表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイバーエデン・オフライン〜サ終したゲームが現実に侵食してきたのでヒロイン達と共に平和のために戦います〜  作者: なろうスパーク
WAVE03「よりによって発情期が来る時期をエロ厳禁の未成年に定義づけたバカはどこのどいつだ」
17/25

3-1

 ある輸送船が、輸入品と輸出品を乗せて荒れる海を進んでいた。

 夏場の低気圧により海は大きく荒れる中でも、その輸送船は難なく進んでいく。といっても、本来ならこの天候での航海は推奨されていない。

 しかしながら、迫る納期への危機感は輸送船を保有する会社を海へと駆り立てた。荒れた海を進む事となった船員たちを犠牲にして。

 

 「納期に間に合わないのはわかるけどよぉ、なんでったってこんな嵐の中行かにゃならんのだ?」

 

 すっかりグロッキーになった船員たちの中の一人。ソコソコの場数を経験した中年の船員・ムラタがぼやいた。政策のポカにより派遣社員として雇われた身ではあるが、その技量は正規の船員にも匹敵する。

 

 「ぷけけっ、まあ確かに珍しいわな」

 「じいさん非番だからって酒かよ」

 「あー?悪いか?」

 「いや悪くはないけど………吐くなよ?」

 

 そんなムラタのぼやきに乗る初老の船員はキミズ。彼は非正規であるが勤務はムラタよりも長い。船員達の長老のようなポジションだ。

 

 「思うに………社長が焦っているんやろうな。納期もそうやけど、セオベイドに」

 「セオベイド?世界中に現れたゲームキャラに?」

 「ぷけけ………セオベイドはワイらと価値観がちゃう。やからワイらみたいに、世間パワーで押さえつけて、低賃金で働かせるいうんは無理なんや。おまけに、技術もワイらよりずっと上」

 「つまり………このままセオベイドが増えたら働いてくれる人間も、会社のシェアも奪われる。みたいな?」

 「ピンポーン☆ぷけけ、実際本土の方じゃ、なんかのブラック企業がセオベイドキレさせて潰されたみたいな噂聞くしなあ………」

 

 赤ら顔でプケプケと笑いながら、検問を掻い潜って持ち込んだカップ酒に手を伸ばすキミズ。歳なんだからそのへんにしとけとムラタが止めようとしたその時。

 日常を引き裂くようなビーッ、ビーッという甲高いサイレンが響き渡る。一瞬硬直したムラタであったが、すぐに就職時に受けた研修の内容を思い出し、立ち上がる。

 これは、緊急時………たとえば、船に重大な危険が生じた時などに鳴るものだ。

 

 「うえっぷ!?どうしたんだ!」

 「わからん!何が…………ああっ!?」

 

 酔いも冷め狼狽えるキミズとムラタ。船内がパニックに包まれる中、彼等のいる部屋の窓に早くもその元凶となった"トラブル"が姿を現す。

 嵐の暗い海に巨体を揺らすそれは、まさしく………。

 

 「「せっ、戦艦だァァァーーーーッ!!」」

 

 いいえ、それは輸送艦。

 それを指摘するほどミリタリー知識のある者は、ここには居なかった。

 

 

 ***

 

 

 虹の日の混乱の余波はまだまだ続く。セオベイターとセオベイドが現れてからまだ日は浅いからだ。

 いくら調和と平穏と変わらぬ日常という同調圧力によって形作られた日本といえど、こうも違う種族と否が応でも共存していくとなれば嫌でもトラブルは起きるもの。

 今日もそうであるように………。

 

 「助けてくれええ!!」

 『うるさい黙れぇ!!』

 

 黄色い基本カラーに黒い縞模様で彩った、一目で解るザ・作業用ロボット。由来をライトノベル原作のアニメ作品「ある都市の魔法道士」に持つそのロボットは、劇中で街の警備隊が乗り込んで、暴れる能力者を取り押さえるために緊急で使用した作業用ロボットであり、特に名称はない。

 しかし名無しの権兵衛では作者が困るので、ここはインターネット上の名称から取って「ノリコロボ」と名付けよう。

 そのノリコロボが、本来の持ち主であるセオベイターの男を巨大な腕で伝えて、聞き知らぬ女の怒声を飛ばしながら山中にある工場跡に陣取って吠えている。

 周囲はパトカーと警察官に囲まれている。それでも強気なのはノリコロボの異能ラノベらしからぬ気合の入った性能と、その気になれば警官隊など踏み潰せるであろうその18mの巨体故に、だ。

 もっとも、劇中そのノリコロボは能力者を相手に手も足も出なかったのだが………。

 

 あるセオベイターの男………仮に犯人と呼ぶ………が、別のセオベイターの男を人質に取り籠城した。

 犯行理由は、人質にされたセオベイターの男の恋人のセオベイド「桃園凛子(モモゾノ・リンコ)」に関する事。

 彼女は美少女麻雀漫画「ハナゾノ」の登場人物であり、この漫画はいわゆる"百合"、女性同性愛モノである。しかし凛子はその豊満なバストからエロ方面でも人気が高く、百合を愛好するファンと日々ネットで小競り合いが起きている。

 …………もっとも、そのハナゾノでさえ元々は主人公とフラグの立った男性キャラがいたし、後からファンの声を受けて百合作品になった代物だが…………。

 人質になってるセオベイターの男は異性として桃園凛子を愛しており、SEOにおいても夫婦関係を結んでいた、その凛子がセオベイドとして現実世界に現れ、再び夫婦として生活するようになった。

 が、ここで犯人が激怒。犯人は百合愛好家であり、SEO時代から凛子と愛しあうセオベイターの男にいちゃもんを付けていた。そして今回、現実世界においても犯人は事を起こし、彼の持っていたノリコロボを強奪して立て籠もったのだ。

 犯人の要求はずばり、セオベイターの男と凛子の夫婦関係の解消。つまり離婚と、凛子が原作通り美少女と愛しあう百合属性美少女に戻る事。要求が受け入れられない場合は、セオベイターの男を殺すと言ってきた。

 

 「…………ちょっと待って」

 「どうしました?」

 

 セオベイターの起こした事件というわけで、脳特隊として専用車で現場に向う凪は、事件の内容を報告されておかしい点に気づいた。

 報告にあった犯人と、実際にノリコロボの拡声器から聞こえてくる声が噛み合わないのである。

 

 「犯人は男だよね?なんで女の声が………」

 「アバターが女性だったんです。だから、セオベイター化した途端女体化して」

 「なるほどね………」

 

 どこかの精神学研究者が言っていた。曰く、SEO筆頭に人間がゲームで使うアバターを組んだ時、当人がなりたがってる理想の姿になるという。

 それが事実と仮定すると、過激派(めいわくな)百合愛好家である犯人が美少女のアバターを使うのはある意味必然と言える。

 やがて凪を乗せた専用車は事件現場にたどり着く。凪が車から降りると、状況を見守っていた人々からピンクの髪の美少女が凪に向かって飛び出してきた。

 

 「お願いします!主人を、主人を助けて!!」

 

 泣きついてきたのは件の桃園凛子女史。そのどゆんだゆんと揺れる乳房と自身の滑走路のような胸を見比べて思わず表情が引きつりそうになったが、今は仕事だと頭を冷静にして凪は答えた。

 

 「ご安心を奥さん、脳特隊の使命にかけて必ず………」

 

 ニコリと安心させるように微笑むと、凪は拡声器を手に一人歩いてゆく。一人では危険だと近寄ろうとした警官隊や班員を手で「来るな」と無言で静止すると、そのままノリコロボの眼前………攻撃が届く場所まで進んでゆく。

 

 『誰だお前は!!』

 

 ノリコロボから犯人が怒声を飛ばす。山のような巨大ロボから響く地響きのような罵声を前にしても、凪には少しも応えない。

 

 「内閣安全保障室・電脳異変災害特設対策室専従班班長、紅凪です。あなたは完全に包囲されています。無駄な抵抗はやめて、人質を開放して大人しく投降してください」

 『うるさい政府の犬が!調子乗ってるとこのクズをこの場で殺してやるぞ!!』

 「ひいいっ!!」

 

 ぐいっ!とノリコロボが人質にされた男を締め上げ、背後から桃園女史の悲鳴があがる。

 そんな事態においても凪は表情を崩さない。端から見れば冷たい女に見えるが、これも全て凪の作戦の内。

 

 「やめなさいって、キャラクターの解釈なんて人それぞれじゃない」

 『私はこいつみたいな百合に挟まる男は殺すべきだと思ってる!それが世界の常識!』

 「そんな狭い世界のルールは常識とは言わないのよ」

 

 見ようによっては犯人を無駄に煽っているようにしか見えない。が、その場にいる感の良い者はすでに気づいていた。ペースは、凪の側に乗っていると。

 

 『お前に何がわかる!?それまでもそうだ!こいつらは尊い百合を踏みにじって………!』

 

 凪も一般人であるが、今の時代人並みにアニメや漫画も楽しむ。物語を嗜む者として、それを台無しにされた側の怒りも理解できる。

 

 「みーんなそう思うの、男も女もね。推しのカップリングが成就しなかった時は特に、ふざけんじゃねえって。推しを粗末にすんなって。推しが結ばれない原作なんか、ブッ叩いてオワコンにしてやるって。そういう自分を見れば、きっと原作者もファンを無碍にしたことを悔やんで、目を覚ましてくれるって」

 挿絵(By みてみん)

 特に、小さい頃好きだった「スターマイン☆ラブピュア」で検索をかけた時に、男性向け展開としてネット配信限定でやっているお色気路線スピンオフが出てきた凪ならなおのこと。

 

 「でもそれは、間違いな訳。ファンの想いが腐った公式を動かすとか、そういう風なんて全然どこにも吹いてないないわけ」

 

 だからこそ、フィクションを楽しむ大人として、この手のバカに突きつけるのだ。

 わきまえろ、イキんな。と。

 挿絵(By みてみん)

 「バカなオタクのバカなやらかしが、SNSのトレンドを飾り立て、厄介ネチズンの嘲笑の種になる頃、作者は主人公とヒロインをくっつけさせて、子供ポコポコ産ませちゃって、その子供が続編の主人公になっちゃったりして、それはそれで評価されてソコソコな人気作品になったりして…………それで世の中、丸く収まったりするわけよ。どう?バカバカしいと思うでしょ?」

 

 犯人は完全に聞き入っている。どうやら、凪の説得が効いているらしい。心なしか、ノリコロボの発する威勢も弱まったようにも見える。

 そりゃそうだ。凪の言っている事は寸分ズレない正論であり、非は言うまでもなく犯人にある。その事には薄々犯人も自覚していたようだ。

 

 「だから、ね?もうやめにしましょ?無理して祝えとは言わないけど、黙って離れて推し変するぐらい許されるって」

 『じゃあ…………モモセツより尊い百合カプを紹介してくれんのかよ?』

 「甘ったれんな、政府はそこまで面倒は見ない」

 『て………てめえぶっ殺してやるうううううう!!』

 

 しかし、あろうことか最期の最期で神経を逆なでしてしまった。

 怒れる犯人はノリコロボの腕を振り上げて凪に向かい突撃する。

 やられる!と皆が顔を覆ったが、迫る特殊アルミ合金の鉄拳の風圧で髪を靡かせながらも、凪はにっこりと笑っていた。

 

 「…………やれ」

 

 そりゃそうだ。彼女が欲しがったのは時間稼ぎ。準備が完了した今、あとは犯人の怒りを煽って注意をそらすだけ。

 凪の思惑通り、次の瞬間には人質を握っていたノリコロボの右腕が飛んだ。

 

 『は…………?』

 

 数コンマ遅れて、犯人はノリコロボの右腕が切り落とされた事。そしてライデンソードを構えた乙葉が空を待っている事に気づく。

 さらに次の瞬間、今度はノリコロボの脚部に爆発が起きた。

 

 『あきゃあ!?』

 「喰らえぇっ!!」

 

 その攻撃を放ったのは身を隠して接近していた九郎太。バランスを崩したノリコロボにさらなる追い打ちとばかりに、SEO当時から使用している愛用武器「ロケットランチャー"メガトンDD"」を続けて放つ。

 ズドォン!!と鈍い爆発が起きる。今度こそ脚を破壊されたノリコロボはそのまま仰向けに倒れ、工場跡を倒壊させる。

 粉塵と共に倒れてきた瓦礫の下敷きになるノリコロボ。なんとか立ち上がろうとするが、簡単に逃がすモッツァレラ小隊ではない。

 

 「トドメだ、ミーニャ!」

 『ラージャ♪』

 

 最期の仕上げは山中に潜んでいた、ミーニャの操るドリル戦車のディグバスター。

 機体上部の砲台からズドン!と一発。ノリコロボに向けて飛んだ弾頭はその真上で弾け、捕縛用の巨大な(ネット)になり、ノリコロボに覆いかぶさり、拘束する。

 その間、僅か数秒。あっという間に無力化されたノリコロボに警察官が殺到し、人質の男は開放されて桃園凛子の元に駆け寄る。

 

 「…………あんたの勝ち」

 

 ニッコリと笑い、九郎太にサムズアップを送る凪。ファンファンと鳴るサイレン音をバックに、九郎太もそれに答えるように親指を立てる。こうして、白昼に起きた事件は幕を閉じた。 

 …………今日もまた、セオベイター絡みの事件を解決してみせた脳特対であるが、彼等に対する市民の感情は万々歳とはいかないのである。

 

 

 

 

 

 ※今回使用したメガホンのイラストはillustACのかくうさ様が作成した素材を使用しております https://www.ac-illust.com/main/detail.php?id=22264740#goog_rewarded

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ