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アメリカの反セオベイド勢力との戦争の最中、ある理由で逃げてきた難民………アメリカ大陸に住む、とある少数民族達。彼らが入国の入口としたのは、岩手県にある人気の少ない海岸であった。
国際的にセンシティブな問題を孕んでいたが為に、直ぐ様周囲には政府によるバリケード………工事中の看板や、先で事故が発生したという嘘の交通整理による「情報の結界」が敷かれ、その存在は世間から強く隠されていた。
そして今回モッツアレラ小隊に与えられた任務は、その少数民族達が一時的に身を置く難民キャンプの護衛。
現状極秘のため世間へのアピールにこそならないものの、他国に対して日本のスタンスとモッツアレラ小隊の存在感を見せつけるという、政治的な理由になるのだ。
「二話連続で亡命ネタとか、作者はネタの引き出しが貧困なんだよなァ」
「クー兄ぃ!メタい事言わないの!」
世間の目を欺くべく、海中を潜航していたプラットベースが岩手の海から浮上する。さながら「グランドエース」や「ライトニングホーク」に代表されるようなメカ描写の光る特撮のよう。
さて、本来なら彼等が海上に上がって最初に見るのは海岸に乗り付けている強襲揚陸艦サン・マルコの姿なのだが………。
「………ないね」
「やっぱり………」
そこにサン・マルコの姿はなく、政府が用意したのであろう難民達のためのキャンプと、それを展開した自衛隊や、その他政府の関係者と思われる人々が海岸沿いの丘に広がる様が飛び込んできた。
ここにあるハズのサン・マルコは何処へ消えたのか?と読者諸君は思うであろう。が、彼らモッツアレラ小隊はむしろその様を見て確信が浮かんだ。
彼等にとってサン・マルコの姿がない事など想定済み。何故なら、そのサン・マルコこそが………。
***
プラットベースを隠し、そこから出撃したスカイヘッダー、アームドライナー、ディグバスターの三機のビークルを使い、モッツアレラ小隊の三人も現着する。
もうすっかり顔なじみである自衛隊の方々に軽く会釈し、九郎太達は先に来ていた凪と合流する。
「すいません、でかい基地なもんで」
「その分の働きを期待するわ」
「それで………」
キョロキョロと辺りを見回す九郎太。ここは難民キャンプで、当然ながら彼等の護衛対象である難民になった少数民族がいるのだが………。
「………子供ばかりですね」
「そう、見える?」
見たところ、彼等の外見的特徴は確かに外国人………彼の見知った日本人とは違う特徴が見えるそれなのだが、ひどく幼いのだ。
九郎太自身今は子供の身体なのだが、それよりも背丈は一回り小さく、顔立ちも含めて小学生〜中学生のようにも見える。
「それに女の子ばかり………」
「そう」
「………しかも胸が大きい」
「そう、好きでしょ?」
「いや、リアルは………」
その上で気づいたが、難民達は全員が女子であり、しかも大きな胸を持っていた。
トランジスタ・グラマーという言葉が一度死語となり、某検索エンジンの言葉狩りでロリ巨乳が使用不能になった事への対策か再び使われだして久しい。が、あくまで現実的な女性の体系としてのそれで表現するのは憚られた。
なんせ本当に、子供の女性に成人女性の巨大な乳房を取ってつけたコラージュのような外見のものばかりなのだ。
「………セオベイドですか?もしくはセオベイター」
なら自分達の同族ではないか?と九郎太が考えるのは当然の事。
このような外見の人間など、アニメやゲームの中にしか存在しえない。なら、彼女らがセオベイドかセオベイターかのどちらかと考えるのは自然な事。しかし。
「いいえ?」
「えっ!?でも………!」
凪は違うと言った。つまりこのコラージュかAI生成画像にしか見えない巨乳女児達は全員純粋なホモ・サピエンスであり、九郎太の所属するカテゴリの日本人と同じく、自然に発生し進化してきた人類だというのだ。
そんなバカな事があるのか?と思った九郎太であるが、眼前でたゆんたゆんと揺れる彼女達は嫌でもそれが現実であると突きつけてくる。
「我々について疑問が浮かぶのは仕方がありませんね」
そこに割り込んできたのは、巨乳女児軍団の中の一人で、真っ白な髪をツインテールにし、木を加工したと思われる…………漆を塗っている?…………アクセサリーをつけた女児。
他の面々と比べると荘厳というか、オーラのようなものを感じ取れ、直感で彼女がこの集団の代表なのだと解った。
「申し遅れました、私はエギアス族の族長ミムーと申します。あなた達が政府の………」
「………警備と防衛を任されました、脳特対モッツアレラ小隊・隊長の泉九郎太です」
「えと、隊員の神楽乙葉です」
「同じく、ミーニャ・ドロッセルでーす♪乙姉ぇ共々セオベイドでーす♪」
「ご丁寧にどうもありがとうございます………立ち話もなんですし、私のテントにどうぞ………」
彼女達は「エギアス族」という民族であり、その代表が彼女「ミムー」。九郎太達は彼女に連れられて、彼女の仮の住居であるテントにホイホイと向かうのであった。
………その間周囲を見渡す九郎太であったが、彼の探す人物は見つからなかった。そしてもう一つ、ある事に気づいた。
このエギアス族であるが…………笑っていないのだ。
その全員がまるで鉄面皮のような、この世の絶望を全て背負っているような顔をしていたのだ。
***
………ミムーの話によると、彼女達エギアス族は北アメリカ大陸に住む先住民族の一つ。ネイティヴ・アメリカンと呼ばれる人々の一部族だという。
特徴として男性は普通と変わらないのだが、女性は背が低く容姿が幼いまま、胸だけが大きく膨らんでゆくという。
学会では未だにその理由が解っていないが、彼女達からすれば「そういうもの」なのだという。
また、ファンタジー作品や伝承に登場する妖精ドワーフは彼等がモデルだとかなんとか。
「もっとも妖精と違って不死ではなく、外見が変わらないだけで老いるし寿命もありますがね………ふふふ」
亡命の際に持ち出してきたという、エギアス族が儀式で使うのであろう物品に囲まれたテントの中で、ミムーはニッコリと笑っている。
ちなみに御年75歳。乙葉とミーニャは元より、凪や九郎太よりもずっと年上なのだ。故に荘厳さを感じる。
「私達はアメリカの片隅で命を紡ぎ………よくある少数民族として生きてきました。しかし………」
「………何があったんですか?」
「民族への排斥が始まったのです」
民族への排斥。そんな事がこの現代社会、しかも人種のサラダとまで言われる多様性の国アメリカで起きたのか?
思わず身を乗り出す九郎太達に対し、ミムーは静かに語る。
「性被害から子ども達を守りたい………そんな言葉からでした。我々が子供に見えていたのでしょう。しかしやられた事は、夫婦で歩いているだけで拘束されたり、エギアス族だと解ると仕事をクビになったり………とにかく、エギアス族というだけで社会は我々、とくに男性を犯罪者のように扱いました」
そう語るミムーの手は震えていた。
アメリカに限らず、小児性愛者………幼子に欲情する人間を邪悪とするのはどこの国も同じ。その価値観において外見が子供のまま性交・妊娠・出産を行うエギアス族は、存在自体が"反則"だった。
そこで"善良な人々"が取った行動が、そういった「正義」を建前にした「少数民族への社会的弾圧・排斥の正当化」だったのだ。
「我々は我々だけで集まって暮らす事にしました。幸運にも先祖から受け継いだ土地の一部は所有が認められていましたから………自然の中で、文明から離れてもう一度生きようと考えました」
ミムーの判断は正しかった。そういった道徳的な正義や大義というのは社会にいる限り嫌でもつきまとう。なら、その社会から離れてしまえばいい。
その分不便になるものの、エギアス族は伴侶との愛を選んだ。それだけだった。
「思えば………"連中"はそうやって我々を追い詰めるのが目的だったのかも知れません」
だが、逃げただけでは終わらなかった。そう語るミムーの手は震えていた。
「ある団体………もう名前も思い出したくありませんが、子供達を守るためだとか、そんな事を掲げている団体がいました。彼らが………」
「彼らが?」
「………毒を撒いたのです、私達が生活用水として使用していた川に」
「な…………ッ!?」
絞り出すように告げられた事実を前に口を覆う乙葉と、身を乗り出すミーニャ。九郎太も、声こそでなかったが開いた口が塞がらない。
「彼等は薬だと言い張りましたが、実際は遺伝子に反応して作用するウイルスでした………これに感染すると、女性は何もありませんが、男性は寄生虫にやられたような症状に陥り、やがて死に至ります」
生活用水に毒を流すというのは昭和の特撮や漫画で多様されたという印象が強く、字面だけではどうしてもチープな印象を受けてしまう。
しかし水という物質は人間を含めたあらゆる生命において必要不可欠なもの。ましてやそれが唯一手に入る場所に毒を流すという事は、畜生だの外道だのという言葉に収まらぬような悪行だ。
「私の夫も…………!」
絞り出すような言葉を綴るミムーは、そこから先は言わなかった。言えば心が張り裂けてしまうから。
小さな身体と大きな乳房と手と肩を震わせる様に、口で正義を語りながらこんな非人道的な事ができてしまうその団体とやらに、九郎太も凪も静かな怒りを燃やす。
「気づけば、エギアス族の男は全て死に絶え、後は私のような女を残すのみ………このままでは、エギアス族は絶滅してしまう。そんな時でした、あなた方セオベイドやセオベイター達が世界に溢れる、虹の日事件が起きたのは」
虹の日事件による世界の混乱は、彼女達エギアス族にとっては渡りに船だった。
アメリカも反セオベイド・セオベイター勢力である政府や宗教団体を中心とした体制側と、セオベイター達を中心とした革命軍に別れての内戦に突入。混乱に乗じてエギアス族は自分達に好意的な方である革命軍に接触。争いと団体の目から逃げ、エギアス族を存続させるべく日本へと亡命した。
これが、エギアス族の来訪の背景である。
「………あの、ちょっと待ってください?」
「何か気になりますか?セオベイターの御方」
「あの、話を聞いていて思ったのですが………」
話が終わった直後、話を切り出したのは九郎太。
彼は昔のリアルロボアニメの主人公ではないので、彼女らがどうあろうと護衛の任務は全うするつもりではいる。
「自分の下衆の勘繰りだったら申し訳ないんですが………なんだか話を聞いている限りでは、まるで日本でエギアス族の皆さんの結婚相手を探すみたいに聞こえて、その………」
しかし、日本の持つ先進国としての倫理と正義。それとプリミティブな衝動の矛盾の中で生きていた人間として、それだけは聞きたかった。
"まさか君等、日本に子作りの相手を探しに来たのか?"と。
そんな失礼の極みとも言える質問であるが、それに対してミムーはにっこりと笑い。
「ええ」
「ええって…………え、ええ!?」
「私達の目的は亡命ともう一つ、日本で結婚相手を探す事です。先も言ったように、このままではエギアス族は滅びてしまいますので………」
何の抵抗も後ろめたさもなく、目をパチクリとさせる九郎太に対してはっきりと返答してみせた。
自分達エギアス族は、日本人のお婿さんを探しにきました、と。
「他の国と違って、日本は結婚相手を探すのには最適だと私は考えています。何せ………」
「な、何せ…………?」
困惑と驚愕で呆然とする九郎太に対して、ミムーはその幼くも成熟した顔を、在りし日の少女時代のようにクシャリと細めて笑ってみせた。
「日本の殿方は、私達のような女性で興奮する事に、そこまで抵抗は見せませんから♪」
ミムーとしてはマナーとしての愛想笑いではあるものの、好意的な感情から来る笑みだった。
しかし九郎太からすれば、幼子の身体に興奮する残虐性と、それでいて大きな乳房を求める幼稚さを持った、自分を含めた日本人男性に対する痛烈な皮肉としか思えなかった。




