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ペットボトルのキャップ、異世界で神の石と呼ばれる  作者: 龍龍龍(ろうたつりゅう)
第ニ章
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第27話

生活を繋ぐうちに休日が訪れて、俺たちは国境の遺跡に向かうことになった。

はずだったが、今は夜明け前の教会の庭に佇んでいる。

「ルイズはなんで俺たちをここに呼んだんだ?」

「わかんない」

トオガとクロナはそう言って、同じタイミングで欠伸をした。教会の奥からルイズが早足でこちらに歩いてきた。後ろにもう一人、髪の赤い小柄なシスターを連れているようだ。

「朝早くから来てくださってありがとうございます。急ぎの馬車を用意したので、是非乗っていただきたいと思いまして」

本当によくもまあ他人のために尽くす労力を惜しまないものだと感心していると、後ろのシスターがじろじろとクロナを見ているのに気付いた。

「ケラー、挨拶を」

「は、はい。ケラーと申します」

小柄なシスターは深く一礼したが、声からは不信感がうっすらと伝わってくる。心なしか視線も鋭いように見えてきたが、これ以上気にしたら負けだ。

「現地の司祭様への報告書をケラーに託しました。彼女にも一緒に馬車に乗って、国境まで向かってもらいます。つまり、私のためでもあるのです」

ルイズは微笑んでそう告げた。俺たちに遠慮させないための気遣いにも思えた。

「よろしくね、ケラーさん」

アザハが声をかけると、上ずった声ではい、と返事をした。

それ以上話すこともなくすぐに馬車がやってきて、五人で馬車に乗り込んだ。乗ったはいいが、一番右端にいるケラーの緊張が全く解けないまま馬車の中は気まずい空気で満ちた。

「こっから大体三十日くらいか?」

トオガはそんな空気を気にせずに話し始めた。質問した相手は隣に座っているケラーだったが、そのケラーから予想外の言葉が返ってきた。


「悪魔の手下」


「えっ」

さすがのトオガもケラーを見たまま固まった。緊張の理由がなんとなく察せられたと思ったら、より重い緊張が全員にのしかかった。ザーヒルやルイズを見て忘れていたが、宗教関係者が魔族に対してこれくらい強硬的な態度をとっても不思議ではない。

「そんなに私のことが嫌いなの?」

クロナはケラーに尋ねたが、口を堅く閉じて答えようとしなかった。始めてされる反応にクロナが戸惑っていると、代わりにアザハが問いかける。

「ルイズさんからは、嫌うように言われたの?」

ケラーが反論しようとして口を開くが、本人にとって相当ショックな質問だったらしく、言葉は出てこない。アザハの表情と言葉は柔らかいままで答えを待っていたが、硬直した様子を見て「ごめんね、変なこと聞いて」と言った。

「ルイズさんは私たちのことを嫌いだとは言わなかったから、気になっただけだよ」

「ルイズ様は…そうは、言ってませんでした」

視線を馬車の外に向けて、ケラーはそう呟き、再び沈黙した。

「答えてくれてありがとう」

アザハのお礼がしっかりと耳に届いて、ケラーの顔には分かりやすく困惑が浮かび上がった。

「じゃあ俺の質問にも答えてくれよ!」

最初に馬車に乗った時からどんどん空気は悪くなってゆくかに思われたが、こうなるともはや興味が上回るようで、それまで黙って地図や資料を確認していたシヴァドを筆頭にケラーに質問し始めた。頑としてクロナの質問には答えなかったことも興味の引き金となり、頑固になればなるほど質問の量は増してゆく。

馬車に乗ってから一時間程度が経過して駅馬車で休憩することになったが、ケラーは見てわかるくらいにぐったりしていた。

「あのシスター、どうされました?」

「僕たちが色々質問しすぎちゃって」

シヴァドが申し訳なさそうに御者に笑った。おかげさまでケラーからは相当色々なことを聞けた。

ケラーは現在十四歳のシスターだ。ルイズの孤児院で幼少期を過ごし、二年ほど別の司祭のもとで修業を積み、報告書を持ち帰るついでに久しぶりにルイズに再会したらしい。口ぶりから察するに、悪魔…つまり、魔族を嫌っているが、ルイズにそんなことを教わっているとは思えないため、多感な二年間で変なことを植え付けられた可能性が高い。

ルイズとザーヒルも属しており、穏健とされるヤルト派のシスターだが、司祭はケルニエ派というなかなか過激な派閥に属していたという点も、その可能性を補強しているように思えた。

ルイズの人となりもより詳しい話が聞けるかと思ったが、俺たちの印象と大きく乖離しているわけではなさそうだ。穏やかで怒らず、人当たりがいい。我慢強く子どもを大事にして、誰に対しても分け隔てがない。欠点があるとすれば、そのお人好しっぷりと献身性を逆手に取られかねないということくらいだ。

「馬を繋ぎなおしました」

「ありがとよ。ほれ、乗るぞ」

ケラーは懐の手紙を守りながら、不満そうに馬車の中に引っ張り上げられた。

「また何か聞くんですか…?」

「私達が聞きたくなったら聞くよ」

アザハがにこにこ微笑むと、より一層疲労を顔に浮かべて同じ場所に座った。ケラーの隣に今度はクロナが座ったが、いやそうな顔をしただけで何も言わなかった。

「よろしくね」

「に、人間みたいな顔をしないでください」

クロナが挨拶をすると、ケラーは視線を逸らして小声で非難を漏らした。

「二人とも、少し寝てていいよ。朝も早かったでしょ?」

朝早いとかじゃなくてお前らが質問するからだろと思いながら、アザハが書類を取り出すのを見る。

「いえ、私は寝るわけには…」

そう言ってまた馬車の外を眺めはじめたが、眠りに落ちるまでに時間はかからなかった。結局、ケラーとクロナは互いにもたれかかって寝ていた。

「アザハ…」

「ルイズ様…」

似たような寝言をふと聞きとって、シヴァドは微笑んだ。

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