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モッツアレラ小隊の復活と活躍は日本に住まう人々、特に元SEOプレイヤー達の知る所となり、かつてのチャンピオンの復活劇は人々を沸かせる所となった。
もちろん、ただのゲーム廃人が平和を守り人々に持ち上げられる構図が気に入らない者は何人も居たが、それでも日本のセオベイド・セオベイターによる事件は現象の一途をたどり、虹の日から1年もしない間に日本はかつての平和を取り戻しつつあった。
そして、梅雨が過ぎて夏の日差しが空を彩りはじめた、ある日。
………青い空。
………白い雲。
………輝く砂浜。
………波打つ海。
すっかり夏真っ盛り。そしてここは淡路島某所にある海水浴場。そう、本日のサイバーエデンは皆さんお待ちかねの水着回だ。
事件が減った事もあってかモッツァレラ小隊は休暇を貰い、ある海水浴場にやってきてきた。いつも平和のために戦っている分、思い切り羽を伸ばそうという考え。
「あははっ!それそれーっ!」
ミーニャがパシャパシャと水をかける。その白い肌とハリのある豊かな乳房とプリンとした尻肉を包む燃えるような真っ赤なビキニは、若さと情熱を感じる扇情的なそれでありながらも、迂闊に彼女に手を出すと火傷をするというある意味での警戒色であり、その小悪魔なミーニャのキャラにぴったりだ。
「きゃあっ!あはははっ」
乙葉もこういう時は、年相応の女の子らしくはしゃいでいる。しかしながら暴れるようにだゆんだゆんと揺れる100cm近くの爆乳を包む乳牛柄のビキニが、彼女の持つ包容力と母性力、何よりおっぱい力をこれでもかと強調している。ヤンデレとしての面が有名すぎる乙葉であるが、それ抜きでも十分魅力的なのだ。
「ふふふんっ♪日本の夏、私の夏………♪」
二名と打って変わっての日光浴を楽しむセシリアもまた、その日本人離れした………そもそも海外の艦な上に人間ではない………古代ギリシャの彫刻にも通じる抜群のプロポーションを、ランジェリーを思わせる黒いビキニに包む。夏になった魅惑の肢体はまさに、出すとこ出してたわわに実った生足デカ乳マーメイド。
セオベイド・セオベイターが一般的になった今日においても、彼女達は指折りの美女・美少女に見えた。して、そんな三人の爆乳ヒロインを従えるハーレムキングが、性格も悪い上にこれといって取り柄もない………だけでなく、控えめに言ってクズ寄りのダメ人間である九郎太というのは認め難い事実だろう。
「おう悪かったな取り柄のないクズのダメ人間で」
「誰に話してんのよ」
「今馬鹿にされたんだよ、というかなんでアンタまでいるんですか………」
そんな天の声すら聞き取る地獄耳の九郎太も三人と一緒に海に来ているが、どこか浮かない様子で日傘の下にいる。美少女を侍らせてその水着姿も実質独占だというのにムスッとしているのは、折角の休暇なのに上司の凪がついてきたからという理由だけではない。
「つーか、今の世界情勢を考えても俺らが呑気に海水浴してるってのもどうなんですかね」
「働き詰めじゃいくらセオベイターでもブッ壊れるわよ?こちらとしても脳特対はホワイト企業でいきたいの」
「そりゃ一般企業ならそうでしょうが、ウチら治安維持のための公務員ですよ?」
九郎太が今回の休暇に乗り気になれないのは、虹の日以降の混乱が、収縮に向かいつつも今も続いている世界情勢が理由だ。中国の国盗り三国志再演状態も、アメリカの反セオベイド・セオベイター勢力による第二次南北戦争も続いたまま。世界を牛耳る大国ですらこんな状態で、いつ日本も巻き込まれてもおかしくない。
「あの白ハゲの事も気がかりですよ。あれ、誰かが聖母の会に売りつけた生物兵器だって話じゃないですか」
先日戦った、聖母の会がけしかけてきた謎の白ハゲについてだが、あの後尋問を受けた聖母の会のメンバーが白状した。それによると、組織に接触してきた「武器屋」を名乗る男が売りつけてきたという、セオベイドの技術により作られた人造兵士………なんとあれは、一種の生物兵器だったという事実が発覚した。
それを裏付けるように、あの後白ハゲの死体は残らず、現場からデータの破損したLV1………構造はセオベイドのそれよりも簡素なそれが見つかった。言わば劣化セオベイド、デッドコピーセオベイドとでも言うべき存在が、あの白ハゲという事だ。
「あれは倒せたけど、戦闘に特化した俺達とも戦えた。それを作って売りつける奴がいる………日本を揺るがす新しい脅威ですよこれは」
そして問題はそんな白ハゲを。数さえ揃えば九郎太達モッツァレラ小隊のような戦闘に秀でたセオベイド・セオベイターと戦える戦力を製造し、商品として販売する存在がいる事。日本の治安を守る立場にある彼らにとって、そんな物を見過ごすワケにはいかない。
「それに凪さんも知ってるでしょう?あの謎の飛行機の噂」
「ここ最近色んな所に現れてるっていう?」
加えてここ最近、世間を賑わせている奇妙な噂がある。
国籍不明の謎の巨大な飛行機が前兆もなく現れ、どこかへ消えていくという事件が起きていた。外見はステルス爆撃機に似ていたが、どこの世界の所有機ともデータが一致しない。加えてセンサーにも映らず、まるで煙のように消えてしまうので追跡も出来ず、その正体は未だ不明。
今のところ攻撃の類こそしていないが、どこかの国のスパイ、それもセオベイターという可能性もあり、世界に走る緊張の一つとして人々に不安を抱かせているのだ。現れ始めた時期も白ハゲの出現時期と重なり、何か関連性がある可能性がある。
「謎のステルス戦闘機ねえ。新章突入って感じで面白そうじゃない」
「笑い事じゃないですよ、それに対処するのが俺ら脳特隊の仕事じゃないですか。それをこんな事してて………」
そう考えると、平和と治安を守る立場にある彼らモッツアレラ小隊が呑気にバカンスに出かけているのは、いくら治安が落ち着きつつある上に公務員として国民のモデルケースにならなければならないとしても「無責任」の一言が浮かんでくる。
「というか………この話のコンセプトって「ある日人間の隣に突然アニメキャラが現れたら?」みたいな感じの一応のSF的側面もあったハズでしょう?それをこんな水着回って………先人達の教えはどうなってるんだ教えは?!このコンセプトなら水着回みたいなアレは、意思に反して脱がされる美少女キャラみたいな方向性で皮肉るべきじゃないんですかい?!」
と、元々作者の自己満であった本作がさらに酷くなっている事に腹を立てている様子の九郎太。そりゃそうだ、誰だって駄作の主人公なんかやりたくない。
「………泉九郎太くん」
「何スか」
「あなた、この話が仮にアニメだった場合、どれぐらいの時間帯で放送しているか?は作者から聞いてるわよね?」
が、そんな九郎太の一オタクと言えば当然な意見に凪は待ったをかける。推定一般人の凪にオタク目線の何が解るのかと思った九郎太だが、凪は構わず話を続ける。
「………土曜の深夜2時ぐらいだったっけか」
「この時間と言うのはね………学生達はつらい一週間が終わっての夜更かしでほっと一息ついて、毒親育ちはうるさいヤツが寝て安心できる時間が来てほっと一息ついて、社会人はサビ残の合間にほっと一息ついてる時間よ………」
やけに社会の疲れた人達の解像度が高いのは、まあそういう事だろう。元の勤め先があまりよろしくない企業であった九郎太にとっても、それは身につまされる話である。
「そんな時に胸が詰まるような話ばかりやってたら胸焼け起こすでしょうが!私達がやらなきゃいけないのは、身体を張って萌えを供給する事よ!」
「萌え?尊みじゃなくて?」
「そ、萌え。ノット尊み」
よく言われる尊みは萌えとはまた別のものであると主張する凪。九郎太も完全に理解したわけではなかったが、なんとなくキャラクター同士のカップリングを含めた関わりから生まれる感情と、キャラクター単体に向ける性愛を含めた疑似恋愛感情の違いなのだろうかと考えた。
「そして皆様の疲れた心を癒す!!"ああ、来週も頑張ろう"って思ってもらうの。いい!?萌えは心のミネラルなのよ!!」
「心のミネラルって………」
そんな大層なもんじゃないだろ、言いすぎじゃないのか?と出かけたツッコミを引っ込め、論争を続ける意味も見い出せないので無理矢理納得する九郎太。メタ展開はここまでにして、そろそろ物語を進めよう。
「きゃああああーーーっ!!」
突如、平和なビーチに響き渡る悲鳴!蜘蛛の子を散らしたように逃げ惑う人々!
平穏を引き裂き現れたのは、人々の日常を壊す事件。しかしてその主は!
「助けてぇーー!!変質者よーーー!!」
「たわけえっ!だぁ〜れが変質者だ!!」
ビーチを突然パニックに染めたのはめ組の人ではなく、おおよそ夏のビーチには不似合いな印象を与える鎧を纏った戦国武将のような大男。
顔部分を面頬で覆う事で素顔は分からず、身体を覆う鎧もよく見れば様々な時代・地域別のものがごっちゃになったデザインをしており、歴史に詳しい人からしたらむず痒くなる事この上ない珍妙な姿をしていた。
「おのれぇっ!あ、成敗いたぁ〜す〜!」
「うわああ!凶器取り出したぞあいつ!!」
更には取り出したのは日本刀………ではなく青龍刀。日本の武器すら使わないというもう滅茶苦茶な様の侍もどきであるが、その青龍刀を一振り振るうと、衝撃波と共にビーチに刺さっていたパラソルが真っ二つに切り裂かれた。
「見るからにヤバいじゃないの!?何あれ!」
「仕方ない、休日返上だ!行くぞ皆!」
「折角水着でクゥちゃんと一夏のアバンチュールを楽しみたかったのにぃ!もうっ!」
見た目はふざけているが、あの侍もどきが脅威である事には変わりない。そして日本の治安と安全を乱す敵であるならば、モッツァレラ小隊はそれに立ち向かう義務がある。たとえ休日を返上しようが。たとえ水着だろうが。
「待ちなさーい!」
「むむんッ!?オヌシらは………」
対峙するモッツァレラ小隊と侍もどき。重武装の鎧武者と水着美少女軍団+αが対峙する様はどこかのソシャゲの水着イベントを見ているようで実にシュールである。
「見てわか………らないよね、うん」
「こんなナリだが俺達はモッツァレラ小隊!ニュースとかで聞いたことあるだろ。お前は誰だ、名前と目的を言え!」
極力相手に威圧感を与えようと、九郎太は脳内に存在する刑事ドラマやアクション映画の記憶を頼りに鎧武者に警告を飛ばす。しかし乙葉が危惧した通り水着という格好では正義の公務員としてのモッツァレラ小隊の威圧感など微塵も感じられなかったらしく、鎧武者はその様を一蹴するかのように鼻で笑った。
「むふんっ、モッツァレラ小隊だと?そんな性欲と拝金主義に染まった下劣なソシャゲのピックアップガチャのような格好の連中がこの国の正義の執行者など………あ、笑止千万〜!」
「ず、随分具体的な暴言を飛ばしてくれるじゃない………」
まるで歌舞伎のような口調で吐き捨てる鎧武者。しかしその指摘は的を得ており、確かに国の正義の執行者が水着美少女の集まりというのは今時深夜アニメでもやらない。
「外見など関係ない。お前が治安を乱す限り………もう一度言う!お前は何者だ、目的と名前を答えろ!!」
「ふん。女に囲まれて威張っているような男がいくら威勢を張ろうと、イキリにすぎぃ〜ぬ!」
立場上そうしなければならないというのもあるが、指摘が正論寄りであるが故に九郎太も少々癪に障ったらしい。口調と声色をより強めて九郎太は問う。
しかし鎧武者からすれば小型犬の威嚇のようなもの。やはり鼻で笑われてしまう。
「だが英雄とは名乗るもの!そんなに言うなら聞かせてやろう!拙者の名を!」
「さっきから名乗れって言ってるじゃないのよ、早く名乗んなさいよ………」
あまりに引っ張りすぎ、そしてまるで劇でもしているかのようなわざとらしい鎧武者の態度にセシリアもうんざりしているのだが、自分の世界に入り込んでいる鎧武者は構わずその態度と演技のまま、まるで歌舞伎で見栄を切るかのごとくその名を名乗った。
「拙者の名は平賀抜刀斎!絶滅危惧種のウナギを食べる愚かな日本人を誅伐する、ウナギ食うな侍でぁああ〜〜るぅ〜〜!」
思わずべべんっ、と三味線が聞こえてきそうなポーズと名乗り。ギャグシーンにしか見えないのだが、自分の世界に完全に没入してしまったその平賀抜刀斎はそのシュールさに気づいてはいなかった。




