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サイバーエデン・オフライン〜サ終したゲームが現実に侵食してきたのでヒロイン達と共に平和のために戦います〜  作者: なろうスパーク
WAVE02「子供のゲームや漫画を取り上げる時はその後の一生恨まれる覚悟でやれ」
9/25

2-2

 自分がもう四日も眠っていた事を知らされた後、九郎太は凪に連れられて医務室を出た。

 アバター自体は十歳前後の少年と設定していたが、元より低身長である為か九郎太はその二十数年ぶりに体験する視界にすぐに慣れた。

 ちなみに人承太郎であるが、彼も死なず現在は入院しているとの事。

 

 「…………うん?」

 

 今いるここが政府の施設である事はなんとなく察していた九郎太であったが、部屋を出た際に壁にかかっていた仰々しい表札。

 そこに書かれた「国会」の二文字と行き交うスーツ姿の人々を見て、まさかという文字が脳裏に流れる。

 

 「あの凪さん?ここってもしかして………」

 「うん、国会議事堂」

 「えぇ…………」

 

 国会議事堂。本邦における政治の話し合い、そして決定が執り行われる頭脳ともいうべき巨大な建造物。

 そして本邦における政の様々な意味でのおざなりさの象徴として度々憎しみの感情を向けられて、フィクションの中で絶えず占拠や破壊を繰り返えさせられてきた、おそらくどこぞの本社並みに嫌われている建造物。

 転じて、東京タワーと並ぶ特撮やアニメの聖地としても有名であり、九郎太の中でも「ヴァジュラVSネフィラ」での繭を張られたイメージの強い場所。

 大前提として前述の杜撰な政治にすり潰される小市民は一生関わる事がなかったハズの場所。そこに今、そんな小市民たる九郎太はいる。隣を護衛するように歩く乙葉の存在も相まってまるでゲーム内イベントのようであるが、SEOが既にサービス終了している以上これは紛れもない現実である。

 

 「………大丈夫ですよ弟くん、お姉ちゃんがいますからね」

 

 キョロキョロと辺りを見回す九郎太が不安がっていると考えたのか、乙葉が優しく微笑みかける。

 真っ白な乳袋に包まれた推定Jカップの乳房が一歩歩く度にユサ……ユサ……と僅かに揺れる様に言いしれぬフェティシズム、そして国会の厳格さとのミスマッチに改めて彼女がなんでもありの世界(ニジゲン)から来た"キャラクター"である事を改めて思い知った。

 

 「脳特対(のうとたい)の凪です、泉九郎太及び彼のセオベイドを連れてきました」

 「どうぞ」

 

 そうこうしている間に、別の扉の前で凪が警備員に敬礼している。九郎太達が会うべき人物はこの先にいるのだ。

 セオベイドという聞き慣れない単語が聞こえたが、九郎太はそれが乙葉の事だと片付けた。

 

 キィ。と扉が開き、その先に広がる部屋が九郎太の視界に入ってくる。

 壁の一面がガラス張りになったその部屋には会議用のテーブルが置かれ、そこにはニュース等で見覚えのあるスーツ姿の壮年男性………各省庁の代表、つまる所の大臣たちが待ち構えていた。

 なんと総理大臣もおり、日本の頭脳とも言うべき大物達が勢ぞろいである。が、それよりも九郎太の関心を引いた者がいた。

 挿絵(By みてみん)

 「………やあ、日本のチャンプ。こうして顔を合わせるのは初めてかな?」

 「あなたは…………!」

 

 痩せた、インド系の老人が車椅子に座っている。

 その車椅子をビキニアーマーを着た金髪美女………80年代に世にでたアーケードゲーム「ナイトクエスト」の看板を勤めた女剣士・女剣士リーザが押しているというシュールな光景だが、九郎太は流暢に日本語を話すこの老人を知っていた。

 

 「ギャロップ・ハンドマウンド………さん!?」

 「いかにも。私がギャロップ・ハンドマウンド、SEOの生みの親………その一人さ」

 「い、泉九郎太です!お会いできて光栄ですッ!」

 

 5人のクリエイターと共にサイバーエデンオンラインを産み出し、それがサービス終了してからもアニメ文化の保護と保全のために行動している、ハンドマウンド財閥現当主ギャロップ・ハンドマウンドである。

 九郎太からすれば文字通りの創造神であり、思わず握手を求めてしまうのも当然である。

 

 「熱い歓迎感謝するよチャンプ。だが今は、現状とこれからを考えるのが先決だよ」

 「はっ………はい!」

 

 が、今はそんな事よりも大切な話がある。奮気味の九郎太をギャロップは優しく諭し、九郎太自身も開いていた席に乙葉と共に座る。

 これから始まるであろう話が、自分のみならず国全体に関わる事だと思うと、九郎太は嫌でも緊張の汗を流すしかなかった。隣の乙葉が手を握ってくれていても、だ。

 

 「…………さて。皆さんご存知の通りですが、四日前よりかつて私が仲間たちと共に産み出したサイバーエデンオンライン内で実装したキャラクター達が現実の世界に現れ、世界中が混乱に包まれています」

 

 ギャロップは静かに語った。四日の間に乙葉のように現実に現れたNPCキャラクターやアイテム、そして九郎太のようにSEO内のアバターの姿に変異した元プレイヤー達により、日本を除いた世界中で大規模な武力蜂起が起きたという。

 元より、どん詰まりの状態で動くべき大国が延命も何もせず、そういった|助けたいと思えない弱者ていへんに全てのしわ寄せを押し付けて、権力者と一部のお気に入りだけで生き延びようとしていたのだ。

 そんな状況で切り捨てられるハズだった弱者が力を手に入れたのだ。革命が起きるのは当然である。

 

 「現在貯蓄を消費して成り立っていますが、それも時間の問題でしょう………そして、我が国も状況は同じ」

 

 神妙な面持ちの大臣達に混ざり、眠っている間に自身だけでなく世界も激変してしまった事に九郎太は震えた。

 確かに大規模反乱が起きていないが、架空のキャラクター達が実体化し、架空のキャラクターの力を備えた人間が現れているという点は海外も日本も変わらない。

 混乱する世界情勢により輸入・輸出はほぼストップ状態な上に、自国産業も目先の利益目的の政治と他人の得が許せない国民性によって既に芽が出る前に潰されてしまい、宛にはできない。

 いつ沈んでもおかしくない所か、沈没まっしぐらだ。

 

 「さて、彼等………SEOの能力を得た人類と、実態を得て現界したNPC。私は彼等を前者は「セオベイター」後者は「セオベイド」と呼んでいます」

 

 あの時凪が発したセオベイドという単語だが、やはり乙葉を指していたらしい。

 そしてセオベイターというのは九郎太の事で、他にも同じ人間は沢山いるらしい。

 聞いていてなんとなく「起動戦記ウィンダムII(ダブルアイ)」における人の革新と、それを擬似的に再現した培養人間を思い出した九郎太だったが、ニュアンスとしてもそれに近いものと言っていいだろう。

 そこにSEOをローマ字読みにしたセオを合わせてセオベイター、セオベイドといった所か。

 

 「この両者は何者で、何故現れたか………私はそれを知っています」

 

 そしてギャロップは語りだした。セオベイターとセオベイド、彼等が何故現れたのかを。

 

 「…………あれは25年前。サイバーエデンオンラインの企画を始めるため、5人のクリエイターを集めた時の話」

 

 LPカンパニーを設立させたギャロップはその日、プログラマーのゲーリ・ケッチャムやSF作家の野明崎蘭堂を始めとする、その筋の精鋭とも言うべき5人のクリエイターを集め、サイバーエデンオンラインの構想を発表した。

 あらゆる版権のキャラクターをアバター、もしくは仲間のNPCとして使用できる電脳仮想現実(VRMMO)RPGという一大プロジェクトのために必要なもの、経費、運営、その他諸々をどうするか?その為の話し合いをする為だ。

 

 「最初に話題なったのはゲームを動かすサーバーだ。高い性能と、後々の技術力についていけるだけの拡張性………これは問題なかった。特注で作らせたサーバー、いわゆるスーパーコンピュータを既に用意していたからね」

 「さ、流石は石油王……………」

 

 そのスーパーコンピュータであるが、本来は国家で運用されるような物だったという。

 まず彼らは動作確認として、古いデスクトップパソコンを接続してゲームをプレイする事にした。スーパーコンピュータを拡張ユニットとする事で容量と機能を増やし、最新のゲームをプレイさせて動作を確認する。

 これは当時の一部のオタクの間でサーバーのテストとして行われている事で、ギャロップもそれに則った。

 …………そして、それが今日の混乱の元凶となった。

 

 「…………時に皆さん、2000年問題は知っていますね?」

 

 政治家達は久々に聞く、そしてもう聞かないハズだった懐かしいワードが飛び出した事に、少々動揺した。

 が、九郎太はそのワードについて、名前は知っていたが詳細は知らない。ので、隣りにいた凪に助けを仰ぐ。

 

 「………何です?2000年問題って?」

 「90年代あたりに、21世紀に起きるって言われてた大規模バグですよ」

 

 このワードを初めて聞いたという令和のヤングメン達に向けて解説すると、昔のコンピュータは容量の節約のために西暦を下二桁(1954年なら54、等)のみ表示していた。

 これによりコンピュータは年が2000年になった途端内部表示が「00年」となり、コンピュータがこれを「1900年」と誤認することで様々な誤作動を起こす。それこそどこかの国の核ミサイル等が間違って発射される等の可能性があるとされた。それが2000年問題だ。

 当時から様々な分野にコンピュータが入り込んでいた上に、プログラムを作った技術者の退職や死亡。更には当事者が「2000年までには何らかの改良が加えられるか、全く新しいシステムに更新されているだろう」という前提でいたので、当時2000年問題には充分な対策が施されていなかった為に、いざ問題が浮かび上がると現場は大混乱に陥った。

 

 この頃からこういった技術を扱う所はこうなのか。と苦笑いを浮かべる九郎太の前で、ギャロップは話を続ける。

 

 「ご存知の通り2000年問題は杞憂に終わりました。世間では単なる勘違いと片付けられましたが、その裏には対策のために走り回ってくれたエンジニア達がいる事は言うまでもありません」

 

 一部の大臣は感慨深そうに頷いたが、それ以外の大臣は怪訝な顔をしている。

 当時を知り、なおかつ対策に走った者たちか、そうでないかの違いだろう。

 

 「………しかし、熱意と必死さを持ってしても所詮は人力。全てを見逃さないという事は不可能でした」

 「………ミスターハンドマウンド、まさか」

 

 意味深なギャロップに、感慨深そうにしていた議員の一人が食いついた。九郎太も反応し、目を見開く。それがどういう事を意味するかを察したからだ。

 そんな両者に向けて、ご察しの通り………と言うように、ギャロップはニヤリと笑ってみせる。

 

 「………テストプレイで使ったパソコンは、2000年問題で起きたバグが放置されたままの物でした。もっとも、それが発覚したのはその後なんですがね」

 

 当然ながらゲームは正常に作動する事なくクラッシュした。が、事態はそれだけに留まらなかった。

 二十年以上古いデスクトップパソコンの中で眠り続けたバグは、最新ゲームとスーパーコンピュータという情報のスープに触れた事で、繰り返されるデータ改変の中である種の変異を起こしていた。

 まるで「進化」………単なる元素が結びついて細胞へと変異したように、やがてデータの塊は明確な意志を持ち、疏通が可能な存在へと変貌した。

 削除(デリート)されればそこから再生する自己再生。それに対抗するべくデータを改造する自己進化。そして自己増殖。これら3つの要素を持ったデータは、もはや電脳の生命体といってもよかった。

 コンピュータウイルスという単語があるが、それに擬えるならそこから一歩先に言ったコンピュータマイクロオーガニズム=電脳原始生命体とでも言うべき存在が誕生したのだ。

 

 「私達はこれに"LV-1(エルブイ・ワン)"という名前を付けた。原初の生命という意味を込めてね」

 「しかし、そんな重大な発見を何故今まで黙っていた?」

 「公表はしましたさ…………しかし結果は、科学雑誌の端っこに掲載されただけ。地方の学生がセミの寿命について新発見した事の方が大々的に取り上げられましたよ」

 

 言われてみればそんな事もあったなと九郎太は思い出す。だがそれもネットで騒がれた程度で、周囲はすぐに芸能人の不倫の話題に注目していつしか忘れ去られていた。

 新生命の誕生という歴史的偉業も、当時は財力以外何の後ろ盾も話題性もなかったギャロップ達にはどうしようもなかった。それに何より、彼らの目的はそれではない。

 

 「一応我々にもパイプのある学者は数名いた。彼らのバックアップの元、我々はある実験を行う琴にした」

 「実験?まさかLV-1を…………」

 「ああ、サイバーエデンオンラインに放ったよ」

 「なんという事を!?」

 「政府に許可は取りましたよ。各省庁に書類があるハズです」

 

 自分もプレイしていたSEOになんて事をしていたんだと思った九郎太だが、直後の大臣達の狼狽え様を見て興味はそちらに移る。無論悪い意味で。

 ふと凪を見てみると、彼女も呆れるような顔をしている。

 

 「我々の狙い通り、LV-1はサイバーエデンオンラインという進化の場を得て急速に成長していきました。単細胞生物はクラゲとなり、骨格を得て魚になり、肺を得てトカゲ、恐竜、哺乳類と………まるで生命の進化でした」

 

 ここまでは予想できたが、九郎太はある疑問を浮かべる。

 そのLV-1がそこまでの進化をしたとして、ゲームに何か影響はなかったのか?という事。

 確かにバグはいくつかあったし、その一部がLV-1によるイタズラだとか弊害だったかも知れない。が、実際の生物と変わらないデータだとしたら、もっと派手な事は無かったのか?とも考えた。

 まあ現実はそんな物か…………と、自己解決して片付けかけた、その時。

 

 「LV-1はサイバーエデンオンライン全体に広がり、そして…………了承の後、彼らはゲームシステムの一部になりました」

 「ゲームシステムの一部?」

 「おかしいとは思いませんか?あの時代、それも日本の新興企業で、今のAIチャット以上の精度を持つ自立会話が可能なNPCを用意できたのか?」

 「自立会話…………あっ!」

 

 そこまで聞いて、九郎太は気付いた。

 当時は金持ちが金に物を言わせて作り上げた高クオリティだと考えていたが、それでも普通の人間と大差ない会話が可能なAIの開発を20年前にやってのけるなど可能なのか?

 可能なのだ、情報を喰らい進化してゆくLV-1があれば。いや、開発する必要すら元より無いのだ。

 

 「ま、まさか…………まさかお姉ちゃんは………!」

 

 答えにたどり着いた九郎太に、乙葉は相変わらず優しく微笑みかける。

 ずっと、高性能なCPUだと思っていたNPC達。それは………。

 

 「はい、私達セオベイドはLV-1がNPCに接合する事で生まれた生命………れっきとした電脳生命体なんですよ」

 

 聖母のように微笑む乙葉。その、日差しに照らされた淡いピンク色の走る肌は、確かな生命の息吹を感じる。

 あの時九郎太が感じた温もりも、暖かさも、周りの社会的地位のある人達(おとな)や親が言ったような電子の虚構などではなかったのだ。

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