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ペットボトルのキャップ、異世界で神の石と呼ばれる  作者: 龍龍龍(ろうたつりゅう)
第ニ章
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第18話

朝とともにスキラーが部屋のドアを叩き、シヴァドが目を覚ました。

「朝飯を用意してある」

ドアのすぐ前で寝ているアザハを自分たちの方に引っ張りながら、シヴァドは「ありがとうございます」と言って他の仲間を起こす。

乾ききっていない塩水の生臭さを帯びて、俺たちはスキラーについてゆく。クロナの体調は非常に良くなっており、笑顔を浮かべながら跳ねるように歩いていた。甲板に出ると、他の乗組員は釣りをしていたりマストを整備していたり、昨日の戦いの疲れからか椅子に座りながらうつらうつらしている。波は穏やかで、静かに白い潮の線を浮かべていた。

「キャプテン、連れてきた」

船長室のドアを開けながら、スキラーが言い放った。

「ご苦労。お前もこの後は休みな」

キャプテンはそう告げ、スキラーは一礼して部屋を出る。船室には窓がなかったが、不思議と明るかった。外から乗組員たちの元気な声が聞こえてくる中で、キャプテンは机の上のワインを一気に飲み干す。

「喉が渇くか?悪いが水は貴重品なんでね、配分を考えて飲んでもらうよ」

俺たちには飲み物が用意されていない。裏返せば、俺たちに出せるようなものは量が少なく、多いのは酒みたいなものしかないということだ。

「食べながら話を聞こうじゃないか。どうも只者じゃないみたいだね」

キャプテンは帽子をかぶっていなかったが、そのためか会った時よりも視線が鋭く刺さっているように感じる。

「僕らは変わった経緯でパーティーを組んだんです」

そう言いながら、シヴァドはポケットの内側でまだ乾ききっていないギルドの手帳を机に置いた。続いて胸ポケットから俺を取り出してこれも机に置いた。

「神の石か」シヴァドが説明を始めた時は少し不審な面持ちだったキャプテンは、一通り聞き終える頃にはある程度納得したように頷いていた。

「まったく、大変だねあんたらも。同情するよ…」

キャプテンは椅子を立ち上がり、棚に置いてあった別のワインのビンを手に取った。

「私はイミド連邦の出身でね。信仰やら何やらを随分押し付けられて育ったんだが、それが嫌でこの船に乗って国を出たんだ。あんたらも外圧やら環境の変化に押し出された漂流者みたいなもんってことか」

思い返せば、シヴァドをはじめ俺たちには明確な目標もなく成り行きでここまで来ている。

「次に船が着くのは共和大陸のレフタ国だ。その後は自分で決めるといい。好きに歩く世界は楽しいぞ」

キャプテンは椅子にどっかと座り、満足げに笑った。外から船員の元気な声が聞こえる。大きな魚を釣ったらしい。全員の皿の上に海産物の気配はなく、塩漬けされた薄い肉を固いパンで挟んだサンドウィッチみたいなものだった。

「これじゃあ、晩飯は魚になりそうだな」

キャプテンは座ってからずっと朝食をもくもくと食べているクロナの隣に座るアザハに目を向けた。

「ダイオウイカから逃げおおせたのはあんたのおかげだ。…でも、素直に感謝はできないね。危険すぎたよ」

「…すいません」

バツが悪そうにアザハが目を逸らすと、キャプテンは困惑したように笑いながらワインで口を濡らした。

「誰だ!」

船員の声が聞こえる。外の雰囲気が変わったのを感じた。

「待ってな客人。見てくるよ」

すっと眼光を尖らせて、キャプテンは席を立つ。トオガとアザハとシヴァドは、目の前の食べ物を食べていないことに自分たちでも気づいていないらしかった。

船室のドアが開き、キャプテンとスーツの男性が入ってきた。

「ぐ、軍部議長…!?」

アザハが口をぽかんと開ける。遠目でしか見たことがなかったが、近くで見ると威圧感というよりも包み込まれるような雰囲気があった。

「すいませんね、急な訪問で」

中肉中背の体に剣を背負い、穏やかな笑顔のままこちらを見て、軍部議長は挨拶した。

「要件は二つだ。君たちの生存確認と、今後の処遇だ。まあ座って聞いてくれ」

キャプテンを含めた自分以外が各々の席に座ったのを確認して、軍部議長は話し始めた。

「まず君たちが生きていたという情報は、こっちでどうにかしておく。恐らく生死不明という扱いになると思うのでそのつもりでいてほしい。それで君たちの処遇だが、我々軍部の一存でどうにかできるものではない。しかし、現時点では今回の件を全体的に凍結することになりそうだ。というのも、つい先ほど帝国から戻ったマルべによれば、あちらはあちらでどうも情勢が安定しないらしい。互いの内政状況が最低限安定してからこの件を正式に話すことになりそうだ」

「そうですか…」

複雑な面持ちで、シヴァドは呟いた。それを見ながら軍部議長は尋ねる。

「君たちが今後どうするつもりか聞いてもいいかな?」

「僕はこれから向かう大陸で神話の研究と探索をしたいと思っています。仲間がいいと言ってくれたら、ですが」

「俺はいいよ。向こうでついでに採取できる植物は採取するし」

「私はまだシヴァドに教えていないことがあるから、ついていくつもりです」

「私も。シヴァドについてく」

これで誰も来なかったらという不安もあったが、全員が自分の意志でついてきてくれるようならそれ以上のことはない。シヴァドは喜びを隠し切れない表情で仲間を見た。それぞれの返事を聞くと、軍部長官は安堵してほっと息を吐き出す。

「良かった…いやあ、今の国内に君たちを留まらせるのは危険だったから、こっちに来なくて助かったよ」

「そんなに危ないんですか?」

アザハが尋ねると、苦々しい表情で軍部議長が話し始める。

「私たちの国では貴族に領地が与えられ、それぞれの領地を支配する責任がある。しかし今の貴族はそれぞれの領地に関する報告をほとんどしてこないし、軍部の報告から察せられる領地の統括状況もはっきり言って杜撰だ。極めつけが、ギルドに対する圧力だ。ギルドは国に入って冒険者にサービスを提供し、その国の法に従う。国はギルドが法を守らなかった場合に対処するが、遵法なら干渉はしないことになっている。だが、貴族は君たちの件を受けてギルドに対しての締め付けを強める法を考えている。貴族以外には旨味のない法律だからどうにか取り下げてもらいたいところだが、できるのは時間稼ぎぐらいだろう」

上がろくでもないと苦労するなと少し同情してしまう。軍部議長は踵を返してドアを開けた。

「さてと、あまり長くいるわけにもいかないから、このあたりで帰るとしよう。いい旅路を」

ドアの向こうにはスキラーが立っており、軍部議長を連れて甲板に見送るよう指示を出していた。

「お帰りか」

「ええ」

短く会話を交わして、二人は日差しの照る中を歩き始めた。

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