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戦火の真っ只中を逃げてきたエギアス族の面々の行動は素早く、そして的確だった。代表として族長ミムーと数人の代表のみが政府の面々と共に交渉の場に立ち、引っ張れば連れ去られるであろう幼い民は自衛隊員に守らせたキャンプに引っ込ませ、向かっていた「花婿」達も途中のパーキングエリアで護衛を続行させつつ待機してもらっている。
まるで敵対国が差し向けたテロリストに襲われたかのような対応である。だが間違ってはないない。今回の相手はテロリストと大差ないのだから。
「どこから情報が漏れたの!?」
「所詮は本邦ですからね、変な所で杜撰なのは相変わらずですよ!」
「………くそがッ!!」
苦虫を噛み潰したような顔で凪が睨む先には、キャンプに繋がる国道を封鎖するように埋め尽くす一団。同じデザインの淡いピンクのシャツを着て、横断幕やプラカードをこちらに向けている一団。
まるでここから出さんぞと言うがごとく、その象徴であり移動手段でもあるピンクのバスで道を塞ぎ、こちらに向けて抗議という名の罵詈雑言を飛ばしていた。
「私達は、子ども達を守りたい!!」
「ペドフィリアの権利を優先する政府を許すな!!」
「おぢんぼ!きもい!!!」
連中とてキャンプを発見してからの急な集まりだったのか、いつもは合唱のように統制されたシュプレヒコールを放っている所だが、今回ばかりはただの罵倒大会になっていた。
「凪さん………彼女らはどういった団体なのですか?」
ミムーは怪訝な顔で尋ねる。彼女が気になったのは、それがアメリカでエギアス族を迫害した様々な団体と違い、場に出ている構成要員が女性ばかりという所。そこがミムーには、単なる「善意ある一般市民」とは違うように思えた。
その問いに対する凪は、まるで身内の恥を話すかのように恥ずかしそうに、そして呆れを込めた表情で答えた。
「彼女らは"聖母の会"………国の支援団体ですよ」
聖母の会。それは東京都の傘下にある一般社団法人………公金によって運営される非営利団体の一つである。DVや家出等の理由で夜の街をうろつく若年女性が問題になっていた頃に立ち上げられ、そんな「居場所のない女の子たち」の支援を行う事を目的としている。
例を上げると、今も持ち出しているピンクのバスを使ったバスカフェによる食事の提供や、逃場としてのシェルターの提供等が挙げられる。
「それじゃあ、いい人達なんですか?」
「とんでもない!その実態はとんだ詐欺師、反政府・反社会勢力ですよ」
だがその実態は、本邦において勢力こそあるが国に対して否定的な左巻きの政党と強い繋がりがあり、若年女性支援のためと称して受け取った公金を、政治活動のために横領しているという有り様だった。
シェルターに保護した若年女性達に関しても、主にデモ等の政治活動の人員として徴用したり、生活保護を申請させてその金銭を徴収したりと、保護とは程遠い扱いを受けさせている。今も、道を塞ぐ一団の中に保護して徴用してると思しき若い女性がちらほら見える。
最近は上記の悪事がネットに流出した事や、セオベイドの出現………利権や金銭に囚われない救済を行う者達の出現により後が無い状況に追い込まれている。今回の襲撃もそのためだろう。
「えと、悪い人達というのは解りましたが………」
「解りましたが?」
「何故、そんな悪い人たちが市の監視下で今まで野放しに……?」
「………なんででしょーね」
その瞳が皮肉や嫌味を含まないミムーの純粋な好奇心からの疑問である事を物語り、所属組織の恥部を突かれた凪は頭を抱えて俯くしかなかった。
「まあとりあえず……立ち退いてもらわない限りは話が進まないわ」
思う所しかないが、凪も脳特対としての仕事を果たさなくてはならない。拡声器を片手に構え、聖母の会に向けて勧告する。
「こちらは政府の管轄下である、これ以上の妨害工作を行うなら実力による排除を行う」
お前達は国家権力に楯突いているんだぞという勧告。自衛隊による護衛が行われている以上そういった考えは浮かぶものであろうが、今回は相手が悪かった。
「ほら見ろ!国は児童の性的消費を幇助している!!」
「国は子どもたちの事よりも他国にいい顔する方が大事なんだ!」
「子ども達を守るために私達はわきまえない!!」
「おぢんぼ!きもい!!!」
相手が国である。つまり悪い権力が悪事を成そうとしていると解釈した彼女らは余計に正義の炎を燃え上がらせた。
しまった!と頭を抱える凪から拡声器をパッと取り上げると、今度はミムーが聖母の会のデモ隊に向けて声を挙げた。
「私はエギアス族代表のミムーです!私達は滅びの危機に瀕している一族を助けてもらうため、正当な手段と契約を持って日本に亡命してきました!どうか、どうか話し合いによる解決と理解を望みます!貴女方の代表者の方をお出しください!!」
か細い声をいっぱいに張って叫ぶミムー。被害者だと思っていた者の叫びに対しデモ隊は思わず黙ってしまう。ミムーが頑張って大声を出してくれたのもあるが、聖母の会も良心の迷いがあったのだろう………つまり、自分達が間違っているという事を薄々自覚しているという事だ。
「私を呼びましたか?」
「ッ!?」
しかし、デモ隊をモーセの滝のように掻き分けて現れたその女だけは違った。たしかし見かけはにこやかな中年女性だ。しかしその笑顔は薄ら寒さを感じさせるそれであり、その内に渦巻くどす黒い本性が漏れ出ているようでもあった。
聖母の会規定の淡いピンクシャツの上からマゼンタのカーディガンを羽織っている様も、聖母の会構成員を侍らせるように歩いてくる様も、自分を特別に見せたいという欲望がよく解る。言ってみれば、聖母を気取っているレディースの総長のような人間だ。
「NPO法人聖母の会代表「照朝雅子」です、よろしく」
「………エギアス族族長のミムーです」
照朝の名を聞いた途端、凪の目つきが鋭くなる。国家の治安維持を使命とする彼女にとって、眼前のそいつは敵でしかないからだ。
その笑顔の女の名は照朝雅子。聖母の会の代表を務める社会活動家だ。聖母の会を立ち上げたのは自身も家庭に居場所がなく、夜の街を彷徨う少女時代を送った事から今の若者にそんな地獄を味わってほしくないからとの事。だがその実態がどうかは、聖母の会の全貌が示している通りである。
「私達エギアス族は、偏見と心無い差別のせいで滅びの危機に瀕しています。このままでは子孫を残せずエギアス族は死に絶えてしまうのです。だから日本の皆様の力を借りたく、私達は海を超えてきたのです。何故それを邪魔するのですか?私達エギアス族は滅べと言いたいのですか?!」
必死に訴えるミムーを前にしても、照朝は笑顔を崩さない。凪には解る。それは優しさではなく余裕、そして眼前のミムーを対等な立場の人間と見ていない証だ。
「では逆にお聞きしますが………部族の存続は、子ども達の未来よりも大切なのですか?」
「えっ………?」
「それに部族の未来が守れても、女の子達個人の幸せはどうなるのです?子どもを産み家庭に入る事よりも、女の子は幸せを追い求める権利があるんです」
凪はそんな照朝の顔を見て、ある事に気付いた。政府の人間として何度か政界やそれに関わる様々な事を見てきたから解る。あれは若い政党の政治家がやる、理想と正義に満ち溢れた者の表情だ。
「たしかにあなた方の言いたい事もわかります。しかし、女の子達は今泣いているんです!一部の小児性愛者から性的な眼差しを向けられ、今まさに苦しんでいるんです。貴女方がここに来て子作りをするせいで、そんな小児性愛者に正当性を与えてしまうんです!そんな事、私には耐えられません!」
「そうだそうだー!」
「子ども達をまもれ!!」
「おぢんぼ!きもい!!!」
故に自分達以外の正義を認めず、悪というレッテルを張り滅ぼしにかかる。だが、その掲げる正義は詭弁と偏見に満ち溢れた物に過ぎない。
上記の主張にしても、エギアス族ほどでなくとも子供のように見える成人女性というのは日本にも僅かながら存在し、彼女らに結婚を諦めろと言う事に繋がってしまう。だが彼女達聖母の会は聞く耳は持たない自分達にこそ正義があると盲信し、先鋭化に次ぐ先鋭化を繰り返した彼女らに、もうどんな正論も届かない。
「私達はわきまえない!!私達は、子ども達を守りたい!!」
再びシュプレヒコールの大合唱が始まり、ミムーはついに黙り込んでしまう。圧と数で一人を追い詰める連中のどこに正義があるのかと、凪含めたその場にいる自衛隊員は呆れ果てた。
「………しゃーない、実力排除よ」
「いいんですか?相手は民間人ですよ?」
「あれじゃ暴徒よ、ガッツリ行政の邪魔してるわけだし。それにさっきの映像撮ってるから文句言われたらこれ突きつければいいわ」
そして行政の邪魔をしている以上は、いくら掲げるイデオロギーが高尚だろうと実力の行使が許される。その後の事を有利に進める手段も手に入ったとあればもはや容赦してやる必要なし。
「構えッ!!」
ジャキリッ、と自衛官達が暴徒鎮圧用のゴム弾やら催涙ガスやらが装填された銃身を構える。どれだけ五月蝿くとも相手はただの民間デモ隊。さっさと鎮圧できる………と思っていた時期が凪にもあった。
普通なら鎮圧されておしまいだが、今は虹の日以降のセオベイターがあふれる世界。想定してない事は、いつだって起きる。
「オイイイイイイッ!!」
ばばんっ、とデモ隊の中から何者かが、人間の跳躍では無理な高さまで飛翔し自衛官に襲いかかる。呆気に取られた彼らに対して「それ」は上空から蹴りを食らわせ、持っていた銃を破壊する。
「うわっ!?」
「なんだこいつ!!」
「オイイイイイイッ!!」
さらにもう一体が飛び出し、別の自衛官に飛びかかった。さながら、ゾンビ映画のワンシーンのようである。
「こいつッ!!」
「オイイイイイイッ!!」
混乱に包まれる現場の中、別の自衛官が手にした銃で仲間を助けようとするが、また別の「それ」が飛び出してきてそれを妨害する。
迫る「それ」からミムーを庇うように前に立った凪は、「それ」の全貌を見て驚愕した。
「なんだ、こいつ………!?」
一言で言うなら体格の良い全裸の成人男性という言葉が相応しいだろう。毛髪がないのもムダ毛やその他の眉毛を除いた体毛が一切ないのもまだ許容範囲。しかし生殖器があるはずの股には棒も谷もなく、色白なんてレベルではない真っ白な体表をしている。
「オイイイイイイッ!!」
その上、口から出るのは漫画「ギンタメン」の印象的なツッコミのような台詞を、獣の咆哮のように発する音声だけだ。
真っ当に考えればセオベイターかセオベイドのハズだが、SEO内に実装された版権作品とアバター・アイテムは一通り暗記した凪であるが、その中にあんなものは存在していない。かといってあれが人間とも考えられない。ならあれは何だ?何故聖母の会に従っている?
「オイイイイイイッ!!」
「うわあ!このおっ!」
特筆すべきはその「白ハゲ」としか言えない何かの戦闘力。奇襲だったというのもあるが、たった四体で、武器すら持たぬ徒手空拳のみで白ハゲ達は自衛隊の防衛線を崩壊させようとしている。
このままではデモ隊がキャンプに雪崩込んでしまう。そうなれば政府の計画は台無しになり、国際情勢における日本の立ち位置も危うくなってくる。
「神よ………今の時代に我々の居場所はないと言いたいのですか………!?」
そして何より、今度こそエギアス族も滅びてしまう。その最悪の未来が迫っている状況に、ミムーは頭を抱えて狼狽した。エギアス族は滅ばなければならないのか?と。
「時代ごときで人が殺されてたまるかァ!!!」
だが、そんな事を認めない者達がここにはいた。自衛官にマウントを取り殴ろうとした白ハゲが「アサルトライフル"クーゲルシュライバー"」に弾き飛ばされる。それに驚いた白ハゲが今度はライデンソードの一撃を受けて吹っ飛ばされた。
「オイイイイイイッ!?」
「オイイイイイイッ!!」
突然の急襲を前に、白ハゲ達は一度引いて、デモ隊の前に陣取り威嚇するように叫ぶ。そこに立ちふさがるように立つ四つの影。
|妖艶でおっぱいが大きいママ《サン・マルコ・セシリア》、|生意気でおっぱいが大きい妹、|優しくておっぱいが大きいお姉ちゃん《葛城乙葉》、そしてそれらを束ねるプレイヤー。
「遅いじゃない………モッツアレラ小隊!」
「間に合ったんだからいいでしょ、凪さん!」
どんな難易度にも怯まず、平和を乱す卑劣なENEMYを許さない。
それが奴らだ、モッツアレラ小隊!




