3-6
まるで人々の危機に正義のヒーローが駆けつけたがごとくザンッと揃ったモッツァレラ小隊の四人。ところが見ての通りその面々はハーレム要員とその主であり、敵対している聖母の会は女性と子どもの人権を守るための非営利団体。
本来少数民族であるエギアス族を守るべきは聖母の会なのだが、その役目を"未成年を性的に眼差す"とされるオタクの妄想の化身のようなモッツァレラ小隊が担い、聖母の会は逆にエギアス族を追い出そうとしている。そんな、なんとも皮肉な光景が広がっていた。
「遅いじゃない………モッツアレラ小隊!」
「間に合ったんだからいいでしょ、凪さん!」
ジャキリ、とアサルトライフル・クーゲルシュライバーを白ハゲに向けて威嚇する九郎太。対する白ハゲもその意味がわかるのか、唸りながらも襲ってはこない。
「ここに来る道中、ここの白い奴らみたいなのが襲ってきたから片付けてたけど、まさかこいつらの差し金だったとは………」
「嘘!?キャンプに侵入されてたの!?」
「制圧はしました。多分こいつらは囮だったんです」
そして到着が遅れたのはキャンプに侵入した白ハゲ軍団の別働隊を倒していたから。自衛隊を襲ったのもそうだが、非戦闘員かつ難民のエギアス族にも手を挙げるなど、抗議活動の域を超えている。
「まだ別働隊がいる可能性がある。ここの部隊を防衛に回してください」
「ええ、わかったわ」
凪が自衛官達をキャンプ敷地内の防衛に回し、自分もミムーを連れて退却する。これで対峙しているのは聖母の会とモッツァレラ小隊だけになった。
「で、どーすんのよオバサン達?あんたら、国家権利に武器向けたのよ?」
「武装解除して投降してください、今なら罪を軽くできます!」
煽るミーニャと、真面目に投降を呼びかける乙葉。H代表の照朝は聖母の会問題が浮上する以前からSNS等を通して萌え絵や献血ポスター等のオタクが喜びそうな話題に、同じような思想を持った者達と一緒になって誹謗中傷と妨害を繰り返していた。オタク向けコンテンツから生まれてきたとも言える乙葉達からすれば仇敵も仇敵である。
それ以前にもミーニャの言う通り彼女らは日本の国家権力に矛先を向けた、国家反逆罪に問われる可能性すらある立場だ。
「だっ、だから何ですか!!私達は子ども達を守りたいんです!!あんなもの、子供みたいな体型の人間がセックスするなんて耐えられない!!」
しかしそれでも、照朝は自らの正義を信じていた。故に自分は負けないと。こいつらこそが裁かれるべき悪だからと。若い頃電車で隣の席に座ったサラリーマンがブサイクだったので痴漢だと叫んで警察に突き出した時のように、自分達女性を不快にさせる奴らは悪だから、正義のあるこちらが勝つのだと。
「私達はただ子ども達を守りたいだけなのに!!どうしてっ………!!」
「おだまりっ!!そんな冗談はよしこちゃんよッ!!!」
「なっ!?」
しかしその正義に待ったをかけたのは、そのエギアス族を守りながらここまで海を越えてきた、文字通りの箱舟たるサン・マルコ・セシリア。
「じょ、冗談!?冗談だなんて!私達は子ども達のために………!」
「そうやって被害者ヅラされても説得力の欠片もないわ!冗談が嫌なら詭弁と言った方がいいかしら?」
「きっ、きべ………っ!?」
冗談からさらに悪くなった。知らない人に解説させてもらうと、詭弁というのは明らかに間違った事柄を言葉巧みに真実や正論のように話し、相手を言いくるめる手法の事。
言うなれば詐欺であり、セシリアは眼前の照朝の善人を気取った笑顔の下のドス黒い本性を見抜いていたのだ。
「子供のため、世のため人のため。そうは言っても結局あなた達はエギアス族の人達がアベックになるのが気に入らないって事じゃないのよ?違う?そもそも背が低いボインちゃんなんて昔から腐る程いたのに、どうして急に子供達を脅かす脅威になるっての?」
「子どもみたいな外見の人間がセックスしてるんですよ!?気持ち悪くないんですか!?異常でしょうが!」
「自覚がないようだから教えてあげるけど………そういうの専門用語で"差別"とか"ヘイトスピーチ"って言うのよ!」
特にセシリアはここまで荒波と戦火を越えてエギアス族を日本に送り届けた張本人。一族の存続と未来のために、故郷アメリカの大地を捨ててでも日本にやってきた彼女達の命がけの覚悟をすぐ側で見てきた。
だからこそ、照朝のような自分達の不快程度を理由に排除と差別を正当化し、あまつさえ子ども達の為=子供に責任転嫁するような考えは許せない。
「こ、この………あああっ!!あいつらを黙らせろ!!」
「オイイイイイイッ!!」
「オイイイイイイッ!!」
これがSNSならブロックすれば済んだのであろうが、現実はそうはいかない。照朝は怒りで顔を真っ赤にし、白ハゲに向けてヒステリックに叫んだ。
命令に反応した白ハゲは、両手を構えるように広げモッツァレラ小隊の四人へ向けて殺到する。照朝の絶叫にすら顔色一つ変えぬ様はなんとも不気味であり、一律の整ったフォーメーションも合わさって機械のようだ。
「………あともう一つ………」
迫る白ハゲに対し、セシリアもまた鋭い目を変えずに両手を広げた。するとどうだろう、彼女の背中を起点にガチャガチャと機械が展開していく。それは実際の揚陸艦サン・マルコのカタパルトと機関砲をまるで背中に背負うタイプの武装にしたような物………セシリアの出身作たる少女艦隊×プリティーフリートに登場する少女艦の纏う武装・艦装具である。
「他人の恋路を勝手な正義でジャッジするってのは、ひがんだブスがやる事なのよッ!!!!」
ズドドン!ドドン!機関砲が火を吹き、飛び立った戦闘ヘリがミサイルの雨を浴びせる。爆炎、爆砕、大破壊。サイズこそ人間サイズに縮んでるものの、浴びせられる火力はまさに"強襲"揚陸にふさわしいそれである。
「………はは、圧倒的じゃあないか?我がママは」
その上、白ハゲの接近も反撃も許さない恐るべき火力を前に、これから戦おうと構えていた九郎太達は"もう全部あいつ一人でいいんじゃないか?"と思えるような蹂躙ぶりに苦笑いを浮かべる。彼女の火力バカさ自体はSEOの頃から知っていたが、それを鑑みても情け容赦は少しもない。
だが、セシリアの行動原理が「愛」である事を考えると、エギアス族のそれを馬鹿げた理由で奪おうとする照朝ら聖母の会のやり方にここまで怒るのも頷けた。
「オイイイイイイッ?!」
「オイイイイイイッ!?」
やがて破壊の飽和攻撃は終わりを告げ、粉塵の向こうから現れたのはダメージを受けて地に臥する白ハゲ。そして守られる手段も、相手への攻撃の手段も失った聖母の会の一同。プラカードとシュプレヒコールだけで国家権力をバックにつけた相手を止められない事ぐらい、半分はその傘下にいた彼女らが一番知っていた。
「………これが最終通告です。抵抗をやめてください。今なら公務執行妨害罪はつきません」
通告した九郎太にしてみれば、公務員としても人としても無駄な血を流さずに場を収めたいという想いがあった。これだけの力量差を見せつけられれば応じてくれるだろうという希望的観測も。
「………けるな」
「んっ?」
「ふざけるなあああああ!!キャアアア!!キモイイイイ!!」
しかし照朝からすれば、これはオタクという心の底から見下し嫌悪する人間から情をかけられた………というか、状況を見るに煽りをかけられたとしか見えないシーンである。
彼女の尊大な自尊心についた深い傷が、ここまで何一つ思い通りにいかない事への怒りを噴出させ、それは言語にすらならない感情の爆発という形で出力された。
「だっ、代表………?」
「あぁティンコンカンコンティンコンカンコン言うなよォ!!!お前らはどれだけ私の心を傷つけるんだ!!頼むから私に恥をかかせるなァ!!!お前らが受けた痛みがなんだ!?私が受けた痛みのどのくらいか分かるかァァァこのハゲェーーーッ!!」
「だ、代表!落ち着いて………!」
顔をゆでダコのように真っ赤にし、火山が噴火したかのように照朝の口からは暴言の無差別放火が撒き散らされる。味方であるハズの聖母の会構成員が止めに入ろうと、彼女はヒステリックの咆哮を上げ、バンバンとプラカードを地面に叩きつける。
「ハゲって………俺ハゲてないんだけど」
「違うだろ違うだろォォーーーーーッッ!!!」
「聞こえてませんね……」
今度こそ煽りにしかならないツッコミを入れた九郎太であるが、それすら聞こえない程に照朝は怒り狂い、とても妙齢の女性がするとは思えない金切り声を上げながら暴れまわる。まるで、物事が思い通りにいかずに癇癪を起こした幼子のよう。
「出たわね?アイツのこの世のどんな悪よりもドス黒い性格が!これまでの聡明さや聖女のような態度など単なる仮面にすぎない!これがああいう人間のの本性よーッ!」
「ふざけるのは後になさいなミーニャちゃん、まずはこいつらを拘束するわよん」
「了解♪」
そしてモッツァレラ小隊としてもこれ以上彼女らの正義ごっこに従ってあげる義理もない。反撃が出来るとも思えなかったので、さっさと照朝を拘束してしまおうという流れになった。
………所で、何か忘れていないだろうか?そう、ここで伸びている白ハゲ達の事だ。
「オイイイイイイッ!」
「うわっ!?」
既に制圧・撃破したと思われた白ハゲの内一体が起き上がり、空に向けて大きく吠える。まだ生きていたのか?と言うよりも早く、倒れたハズの白ハゲは次々と起き上がり、まるで狼の遠吠えがごとく共鳴を始めた。
「オイイイイイイッ!」
「オイイイイイイッ!」
「オイイイイイイッ!」
「オイイイイイイッ!」
響き渡る「オイイイイイイッ!」の大合唱。単体ならただのネットミームにしか過ぎないそれも、こんな状態では不気味である。
「ちょっとあんたら!どうなってんのよこれ!?」
「し、知らない!こんな機能があるなんて聞いてない!!」
加えて、使役していた照朝でさえ白ハゲがこうなる状態については何も知らなかった。もはや完全に何が起きているかは解らぬ事態を前に、モッツァレラ小隊は何もできない。
やがて、ここに来る間に倒してきたキャンプ周辺の白ハゲも起き上がったらしく、「オイイイイイイッ!」の大合唱は次第に大きくなっていく。そして。
「オイイイイイイッ!」
白ハゲの一体が天高く飛び上がった。それに続き、二体三体………この場所に現れた白ハゲ達が上空のある一点に向けて殺到してゆく。
「一体、何が始まるんです………?」
「決まってる」
「えっ?」
ただ九郎太は察しがついた。ただの現実ならそうでもないだろうが、ここは虚構が実態を持ったセオベイド・セオベイターの戦場。何が起こるかは、特撮的文脈にも精通した人種=オタクたる九郎太にはおおよその予測ができた。
「合体だ………!」
九郎太の予測通り、白ハゲ達は高熱で溶けたマシュマロが如く溶け合い、混ざり合い、やがて一つの塊を成してゆく。
巨大な腕、巨大な足、巨大な頭。元の白ハゲの数から考えてもここまで大きくなるのはおかしい。しかしその姿は50mサイズの怪獣のように巨大な人の姿をしていた。
「倒した敵が巨大化って………レンジャー物じゃないのよ?おったまげーだわ………!」
予想外の敵を相手にしたが故の予想外の展開を前に引きつった顔のセシリアの眼前で、白い肉が混ざり合ったのっぺらぼうの巨人の顔に人面が形成され、その恐るべき合体は完了した。
『オイイイイイイッ!』
巨大白ハゲが完成し、眼下の九郎太達を見下ろしながら吠えてみせる。巨大化した事で有利に立った自分を誇示するかのように。
「へ、へ、はははははっ!!ザマーミロペドフィリアと奇形どもォー!!あーっはっはっは!!」
使役していた白ハゲが倒された。かと思いきや復活し合体。巨大な白ハゲと化した。復活機能自体照朝をはじめとする聖母の会達は"販売元"から聞かされていなかったわけだが、絵面をその通りに受け取るなら自軍戦力の復活&パワーアップという願ってもない奇跡
まさかの逆転に喜びのあまり、その内に秘めたる差別意識を隠そうともせず笑い転げる照朝。行き場のない少女達を守る聖女が、その魔女のような本性を剥き出しにしているのだ。
「いいぞぉッ!今のお前の力であの小児性愛者の群れをこの世から消し去ってしまえぇーっ!!」
気分はまさに軍を率いるジャンヌ・ダルク。バッと手を広げて巨大白ハゲに命令をしてみせる照朝であったが、その夢はすぐに覚める事となった。
「………へっ?」
どぐしゃ、と聖母の会の象徴でもあるバスが巨大白ハゲにより蹴飛ばされる。唖然とする彼女らだったが、どぼんと海に突っ込んだバスと、こちらを睨む巨大白ハゲを見て気付いた。あれは既に、自分達の制御下にはないと。
「ひ、ひいいいっ!!」
「助けてぇっ!助け………げふっ!?」
「ど、どうなってるんですか代表ォ!?」
「うるだいっ!知るかっ!私は知らない!知らない!!」
最大の味方は敵になった。先程の使命感と正義に満ちた様が嘘のように聖母の会は蜘蛛の子を散らすかのように逃げ出してゆく。だが密集していた彼女らが上手く逃げられるハズもなく、ある者は人の波に潰され、ある者は足払いした巨大白ハゲに蹴飛ばされ………。
正義に溺れた者が、それを執行するための力により蹴散らされる様は自業自得の一言。しかし彼女らも一応は日本の民草。見捨てるわけにはいかない。
「弟くん!」
「ああ解ってる!来いッ!メガフェンサー!!」




