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サイバーエデン・オフライン〜サ終したゲームが現実に侵食してきたのでヒロイン達と共に平和のために戦います〜  作者: なろうスパーク
WAVE02「子供のゲームや漫画を取り上げる時はその後の一生恨まれる覚悟でやれ」
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2-7

 …………モッツァレラ小隊メンバーとしてのミーニャ・ドロッセルの猛威は、その悪名を轟かせた出演作と並んで語られる。あるイラストsnsではアニメ本編でのミーニャとは別に「モッツァレラ小隊のミーニャ・ドロッセル」の記事が作られる程だ。

 バイト代から家族に徴収された後に残るなけなしのお小遣いによる課金でNPC乙葉を手に入れた九郎太が、その時やってきた期間限定のアイドルサイアーNPCピックアップガチャで手に入れたのが、ミーニャのモッツァレラ小隊加入時のエピソード。

 

 戦闘においては持ち前の残忍さから来る容赦のないスタイルでチームの切り込み隊長として活躍。また、巨大戦においてもその攻撃性を表すかのようにドリルマシン・ディグバスターに搭乗し、戦力の中心として敵対するプレイヤーを震え上がらせた。

 プライベートにおいては九郎太を「クー兄ぃ」と呼び、誘惑してからかったり、リアルの辛さに打ちのめされた九郎太を遊びに連れ出し、妹キャラを由来とする明るさと行動力で彼の心を支えた。

 そして、乙葉や"3人目"と合わせて九郎太と情熱的に愛し合い、その悲しみを受け止め癒やした、モッツァレラ小隊の掛け替えのない俺の嫁(なかま)の一人。

 

 その、ミーニャが。

 モッツァレラ小隊の仲間であるハズのミーニャが、原典の一つで乗っていたI-DOLEオファニムを駆り、九郎太と乙葉の前に現れた。

 そして彼等が立場上守る存在である政府に銃口を向けている。それが意味する事は一つである。

 

 「………おひさ、クー兄ぃ」

 

 いつも聞いていた、あのスーパーボールが跳ねるような声色とは逆ベクトルの一言がオファニムから聞こえてきた。

 

 「………こっちに来てんだな、ミーニャ」

 「うん………今までイギリスに居たの」

 「そうか、道理で会えないわけだ…………」

 「そこでセオベイダーによる革命に参加してたわ」

 「反政府活動………まあ、そうなるか」

 

 感動の再会と呼ぶには、交わす言葉の文面を除く全てが悲劇。

 もしこれがフィクションであればお涙頂戴の三文芝居、創作物として見ればあまりにお粗末な内容であり鼻で笑っただろうが、現実で我が身に降りかかるのであれば話は別。

 

 「………クー兄ぃ」

 

 改めて声色が鋭くなる。原典では蠱惑的に嘘をつく彼女であったが、今ここに込められている意志は本物。

 

 「クー兄ぃどいて、ニコライ(そいつ)殺せない」

 

 明確に敵対の意志を示されたが故に九郎太の心は僅かなショックを受ける。と同時に、やっぱりかと納得もしていた。

 

 「………それは出来ない。今の俺達は、政府の側の人間なんだ」

 

 故に、ここから先には通せない。何もかも投げ出せば楽にはなれたが、それはあくまで最終手段。

 それにロボット怪獣、分類上はスーパーロボットに分類されるメガフェンサーとリアルロボットのオファニムなら、一対一での結果は目に見えている。

 

 「………どうして?」

 「ッ………」

 「どうしてそんな事言うの………!?」

 

 ………つまる所、九郎太は高を括っていた。戦力差を見ればミーニャは投降してくれると。

 が、その希望的観測はミーニャのどんどん激しくなる声色と共に、ひっくり返される事になった。

 

 「クー兄ぃはそんな事言わない!!自分に嘘をつくような事絶対に言わないもん!!そんなのクー兄ぃじゃないッ!!!」

 

 激昂、そして嘆きを含んだ叫び。爆発するミーニャの感情に呼応するがこまとく、オファニムの頭上に光と共に現れる"アイテム"。

 それは、SEO内で使える消耗品の道具………ゲームを有利に進めるためのアイテムの一つ「錠薬D」だ。

 ボディビルのダブルバイセップスのポーズが描かれたカプセル状のアイテム。その使用推奨状況は「巨大な敵と対峙したとき」。

 して、その効力は………

 

 「キョ、ダ、イ、カぁあああっ!!」

 「うお…………!?」

 

 錠薬Dを取り込んだオファニムは、そのボディを大きく拡大させた。錠薬Dの効力、それはアバターの巨大化。

 よく「レンジャー物」で見るような怪人の巨大化の再現のために、該当作品の巨大化アイテムの外見(スキン)に着せ替える事が流行したものだ。

 

 「どいて、どいてよぉっ!!」

 「来たぁ!?」

 

 メガフェンサーと十分に戦える50m級にまで巨大化したオファニムが、腰のバインダーから引き抜いたカーボンナイフを手に向かってくる。

 

 「………ミサイル、発射!!」

 

 咄嗟に乙葉がメガフェンサーの脚部の誘導ミサイルを放つ。放たれたミサイルは孤を描いてオファニムに飛来する。

 が、着弾の直前にミーニャは操縦桿を引く。するとオファニムの機体は空に向けて飛び上がり、ミサイルは互いにぶつかり合い自滅した。

 

 「避けた!?」

 「早いッ!」

 

 驚く乙葉と戦慄する九郎太。元々が軽量かつ素早い機体であるオファニムは、バインダー内のバーニアと元々の挙動の素早さを利用し、瞬く間にメガフェンサーの頭上に回る。

 

 「やああああーーーっ!!!」

 

 リニアライフルを一度捨て、オファニムは両手でカーボンナイフを握りしめて斬りかかる。

 まるで剣でトドメを刺そうとするスーパーロボットのごとき光景だが、落下速度に加えて両手持ちによるパワーを込めた一撃は絵空事ではなく実際に高い威力を持つ。

 対するメガフェンサーは、迎撃よりも早いオファニムについていけず。

 

 「ぐうッ!!」

 

 両手を交差させ、カーボンナイフの一撃を受け止めるしかなかった。

 金属同士がぶつかる事によるガキィン!という鈍い音が響き、メインカメラ越しに火花が散る光景が、九郎太の視界を覆う。カーボンナイフが小刻みに振動し、メガフェンサーの装甲を削ろうとしているのだ。

 

 「お、お姉ちゃん!ミサイルを!」

 「ええ!」

 

 一度間合いを開けなければ、とミサイルを放とうとする乙葉。だが、ミーニャはその手は既に読んでいる。

 

 「ふんッ!」

 

 バキィッ!と、オファニムの蹴りがメガフェンサーの向う脛………ミサイルポッドに突き刺さる。

 破壊にこそ至らなかったものの、突発的な一撃によりハッチはひしゃげ、ボンッ!という小規模な爆発が起き、メガフェンサーは体勢を崩してその場に跪く。

 

 「わ…………!?」

 「クー兄ぃ、あたしそのマシンに乗ってたのよ?弱点だって解ってるんだから」

 「弱点、だと?」

 「二人しか乗ってないんじゃ、メガフェンサーの真の力は発揮できないって!」

 

 メガフェンサーが体勢を崩した事で、オファニムは更に踏み込んでくる。カーボンナイフは既にメガフェンサーの装甲に切り込みを入れ、その宇宙金属で構成された機体にスパークが散る。

 

 「うあ………っ!」

 「………クー兄ぃ、もう一度言うよ?そこをどいて」

 「ミーニャあ………っ!」

 

 メガフェンサーは、怪獣が故に耐久力が高い。オファニムが原作での活躍のように瞬殺できないのはその為だが、ミーニャにはそれが九郎太の硬い意志のように思えた。

 だから。

 

 「…………どうして?」

 「ミーニャ?」

 「………どうしてクー兄ぃが、あいつを、ニコライ・クリストファーを庇ってるのよ?」

 

 思わず、そんな一言が漏れる。そしてそれが亀裂を広げたらしく、ミーニャの内に秘めた想いはダムの崩壊による鉄砲水がごとく、眼前のメガフェンサーに襲いかかった。

 

 「あいつが、何をしたか解ってるの!?あいつはSEOをサービス終了に追い込んで………あたしや乙姉ぇを一度殺したのよ!?」

 

 仕事だからと割り切り、見ようとしていなかったSEO日本サーバーチャンピオンとしての自らの行動の矛盾を突きつけられ、九郎太は息が詰まった。

 

 「わかる?突然周りが真っ暗になって、身体を構成しているデータがバラバラになりそうになるって!自分が無になっちゃうかもって恐怖が!それをあいつはッ!つまらない自己満と正義感のためにあたし達に味あわせた!!」

 

 元プレイヤーとして、SEOという居場所を奪われたという視点だけではない。そこに生きていた彼女達セオベイドからしたら、ニコライはまさに"自分達を一度殺した相手"であると。

 あの時乙葉に起きた過呼吸とパニックも、彼女の中にあるセオベイドとしての根底の本能的恐怖によるものだ。

 

 「クー兄ぃだって、あいつの横暴のせいで生き甲斐を失って…………ずっと、ずっと見てたんだよ?」

 「ずっと…………?」

 「見てられなかった………クー兄ぃがどんどんやつれて、死にそうになって、悲しんで…………そして悔しかった!今すぐ飛んでいって抱きしめてあげたいのに、現実(そっち)虚構(こっち)を隔てる壁が邪魔をして!」

 

 そういえば、セオベイドはSEOが閉じた後もサーバーを通じてプレイヤーを追っていたとギャロップが話していたなと、九郎太は思い出す。

 同時に、これまでの自分が病んで苦しんでいた様を彼女達は………なんなら、今一緒に戦っている乙葉も知っている事も。

 

 「あたしだけじゃない!他のセオベイドも、元プレイヤー(セオベイター)も、皆があいつに何もかも奪われたのよ!?クー兄ぃだってその一人じゃない!!」

 

 そしてそれは、九郎太だけの問題ではない。

 ニコライによって全てを奪われた、ひょっとしたら自分より深刻な状態になっていたであろう元プレイヤーなんて、いくらでもいるだろう。

 それらの一部は、もしかしたら既にこの世におらず、かつての仲間であり恋人でもある人物が死にゆく様をサーバーから見ているしかなったセオベイドも少なくない。

 それぐらいの想像は九郎太にもできた。

 

 「じゃあ…………じゃあなんでニコライを守るのよ!?あそこにいるのは全てのセオベイドの敵、バカみたいな理想のために私達を殺して!大事なものを全部壊した悪魔なのよ!?クー兄ぃはSEOの日本チャンピオンでしょ!?ならなんであいつを庇うのよ!あいつはあたしにとってもクー兄ぃにとっても敵なんかんねッ!!」

 

 故に、自己の矛盾を直視した結果、九郎太は何も言い返せなくなった。

 オファニムの外部スピーカーの向こうで、ミーニャのすすり泣く声が聞こえる。それが余計に九郎太の心を抉った。

 

 「ぐす………ッ、あいつが余計な事をしたから、クー兄ぃはボロボロになって、あたしも乙姉ぇも殺された………だったら、あいつは死ぬべきじゃない!そんな奴守る必要なんてない!!正直になってよクー兄ぃ!!苦しいことなんてしなくていいの!!もう、こんなの…………こんなのぉ…………っ!!」

 

 まるで振り子か吊り下げられた五円玉のように、九郎太の心は揺れた。

 まるで、ウィンダムZAADの最終回のラスボスと主人公の対峙のようであった。あれも、世界に絶望して滅ぼそうとする狂気の的に対し、それまでの地獄により疲弊した主人公が言い負かされる………つまりは、こんな世界滅んでいいと思ってしまうという展開であった。

 当時は主人公が幼稚だとして批判されたが、今見てみればそう思ってしまうのも当然とも言えるし、何より今の九郎太なら改めてその気持ちが嫌でも解る。

 それでも。

 

 「…………そう、だけどッ」

 

 それでも、守りたい世界があるんだ。そんな主人公のような、どれだけ絶望しようが決して絆を諦めない男が言える台詞を言えるほど、九郎太は立派な人間ではない。

 

 「弟くん………!?」

 「違うな…………だからッ!」

 

 けれども、引けない理由がある。

 それは国家の犬が故の義務感でも、秩序を守るという正義感でも断じてない。

 九郎太の精神に呼応し、メガフェンサーがカーボンナイフで腕を削り、火花が散ろうとも立ち上がった理由。

 

 「えっ!?」

 「だから、俺は、引けないんだァーッ!!」

 

 それはミーニャの望みと同じ。あの日、SEOで気ままに遊んだ日々と同じ。

 九郎太が心の底からそうしたいからという、プリミティブな行動原理。それが、メガフェンサーを再び大地に立つスーパーロボットへと押し戻した。

 

 「何よそれッ!意味わかんないよクー兄ぃッ!!」

 

 メガフェンサーが勢いよく立ち上がった事で、カランッ、と巨大ロボ用としては軽い音でカーボンナイフが落ちてしまったが故に、攻撃手段を失ったオファニム。

 ならば次はと、腰にマウントしたレールライフルを撃とうとしたが。

 

 「俺もニコライの野郎は憎い!できるならこの手で殺したい!」

 「だったら!」

 「だからだ!」

 

 より早く、メガフェンサーがレールライフルを掴み、上へと銃身をずらす。

 電磁加速された弾丸がダダダと天空に放たれる中、メガフェンサーは持ち前のパワーでレールライフルを握り潰し、爆発。

 

 「この怒りは………俺一人の物じゃないんだーーーッ!!」

 

 そして全力を込め、その宇宙金属製の剛腕を振るい、オファニムを殴りつける。

 外宇宙技術によるモーターが躍動し、異星の金属で固められた腕は大質量の破壊兵器と化し、オファニムのか細いボディへと襲いかかった!

 

 バキィン!!

 「きゃあああああーーーーっ!!」

 

 激しい振動に襲われ、コックピットで身体を激しく揺さぶられながら、ミーニャとオファニムは物凄い勢いで後ろに吹っ飛ぶ。そして合金のボディを数度回転させた後、オファニムはようやく止まった。

 日本サーバーチャンピオンとしての練度の差故か、オファニムは一発殴られただけだというのに、全身から火花を散らしてぐったりしている。

 目に見えてわかるダメージだ。

 

 九郎太はミーニャの本編での悪行を知っていた。それでもミーニャを仲間に迎え入れたのは彼女を愛していたからだ。

 故に、どれだけ「こいつは殴られても仕方ないですよ!」と周りの正義感でしか物事を判断できない馬鹿に励まされようと、"嫁を殴った"事への罪悪感は消えない。

 

 「…………ごめん、ミーニャ………」

 

 乙葉はコックピットの様子は見なかったが、九郎太の口元が苦悶に歪んでいるのは想像に難くなかった。 

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