通り。俺は問題児。彼女は貴族の優等生。永遠に混じり合う事のない平行線でありたい。
その為、共に行動する事は可能な限り避けたい訳だ。
なので、ここは『後輩の弁』に乗っておくとしよう。……真に遺憾ながら。
「そだねー。俺ほど足跡の似合う男も他に居ないねー。
元々、汚らしい外見だったし。キニスルコト、ナイヨ?」
「……どうしたんです?頭打って、まともになっちゃったんですか?」
本当に失礼な後輩だよ、お前はっ!
お前の話に乗ったのに、なんでお前が一番驚いてんだよっ!
お前は俺にどうして欲しかったのっ!
そうか、そうか……そんなにお仕置きがお望みならそうしてやるよっ!
この窮地を脱した後でなっ!
「まともと言えば俺。俺と言えばまとも。
王国内で俺以上の人格者はいねーんだぜ?」
「仮に先輩を人格者と定義したならの話ですよね?
それなら、逆説的に大抵の国民は極悪人に…ふぇシュッ⁉︎」
「おうおう。その話の続きは帰って。寮の方で聞いてやるよ?
たっぷり、じっくりとな?まぁ、お前にしゃべれるだけの元気があればだがな?」
後輩の両頬を片手で掴み、発言を静止しつつ、そのまま連れて帰ろうと引っ張る。
が、エイマンに肩を掴まれ、静止される。が、それを気にせず、去ろうとしたのだが……
「待ってくれ。ルーク。
女性を乱暴に扱うものではないよ?」
「……?
……女性?」
「なんで、そこで躓いたのかな?」
「しぇんふぁいふぁ、ふぁふぁ、ふぁふぁひほほほ、おほこはと思っへはんえしゅね?」
(先輩はまだ私の事、男だと思っていたんですね?)
おっと、そうか。クロノアは生物学上では女に分類されるのだったな。
あと「乱暴に」というワードにも実は引っかかっていた。これくらいクロノアなら問題なくない?
「……いや、それより手を離してくれ。ヒューバー。
今回の件は俺達が勝手に首を突っ込んだ結果だ。故にお前が気にする必要は無い」
「わかったよ。ならば今回の件はお互い無かった事にしよう」
「そうかい」
思いの外、簡単に引いてくれた?
と、その言葉を聞き、すぐにその場を去ろうとするのだが……まだ肩を掴む手の力が緩まない。
「……無かった事にしたはずだよな?」
「『今回の件は』だよ。
君には僕自身、野外実習で助けられたし、シルヴィーが二度も命を救われた。その分の恩はまだ残っているよ?」
「……それも、無かった事にしない?」
「しないよ?」
エイマンから凄い満面の笑みを向けられる。
何それ?どんだけ練習すれば、そんな自然に笑えんの?全然、笑える要素の無い会話だったよね?
そういうのは女にやれよ。俺にやるな。反応に困るわ。
大体、俺に対して笑みを浮かべる奴は、短剣の切先を舐めながらと相場が決まっている。
逆にそれを「こちらからやる」って言うのも有りか?
「コイツ?ヤベー奴だ!」って思ったら、今後近づいて来ないだろうし。
良いだろう。そんなに俺を悪人にしたいなら、こっちから……
「君?それくらいにしたらどうかな?」
「……へ?」
なんか、エイマンと違う方向から声をかけられる。
その方向へと視線を向けると、そこに居たのは騎士団とは違う甲冑を身につけた剣士風の青年。
年はエイマンと同じくらい。おそらく冒険者だろうが、先の軟派連中と違い、小綺麗な印象。
「こんな白昼堂々、女性を誘拐しようだなんて、上手くいくはずがない。
早く彼女を解放しろ」
「……」
……ん?コイツは一体何を言っているんだ?誘拐?
そこで一度現状を客観的に見てみる事にする。
片腕で顔を掴まれ、強引に連れ帰ろうとされている後輩。
それを止めようとするエイマン。拒否して去ろうとする俺。
なるほど、なるほど。これは……客観的に見たら、今の状況ってどう映るんだろうね?ちょっとわかんないや〜。
とにかく、これは誘拐などではない。保護者がごねる子供をあやすような物だ。
「いや、これは違……」
「うるせッー!関係ない奴が首突っ込んでじゃねーよ!
部外者は引っ込んどきな!」
……なんか、自分で言っておいてなんだが、さっき似たような事を言われた気がするな?
エイマンが擁護してくれようとするが、相手は騎士団ではなく、冒険者。
要はゴロツキだ。彼の出る幕ではない。
それに俺には何の非も無い事。つまり毅然とした態度で対応すればいい。
「そうか、そちらがそのつもりなら仕方ない。
このまま彼女を解放し去るのならば、痛い目を見なくても済むがどうする?」
剣士風の冒険者は何を勘違いしたのか、懐の剣に手を添えながら、こちらにそう訴えてくる。
……何?これ?どういう状況?なんで俺、喧嘩売られてんの?
「いやあのっ⁉︎ちょっと⁉︎多分何か勘違いが……」
「調子こいてんじゃねーぞ?優男がっ!
たった一人で何が出来るってんだ?えぇ?」
シルヴィアが仲裁しようと口を開くが、それを途中で遮るように冒険者を威圧する。
向こうが喧嘩を打ってきているのだ。気にする必要など無いのだ。
「お前達、何をやっているっ⁉︎」
と、そこに登場したのは、王国の紋章入りのローブを身に纏った四人組。
王国の魔法師団員のようだ。
全く、こんな往来で問題事を起こすから、面倒な連中に目をつけられる。可哀想な奴め。
……と、てっきり絡んできた冒険者の方をなんとかしてくれるかと思いきや。
「そこのお前っ!人質を解放し、大人しく投降しろっ!」
「……は?」
なぜか、こちらに向かってそう言ってきている様子。
しかも、杖を構えつつ、すでに魔法の詠唱まで始めている。
「あ、あのっ!違うんです!彼はっ…」
「シルヴィア様っ⁉︎なぜここに⁉︎」
「身を挺して、民をお救いになられようとは、なんとお優しい!」
「お離れください!早く!」
シルヴィアは現師団長の娘。
なので彼らが顔を知っているのは当然だし、それを守ろうとするのも当然。
……でも、なんで俺、魔法ぶっ放されそうになってんのっ⁉︎
「ちょっ⁉︎お前らそれは洒落にならねーんだよ⁉︎
絡んできたのアイツ!善良な国民に向かって何晒してくれてんじゃい!」
「黙れ!見るからに怪しい奴めっ!」
「そうだ!貴様のような男が善良である物かっ!」
「なんだコイツ⁉︎まるで邪悪を絵に描いたような男だ⁉︎」
「人質を解放しろっーー!」
何それっ⁉︎なんかさっきも同じ事言われた気がするんだけどっ⁉︎
仕方なく、クロノアを解放すると、両腕を空へ掲げ「降参」の合図を送る。
すぐに冒険者の青年に両手を後ろ手に拘束され、そのまま下に倒され、石レンガに叩きつけられる……本日二度目。
俺は無罪を訴えるも、後から来た魔法師団員達に、数度踏みつけられた上、頭を足で踏みつけられる……本日二度目。
……あのさっ⁉︎マジで誰でも良いので早く助けてくれませんかねっ⁉︎
今度はシルヴィアの説得により解放される。
再び、砂まみれの靴跡まみれ。もう立ち上がる元気もありません……
そして、シルヴィアに謝罪する魔法師団員と冒険者の青年。
もちろん、こちらには「お前の所為で」的な視線が向けられている。
……もう、謝罪とか求めないんで、俺に関わらないでもらって良いですかっ⁉︎
「あ、あの…?ルーク君?大丈夫?」
「ご心配なさらず。このくらいでどうこうなる先輩では無いので」
クロノアの奴?さっきから好き放題言いやがって……
肉体的なダメージは大した事は無い。問題は精神的な方。
だが、そちらも今までの人生経験からすれば、蚊に刺された程度の事。
ダメージは無い。……ちょっと落ち込んでるだけ。
あと、俺にはわかる。二度ある事は三度あるのだ。
「もうさ?俺の事を哀れだと思うなら、黙って帰らせてくんない?」
「流石にそういう訳にもいかない。
……ちょっと、本当に哀れすぎてそういう訳にいかない」
「あのさ、ルーク君?一旦移動しよう?なんで地面に頬擦りしてるの?」
なぜって?そんなん、これで立ち上がってみろ?また、いちゃもんつけられて地面に叩きつけられるんだろ?
わかってんだよ。俺には……わかってんだよっ‼︎俺にはっ‼︎
絶対、立たねーからなっ!お前らがどっか見えない所まで消えるまで絶対に立たねーからっ!
どうだっ!既に突っ伏してる人間が誰かに危害を加えるなんてありえねーだろっ!
「いや、良いんだ。マジで黙って帰らせてくれ。
もはや、それこそが俺に対する最大の礼だと思って帰らせてくれ」
「先輩?言う割に、立ちあがろうとしないじゃないですか?帰る気ゼロにしか見えませんよ?」
「後輩よ?俺は常日頃から先輩として、お前に何を伝える事が出来るのか。それを考え続けてきた」
「唐突になんですか?今の姿は思考を放棄している人ですよ?」
何を言うか?考えた上でのベストスタイルだっての?
まだまだ俺の思考の域に達するには遠いという事か。
ならば、至高の思考という奴を教えてやるとしよう。
「どれだけの猛者であろうと生涯無敗などあり得ないこと。
時として敗北を許容し、苦渋を舐めて、地面に頬擦りする事で自分を見つめ直す。
敵を知り、己を知れば百戦危うからずだ」
「いや?危うすぎますから。苦渋だけじゃなく靴まで舐めそうな勢いですよ?」
「とりあえず立とうよ?ルーク君?一旦立って、何か飲みながら落ち着いてお話ししよう?」
見るに見かねたのか、シルヴィアとクロノアが二人で俺の肩を持ち立たせようとしてくる。
だが、絶対に俺は立たない。断固として立たない。俺がスタンドアップした途端に不幸が寄ってくる予感しかしないからだ。
シルヴィアとエイマンが諦めてこの場を去り、その姿が見えなくなるまでは絶対にだ。
と、いうのに、エイマンまで加わって本気で俺を立たせようとしてくる。
「せ、先輩…っ⁉︎なんでそんな無駄に地面に吸い付いてるんですか…っ!」
「さ、三人がかりでビクともしないなんて…っ⁉︎」
「ちょ…っ⁉︎ルーク君っ⁉︎良い加減にしようよ…っ⁉︎」
「だから、良いって言ってんだろーがっ!お前らに関わると俺が悉く悪役にされんだよ!
早く俺を解放してくれ!でないとまた……」
その時、何やらこちらに近づいてきた複数の足音が聞こえてくる。
……なんだろう?凄く嫌な予感がする。というか、嫌な予感しかしない。
「こっちです!こっち!
ここに女性のスカートを覗こうとしている『変態地面頬擦り男』がっ!」
「いや、そんなバカな奴がいる訳……なんだこの変態はっ⁉︎」
一人のご婦人が連れてきたのは先とは違う騎士団員達が四人。
こちらを指差しながら、「変態」と言っているが……それって俺の事っ⁉︎
なんでだよっ!俺は今回マジで何もしてねーだろっ!というか今日は悪行は一切していない!
なのに、なんでこんな目に遭うんだよっ⁉︎
「ざっけんなよっ⁉︎
俺のような善良な国民に唾吐くような事してんじゃねーよっ!」
「黙れ!見るからに怪しい変態めっ!」
「そうだ!貴様のような変態が善良である物かっ!」
「なんだコイツ⁉︎まるで邪悪を絵に描いたような変態だ⁉︎」
「取り押さえろっーー!」
エイマン、シルヴィア、クロノアは何も言わず、俺から離れてゆく。
そして逆に接近してくる騎士団員達。
この後の展開がどうかって?そりゃ、二度ある事は三度あるだろ?
……いや、ホント誰でも良いので助けてくださいっ⁉︎
「あァァァァァッ⁉︎
なんで、俺だけこんな目に遭うんっ⁉︎」
「……先輩?貴方は話をややこしくする天才ですよ。本当に」
その後、騎士団員達に一頻り足跡をつけられた後、エイマンが仲裁してくれ、事なきを得た。
……あの?何度も言いますが、踏まれる前に助けて頂きたいです。はい。




